第66話 バニーガールが悪い意味で流行っていた
「うむ、よく来たな!! ハーゼよ、そなたの大活躍、余の耳に届いておるぞ!!」
三日後、私はエアツェールング城に呼ばれた。今日はお供にミルドレッドを連れてきている。
玉座の間で私はヘンゼル・ド・エアツェールング三世の前に、跪いていた。
彼の格好は真っ赤なバニースーツに、赤いマントを羽織っている。うさ耳は金細工であしらったもので、王冠の代わりだろう。
右にはトビーアス将軍が銀色のバニースーツを着ていた。布ではなく、金属の板で作られていた。細工も見事であり、芸術品と思わせる。
こめかみをひくつかせ、歯を食いしばっている。あまりの屈辱に魂が抜け出そうな感じだ。
左には宰相フローリアンが立っている。金色のバニースーツを着ており、こちらは燕尾服を着ていた。
こちらは涼しい顔をして、私の方を見ていた。
「はい、これもすべてヘンゼル陛下のためでございます。この身は陛下にささげております」
「はっはっは! 口が達者だな! よいよい、ではフローリアン、話を進めよ」
ヘンゼル陛下に命じられ、フローリアンが前に出た。そして目録を読みだす。
私が公爵になること、ヴァイスシュネーの家名を受け継ぐこと、そして天空城を所持する私の領土はエアツェールング王国の大空ということである。
「もちろん、あなたの領地は空だけです。勝手に人の土地に降りてはいけません。降りるならその土地の領主に土地代を支払ってもらいます」
フローリアンが説明する。そりゃそうだろう。エアツェールング王国全土の上空と言っても、土地は別なのだ。
もっとも天空城をいちいち降ろす必要はない。魔法陣を利用すれば、重くて数の多い品物をいくらでも持ち運びが可能である。
ちなみにウソップ山はシュピーゲル領の物で、ウィス樹やアズキゴケの料金は支払うことになる。
まあ、料理ギルド以外使えないので、そんなにかからない。ウィス樹の酒はうちが扱うこととなった。ビスマルク卿は自分たちではたどり着けないので、税金を払うだけでよしとしたのだ。
これで北のウィス樹の酒をこちらに卸せるようになった。シュピーゲル領から人材をよこしてもらい、作業してもらうこととなる。天空城も人員を募集し、常時待機してもらう形にした。
今の私は王国一の金持ちとなるだろう。天空城の力はそれほどなのである。もちろんエアツェールング王国に謀反などしない。それ故にこちらも王国に譲歩しなくてはならないのだ。
「ハーゼ・ド・ヴァイスシュネー公爵よ。そなたの仕事は山ほどあるぞ。なぜならそなたは料理ギルドのマスターだけでなく、我が王国の上空を守る役目があるのだからな!! そなたにふさわしい婿は余が見繕う故、しばらく我慢してもらおうか!!」
ヘンゼル陛下はひたすら明るかった。今まで頭の周りにまとわりつく、黒い霧が晴れたような感じである。
「それよりもハーゼよ。そなたが発明したこのバニースーツは恥ずかしいな! 胸元は広がっているし、体の線もはっきり浮かんでいる! それに股間の部分もやたらと切れているし、尻も丸出しだ! こんな衣装をよき着ていられるな。余ならその神経を疑うぞ!」
げらげら笑いながらヘンゼル陛下は楽しそうだ。恥ずかしいと言っているが、どこも羞恥心が感じられない。
横にいるトビーアス将軍が恥ずかしくて死にそうである。あれが普通の反応なのだ。
フローリアン宰相は無表情である。主の命令をただ守っているだけなのだろう。
「ルドルフに勧められたが、まったく困ったものだ! やつはいつも強引で、余のしたいことをすべて否定する! 許しがたいことだ!」
「……なら、拒否しろよ。なんでこんな目に……」
ああ、トビーアス将軍は我慢の限界が来そうである。
「あとグレーテル殿下は謹慎中です。現在殿下の着るバニースーツの寸法を測っており、完成するまで、軟禁状態ですね」
「なんかかわいそうですね」
グレーテルはしばらく城を出られなさそうだ。まあ、彼女に振り回されるのは簡便なので、静かにしてほしい。
「それにしても陛下にバニースーツを着せるなど……。ルドルフ氏は何を考えているのでしょうか?」
「はっはっは! そんなこと余が知るわけなかろう! だが推測はできるな、最近ルドルフとトルステンはこの服の有効性を理解しているのだろう。このうさ耳はなかなかのものだ、テレパシーほどではないが、人々の心臓音を聴き分けることができるぞ! さらにバニースーツは魔力を溜め、それをこの網タイツに伝達する。これのおかげで疲労感がまるでないのだ。どうだ、トビーアスにフローリアンよ。ルドルフの言った通りであろう?」
「その通りでございます。できればすぐに着替えたいのですが」
「だめですよ、トビーアス。着替えることは許しません。それにあなたが羞恥心でぷるぷる震える様は、メイドたちに好評なので、しばらくは無理ですね」
「何が好評だよ! こんなのは、女だけが着ていればいいじゃないか!! なんで俺まで着なくちゃいけないんだよ!!」
「あなたが嫌がるからに決まっているでしょう。私は陛下に命じられれば、親兄弟を手にかけますね」
ヨルク氏はともかく、エリザーベトを殺せるのだろうか。ちょっと疑問を抱くな。
ふとフローリアンと目が合う。彼は首を横に振る。父親と姉には勝てないということか。
さて、謁見は終わりである。私たちは城を後にした。
☆
「がっはっはっは! ヴァイスシュネー公爵よ、おめでとうであーる!」
「むーん、ほんにおめでとうでござんすな。」
料理ギルドに帰ってくると、そこには料理ギルドの前任者ルドルフ・ド・マッケンゼンと、裁縫ギルドのマスター、トルステン・ド・ヨルクが私の部屋でソファーに座っていた。
ふたりともバニースーツを着ている。中年親父がバニーガールになる姿は異様だ。
マッケンゼン氏は白で、ヨルク氏は黒だ。
マッケンゼン氏は筋肉ムキムキでまるで鎧を着ているような風貌だ。肌は褐色で白いスーツが際立っている。
ヨルク氏は中肉中背の中年男性だが、アフロヘアが特徴的だ。男のバニーは正直気持ち悪いので、目を合わせたくない。
「がまんですよ、マスター。この方々はもうすぐ帰りますので」
副マスターのマギーが耳打ちした。彼女もげんなりしているようだ。
「ところでヘンゼル陛下は元気であったか? 最近の陛下はとっても明るくなり、健康的になったのであーる!」
「そうでござんすな。国王になってから、初めてとちゃいますかね。まあ、うちらが力不足やさかい、陛下には不安を抱かせて申し訳ないわ」
「……そうですね。陛下はバニースーツを着て、不満を抱いてましたが、語尾に不満はないように思えました。今回はおふたりにお聞きしたいことがあるのです」
「ん~~~? 何を聞きたいのであるかな?」
私は一旦口を閉じた。そして改めに思っていたことを口にする。
「おふたりは私をヘンゼル陛下の正室にしたいのですよね。それはなぜですか?」
「そりゃー、お前さんが異世界転生者の元男だからさ。陛下は女嫌いや、欲深く、嫉妬深い女に近づいてほしくないんや。だからお前さんなら身体は女でも、心は男だからな」
「……それはヘンゼル陛下も身体は男だけど、心は女だからですか?」
この部屋にいた全員が青ざめた。やはりなと、私は核心を得た。




