第62話 まぼろしネズミとアイアンアーム
ああ、俺様はどうしてここにいるのだろうか。どうして、俺様は生きているのだろうか。
ちょっと哲学っぽく決めてみたけど、俺様は学がないから勘弁な。
今、俺様は大勢の魔物たちに囲まれている。タマネギの魔物、マネギンはもとより、森カバやカワハギ熊などの獣タイプもいた。
さらにゾンビのゲロハークや、殺戮人形のキラーペパットなどいろいろだ。
そして、なぜかデーモンスリーの三匹もいる。
ジルコニア・アイ。七色デビル。絶交仮面だ。
あいつらはこちらを見て、にやにや笑っていた。なんかイラっとくるな。
それに俺様の前にはコロッケにホットケーキなど様々な料理が並べられている。こちらは料理ギルドの人間がわざわざ持ってきたそうだ。
「ニョホホホホ。今日は宴ザマス! 何せまぼろしネズミはあのハーゼから逃げ切ったザマスからね!! あのデーモンスリーを一蹴したハーゼから逃れたのだから、それはすごいものザマス!!」
大魔女さまが俺様を褒めたたえる。やめて、俺様の心はガラスなのよ。叩かれたら割れちゃうわん!
「わーい、まぼろしネズミさまはすごいや!」
「あの魔物みたいな、いいえ、魔人を超えたハーゼから逃げられたんだもの!」
「まったく、すばらしい魔物だ! まぼろしネズミさまは偉大な指導者にふさわしいお方だ!!」
マネギンたちが褒めたたえる。一般的なマネギンだけでなく、メイジマネギンやキングマネギンたちが勢ぞろいだ。
こいつらは逃げてきた俺様を軽蔑してくれないのか。盲目的に心酔されるとこちらが困るんだけど。
「ふん、どうせ偶然だわさ。でも、今日のところは褒めてやるだわさ!!」
うさ耳魔女のウサリーは不機嫌そうであった。そのくせ俺様を褒めているから、矛盾している。あの日か? と訊ねようとしたら、後ろからウサリーの姉で、バニーガールのバーニーが肩を叩く。そして人差し指に口を当てたのだ。黙っていろとのことだろう。
「というか、俺様が逃げられたのは、ゲルダさまのおかげなんだぞ。俺様の実力じゃない」
「ノンノン、ゲルダさまは手助けしただけよん。ユーがエスケープできたんは、ユーの実力のおかげなんだわさ。そこんところを勘違いしちゃ、だめだめ、だめなのよん」
「相変わらず意味不明な話し方だな」
バーニーは衆人の前で、軽く会釈する。その姿は堂が入っており、様になっている。
俺様より、偉そうに見えるが、実際そうなので文句を言うつもりはない。
「おうおうおう! さっきから聞いていれば、そのちんけなネズミをべた褒めしやがって! むかつくんだよ!!」
突如大声を上げた者がいた。耳がキンキンと響いて痛い。一体誰だろう。
それは馬の魔物のアイアンアームだ。巨大な鉄の腕は丸太のようで、両腕で身体を支えている。
空は飛べず、ラララ海も苦手。アイアンアーム、両腕で走る。
心貧しい、ラララ魔物の子。十万馬力の、アイアンアームだ。
ちなみに体は肌色で、黒いたてがみは角のように見えた。
「あら~、ユーはアイアンコックだったっけ? ホースフェイスはメモリーをセーブできないから、いやだわん」
「アイアンアームだ! 失礼な間違いをするな!」
「アラン、今のトークにアングリーするところあったん?」
バーニーは怒り狂うアイアンアームをからかっていた。あいつの身体は俺様より巨大だから、威圧感がバリバリである。
バーニーより一回り大きいが、臆する様子がない。あの度胸は感心するな、あまり参考にしたくはないけど。
「ちょっと! さっきから何難癖をつけているんだわさ!」
「難癖じゃねぇ!! なんで戦わずに逃げ帰ったそいつを褒めたたえるんだよ、おかしいだろう!? そもそもちんけなネズミを持ち上げるなんて、胸糞悪いったらありゃしない! 大体人間から逃げ帰ったくせに、なんで責めないんだよ!! それにデーモンスリーは笛を吹いて呼び出しただけだろうが!! そんなの誰だってできるんだよ!!」
「むむむっ! あんたのほうがむかつくだわさ!!」
ウサリーは不機嫌だ。しかしアイアンアームの言葉も一理ある。俺様のしたことは大したことじゃない。デーモンスリーは大魔女さまからもらったハヤブサの笛で呼び出しただけだ。
そんなことは誰にだってできる。
「ニョホホホホ、それならユーがその笛を吹いてみるザマス」
大魔女さまはハヤブサの笛を差し出した。アイアンアームはそれを受け取ると、口に咥える。
なぜか大魔女さまは意地悪そうな顔だ。デーモンスリーの面々もにやついている。
「ふん、こんなの簡単だ! どれ、伝説の単眼巨人、ガガガのオガーロを呼び出してやる!!」
アイアンアームは笛を吹いた。すると、身体が木っ端みじんに砕け散ったのである。
あまりに呆気ない光景なので、何かの冗談かと思った。
しかし、まったく何も起こらない。アイアンアームは本当に消えてしまったのだ。
「む~ん、ハヤブサの笛は力がない者が吹くと、身体がバラバラになるでおじゃるよ。危険な魔法具なのでおじゃる」
「しかも、身体だけではなく、魂まで粉々よ~。大魔女さまの力でも復活は不可能なわけね~」
「まぼろしネズミ殿の場合は、魔力が強い。正確にはバニーガールのハーゼとの関わりによる魔力が濃いのだ。だからこそ、我々を三匹同時に召喚で来たのだよ。おそらく、この場にいる魔物では不可能だ。まぼろしネズミ殿以外無理なのだよ」
デーモンスリーの三匹が補足した。ええ、あの笛ってそんなに危ないものだったのか!? 下手したら俺様、死んでいたじゃん、魂すら消滅していたじゃん。俺様って嫌われていたのか?
「……、そなたは自分がどれほどの存在か、理解しておらん。そもそもあのハーゼと渡り合うこと自体ありえんことなのじゃ」
大魔女さまが真面目な口調になる。なんか目付きも冷ややかだ。周りのみんなもそれに気づき、静かになる。
「実は魔物は復讐する気持ちはない。魔物は死ねばその人間の縁が切れるからじゃ。よってデーモンスリーもハーゼに倒されたが、まったく仕返しする気持ちはないのじゃよ。まぼろしネズミ、お前だけなのじゃ」
「えー、そうだったのかよ。てっきり普通だと思ってた」
「それを普通と思う、そなたが異色なのじゃよ。それ故にお主は特別な力を宿しておる。絶交仮面が言ったように、そなたはハーゼの因縁が強い。そのため自分自身は強くならないが、決して死ぬことはないのじゃ。実力とは関係なく、ハーゼ自身がそなたとの縁を大事にしたいと思っておるのじゃな」
そういえばおおかみジェットの奴はマギーに倒されたけど、復活した。
その後は復讐する気は全くなかったな。俺様みたいに復讐心を抱くのが異常なのか。
「今回の件で、そなたはさらにハーゼとの強力な因縁が生まれた。その力はやがて大魔王となるであろう。しかし、今はその時ではない。あとはハーゼが行動を起こすだけじゃな」
「あのー、もう俺様は関わりたくないんですけど~」
試しに俺様は無駄だと思ったけど訊いてみた。
「だめでおじゃる」
「だめねん」
「だめだ、諦めろ」
デーモンスリーにそう突っ込みされた。なんか悲しくなってくる。
ウサリーはなにか膨れている。なんでだろう?
「安心しなさいな。ウサリー。まぼろしネズミのハートは、ユーに確実に向いとるんよ。あとは一押し、二押し、三に押しなのねん」
バーニーがそう慰めた。何が一押しだ。妹に何を教えているんだろう。
あと、悲しいくらいアイアンアームの話題はなかった。いつも人に嫉妬ばかりしているので、嫌われているのだ。
宴は魔物一匹消えただけでは、止まることはなかったのである。
アイアンアームは手塚治虫先生の鉄腕アトムがモデルです。
手塚先生は生前嫉妬深い性格で、横山光輝先生や水木しげる先生に対して敵対心をむき出しにしていたそうです。
ただネガティブな印象より、自分の作品に対して向上心が高いと思いますね。




