第58話 シュピーゲル領がえらいことになってます
「なんだこりゃ……」
私は茫然としてしまった。まぼろしネズミも同様である。ヴォルケとグレーテルはすごいやと感心し、エリザーベトは無関心だった。
その理由はシュピーゲル領の城である。町が城壁に囲まれた典型的な城塞都市だ。
中世ヨーロッパ風であるが、衛生面は問題ないといわれている。これはマギーの言葉だ。
で、今の風景は異常であった。城門は巨大な氷に覆われており、札幌の雪まつりの氷雪像並の迫力がある。
いくら雪国でもここまで凍るわけがない。さらに城の外には旅人らしい通行人も氷漬けになっていた。
その様子を眺めていると、表情は平穏そのもので、自分の身に何が起きたか、理解していない様子である。
「いったいどういうことかしら? まったく理解できないわね」
「おっ、俺様は何も知らないぞ!!」
「別にあなたのせいだとは思ってません。そもそもあなたは何も言ってないでしょう。大抵、頭の中の指令を受けてのことでしょうね」
まぼろしネズミは安堵した様子であった。彼にここまでの悪事などできっこないことを知っている。
ヴォルケは子分として、親分を慰めるのであった。
「おや、あなた方は旅の方ですかな?」
そこに後ろから声がかかった。振り向くとそこにはひげもじゃの子供が立っている。
正確にはドワーフという種族だ。身長は幼稚園児並に低いが、丸々と太った身体は肉が膨れ上がっていた。
着ている衣装はきっちりとした貴族の正装である。一目で彼は高貴な人種であると理解した。
「お初にお目にかかります。私はエアツェールング王国に料理ギルドのマスターを務めている、ハーゼ男爵と申します」
「おお、あなたがハーゼ殿でしたか。私はシュピーゲル侯爵、ビスマルク・ド・シュピーゲル13世でございます。うわさ通りのお姿ですね。一瞬、魔物のバニーガールと思って、剣を抜きそうになりました」
そう言ってビスマルク卿は腰に佩いた剣から手を放し、ぺこりと頭を下げた。ごつい体つきだが礼儀正しさがにじみ出ている。育ちの良さがはっきりわかるね。
マギーの弟だが、彼女の血を分けたといっても納得できる。彼は先祖返りでドワーフに近い容姿だが、領内では大変な人気があるそうだ。
それにここから離れた鉱山では、あらくれの鉱山夫たちをあごでこき使っているという。肩書は伊達ではないようである。
姉と違い、まともな性格なので、私の中の好感度は高い。
「あら、ビスマルクじゃございませんか。あいかわらずちんちくりんでございますわね!」
「おや、その口調はグレーテルさまですね。姉上の手紙で知りましたが、なんとも御いたわしい姿になられましたな」
「おーっほっほっほ! わが身がぬいぐるみになっても、その身に宿る魂は不変でございますわよ。見た目に左右されるなど、まだまだですわね!」
グレーテルは高圧な態度であった。いくら姫とはいえあんまりな態度だが、ビスマルク卿は慣れたもので、暖簾に腕押し、糠に釘である。
「ほう、エリザーベト殿も一緒でしたか。ハーゼ殿と同じ衣装を身に包んでおりますが、あなたも魔物の気分を味わっておるのですかな?」
「そんなわけないでしょう!! あなたはこの衣装のすばらしさがまったく理解できておりません!! このうさ耳は大地の声を拾い上げ、ぱっくり開いた背中で大地の熱を感じ取る。そしてこの網タイツが大地の気を吸い取るという、偉大なる衣装なのですよ!!」
「……魔物扱いは気にしないのですか?」
「はぁ、それが何か? 私にとってまだ見ぬ土や石と巡り合えることが重要なのです。そのためなら魔物に魂を売っても問題ありませんわ」
エリザーベトの剣幕に、ビスマルク卿は呆れていた。彼女も幼馴染だが、ここまで変人になるなど夢にも思っていない様子である。
いや、土のために魂を売るのはどうかと思うな。でもマニアにとって大金を払うのは抵抗がないのだろう。
何百万もする等身大フィギュアが売れるのも、そういった人種のおかげだろうな。
「……ビスマルク卿、この現状はどういうわけでございましょうか?」
「それについては場所を変えましょう。今、ここで起きているすべてをお話します」
☆
私たちはビスマルク卿に案内され、城の外にある小屋へ連れてこられた。そこには数名の使用人や騎士たちが忙しなく働いている。
どうやら彼らは大惨事の生き残りのようであった。
私たちは小屋の中に案内された。ヴォルケは身体が大きいので中には入れなかったが、寒さは問題ない。
代わりにビスマルク卿は馬小屋に連れて行き、風を防げるよう毛布で覆ってくれた。
小屋の中はなかなか広く、台所や寝室、居間が充実している。なんでも見張りの兵士のために作られたものらしいが、今はビスマルク卿が主となっていた。
「わずかな食糧を私のために贅を尽くしてくれる……。事が終われば彼らに相応の気持ちを答えましょう」
「立派ですわ! わたくしたちを支えてくれるのは、名もなき大勢の庶民たちですわ! 彼らに養ってもらっているのですから、その期待以上に応えなくてはなりませんわね!!」
グレーテルも賛同している。歳は若いが貴族としての自覚が抜群だ。シュピーゲル領はこの人がいれば問題ない。
さて本題に入る。
なんでも三日前に突如都市が氷漬けになったそうだ。ビスマルク卿はちょうど猟に出ており、難を逃れたという。
都市の惨状に対し、騎士たちに檄を飛ばすと、突如空に巨大な女の顔が浮かんだ。
まるでカーテンに鏡の光が当てられたような感じだったという。
『くえーちょんちょんちょん!! わらわはライチュっち! お前たち虫けらがあまりにも目障りっち! なので、氷漬けにしてやるっち! ここだけでなく、世界中から生きとし生けるものは永久に氷像に変えてやるっち!!』
なんとも子供みたいな主張である。しかもしゃべり方がなんか、無理やりキャラ作っている感びんびんだ。
「伝説のヴァイスシュネーの初代女王、ライチュは人間を憎んでいます。なぜ沈黙を守ってきた彼女が凶行を行ったかはわかりません。ですが、放置すれば被害は我が領土だけでなく、世界全体に広がってしまいます。我が忠誠を誓うエアツェールング王国はもちろんのこと、ドクメント帝国も滅んでしまうでしょう。ハーゼ殿、この件は家名を継ぐだけではありません、あなたが世界を救う救世主となるのです」
「へー、そうなんだ。すごいねー」
まぼろしネズミは棒読み口調で褒めた。さすがに魔物でもスケールが大きすぎて、ついていけないのだろう。元々ガキ大将みたいな性格だったから、世界の命運をかける話に巻き込まれて、可哀想だと思った。
「ライチュの本拠地である天空城は、ここから遥か北に位置するウソップ山に、その入り口があります。ですがそこには伝説の魔人、デーモンスリーたちが待ち構えているとのことです」
「デーモンスリーとはどういった魔人でしょうか?」
「名前とぼんやりとした容姿しかわかりません。まずは巨人のジルコニア・アイ。三本の腕に三つの顔を持つ大猿、七色デビル。そしてケンタウロスの絶交仮面の三匹です」
なんだろう。全員、川内康範先生原作の匂いがするぞ。
それにデーモンスリーが、昔の外国アニメのノリに似ているな。
するとまぼろしネズミの心臓音が高い音を立てた。どうやら彼と関わりがあるようだ。何を要求するかはわからないけど、可能な限り叶えてあげよう。
デーモンスリーのモデルは、ドラクエ2の悪霊の神々です。あとは海外アニメのスーパースリーです。
ジルコニア・アイは特撮ダイヤモンド・アイとアトラス。
七色デビルは七色仮面とバズズ。
絶交仮面は月光仮面でベリアルをイメージしております。
三作品とも、川内康範先生原作です。




