第五話 整理整頓は基本
「ところでギルドの仕組みを教えてほしいのだけど」
私は自分の屋敷にある風呂でくつろいでいた。これはマギーが購入したものだ。
いったいいくらで購入したのか、尋ねてみたがはぐらかされた。
唇で薄く笑っており、聞かない方がいいだろう。
ちなみに屋敷は料理ギルドのすぐ近くだ。歩いて5分もかからない。小奇麗でなかなかよかった。
よくこんな物件を見つけたものだと、感心する。
さてこの世界の風呂は五右衛門風呂に似たもので、薪を燃やして沸かしている。
私はゆったりと湯船につかっていた。
ちなみにメイドもすでに雇っており、今も薪を燃やしているのだ。
「仕組みでございますか?」
マギーが聞き返した。彼女は風呂場にいる。私を見張っているのだ。
ついでにいうと彼女もここに住むという。自分の家はあるが、こちらの方が便利だそうだ。断る理由がないので許可したが。
「そうですよ。ギルドはどのような条件で、入会の許可を認めたか。そして各店への指導などをしていたか、いろいろです」
別のギルドマスターなどしたくないが、マギーが私を逃さない。
それならマスターとしての職務を全うしよう。落ち着いたらバニースーツの設計図を書けばいいのだ。
するとマギーの顔は曇った。
「お金を出せば、店の許可が出ます。以上」
え? それだけなの? ちょっとおおざっぱ過ぎない?
いや、マスターのマッケンゼンは豪快過ぎる性格だ。あんまり細かい規則などないのだろう。
「……今日見たあの調理場はなんなの? あれは何のためにあるの?」
「見栄えがするからだそうです」
「受付嬢を始め、職員は多いけど彼らは何のためにいるの?」
「その方がギルドらしいからです」
……開いた口が塞がらない。
この世界のギルドはみんなこうなのだろうか?
そうなると裁縫ギルドも怪しくなってきたぞ。
「うちだけなので、安心してください。他は真面目にやってますので」
真面目なんだ。きっとマッケンゼンのようなオッサンじゃないからに違いない。
「……私はマスターなんだよね?」
「はい。ハーゼさまは料理ギルドのマスターでございます」
「なら、明日から規則を決めるけど、問題ないよね」
「はい。まったく問題ございません」
なぜかマギーはにやりと笑う。悪だくみをしていそうな悪女の笑みだ。
なんか怖くなってきたぞ。
「私の頭には様々な調理法があります。ですが最初は職員の教育から始めたいと思います」
成り行きでギルドマスターになったが、ここまでひどいと放っておけない。
神から与えられた知識で改革をせねばならないだろう。
☆
「まずは整理整頓から始めてもらいます」
翌日私は職員を全員調理場に集めた。
ちなみに私の服はすでに完成しているという。赤を基調にしたもので、白いスカーフを首に巻いている。
「マスターハーゼ。整理整頓とはなんでしょうか?」
ひとりの男性職員が手を挙げて質問した。
「言葉通りの意味です。ここの調理場は驚くほど汚い! 調理器具も置きっぱなしでみっともないです。皆さんにはそれらをきれいに片づけていただきます」
「えー、そんなことして、何の意味があるんですか?」
職員たちが不満を漏らした。マスターになったのは認めても、整理整頓を嫌がるとはどういうことだろう。
料理ギルドの職員は料理以外やってはいけないという、意識があるのだろうか。
マギーは助け船をよこさない。おそらく私がマスターとして、どう対処するのか見極めるつもりだろう。
ここで逃げ出すのは面白くない。私はブリキのバケツを拾い上げた。
それを手刀で切断してみせたのだ。
見事バケツは真っ二つになる。我ながら自分のチートが恐ろしくなるな。
それを見た職員たちは真っ青になった。金髪碧眼の美女がブリキのバケツを真っ二つにしたのだから。
「こうなりたくなければ、言う通りにしてください」
にっこり笑ってお願いする。全員子羊のように震えあがり、各自調理場の整理整頓を始めた。
ここは私がきちんと手本を示さねばならない。私はまず職員を集め、私のやり方を教えることにした。
それと床掃除やゴミ捨てなども指導する。一時間後には薄汚い調理場はきれいになった。
「おい、これって……」
「ああ、こんなにきれいになるなんて思わなかった……」
「これ、私たちがやったのよね……」
職員たちはきれいになった調理場を見て、感動していた。
それに悪臭もしない。拭き掃除をして、ゴミも片づけたからである。
そう、感動こそがやる気を生み出すのである。努力の結果を見得る範囲で理解させることが大事なのだ。
「私としてはトイレ掃除やギルド全体の掃除をしたいですが、職員の仕事ではないので、外部から雇います。ですがみなさんもわかってくれたと思います。整理整頓がどれほど心をきれいにするかを」
「「「はい!!」」」
今度は元気よく返事をした。先ほどと違い、表情は明るい。
ふう、神の知識で拾い集めた情報が役に立ってよかった。
マギーの方は無表情だ。案外できて当然と思っていそうである。
「ところで職員さんに命じます。今からギルド加入者を調査してください。店の規模、家族構成を詳しく記してほしいのです。これは数十名でお願いします」
職員たちは首を傾げるが、言われたとおりにする。こちらはマギーがてきぱきと選任した。
マギー曰く、ギルド加入者は店の前にギルドの看板を出す義務があるのだ。
これはマギーが提案したものだという。確かにマッケンゼンなら口約束ですませていそうだ。
「残りの職員さんは私と一緒に料理を作っていただきます。これはただ作るのではなく、加入者たちのためだと思ってください」
こうして私は次のステップを踏むのであった。