第四話 今日からあなたがマスターです!
この男は何を言っているのだろうか?
初対面の人間を捕まえて、いきなりギルドマスターだと言われても、面を喰らうだけである。
目の前の筋肉男、マッケンゼンの顔は晴れやかだ。白い歯をむき出しに笑っている。
「いやー、そなたのような天才を待っておったのあーる! サブマスターは口うるさいし、自由に食材を探す旅にも行けないのであーる!! そんなわけで、後はまかせたのであーる!!」
じゃっ、とマッケンゼンはそのまま走ってギルドを出て行った。後に残るのは私と職員だけだ。
私は恐る恐る職員たちの顔を見た。おそらくよそ者に対する怒りに満ちているだろうと思った。
ところが彼らは満面の笑みを浮かべている。そこに私に対する敵対心は一切ないように見えた。
「よろしいでしょうか?」
ひとりの女性が前に立つ。銀髪のおかっぱで、赤い淵の眼鏡をかけている。女性にしては長身ですらっとしていた。人形のような顔つきで、体つきもマネキンのように生気を感じられなかった。
身に付けている紺色の事務服をぴっちりと着こなしており、上を見たら操り人形の糸で吊るされているのではと思った。
「初めまして。私は料理ギルドのサブマスター、マギー・ド・シュピーゲルと申します。以後お見知りおきを」
「はあ、そうですか……。私はハーゼ。今日、この町に来たばかりです」
マギーは事務的に頭を下げた。まるでオルゴールとかの人形のようだ。
すると彼女は指をパチンと鳴らす。
職員の女性が数人やってきた。どれも若く、あどけなさが残る。
「ハーゼさまの寸法を測りなさい。新しいマスターの服を仕立てるのです。それと前のマスターの部屋はきれいにしなさい」
「はい!!」
マギーの指示で女性たちは持ち場へ戻っていった。いや、マスターの服だって? なぜ私がそんなものを着なくてはならないのだ。
「もちろんハーゼさまが新しいマスターですので」
彼女は淡々と述べた。待ってくれ、それはおかしくないか?
今日いきなり来た人間をマスターにするなんておかしいだろう。それにサブマスターのあなたを差し置いて、マスターになるなどありえない。他の職員たちは絶対に満足しないはずだ。
「いいえ、あなた以外あり得ません」
マギーはきっぱりと断言した。寸法のためにいる職員の子もうなずく。
「まずあなたは素晴らしい才能の持ち主です。あの元マスターを満足させる料理を作ったのですから。まあ、自分の作った料理は壊滅的ですけどね」
あー、なるほど。納得した。
「さらに元マスターは仕事を全くしません。食材を探す旅に出ては様々なものを持ってきます。しかしすべてそれを台無しにするのです。その上自分の気分次第で運営しているので、職員たちは全員迷惑していました」
マギーは淡々としているが、職員たちは力強くうなずいている。確かにあのおっさんはギルド運営など無理っぽい。
というかなんでマスターになれたのだろうか。謎だ。
「最後にハーゼさまですが、あなたは常識的な思考の持ち主です。サブマスターの私を気にかけていらっしゃいましたし、むしろ才能よりも一般的な考えが大事なのです」
すると職員の子たちは涙を流した。よっぽど前のマスターに苦労させられたのだろう。
「しかし私はギルド運営などしたことがありません。それに私は酒場を開くためにここに来たのです。それと服を作るための素材も集めたいのです」
「運営は私が補佐すれば問題ありません。酒場を開くならマスターの権限で自由にできます。なんなら今の組員の店を追い出せば問題ありません」
何言ってんだ、この人。さらっと怖いことをおっしゃってるよ。
「あと服の素材を集めたいそうですが、これは裁縫ギルドに依頼すれば大丈夫です。ギルドには回収人という方がおりますので」
回収人とはこの世界では冒険者みたいなもののようだ。どんな危険な場所にも赴き、素材を集める。もちろん難易度に応じて金額は高くなるのは当然だ。
ギルドマスターなら自由に報酬金を出せるという。もちろん運営に仔細ない金額だが。
マギーは私の反論をことごとく潰していく。おそらくここが潰れなかったのは彼女のおかげだろうな。
「わかりました。マスターになりましょう。ですが住む家とかいろいろ決めないといけませんが」
「それもすべておまかえください。マスターのために快適な生活空間を提供しましょう」
そういって私は別室に連れて行かれた。そこで服を脱がされ、寸法を測らされる。
その後、職員の前で就任の挨拶をしたが、職員全員明るい表情であった。
ちなみにトロイは完全に空気になっていた。帰り際に「さすがはハーゼさんだ」と感心していた。
マギーはドイツ語で魔法という意味で、シュピーゲルは同じくドイツ語で鏡という意味があります。
つまり白雪姫の魔法の鏡というわけですね。




