第54話 ヘンゼル陛下の暴露
「よく来たなハーゼよ。余はヘンゼル・ド・エアツェールング三世である!!」
俺様は人間の城にやってきた。いや、罪人の如く、無理やり連れてこられたの方が正しい。
入る前はなんて大きな建物だと思った。ヴォルケのような雲魔人が住んでいてもおかしくないね。白い石でできた山みたいに見えたな。
あれがアリのような人間の手で作られたというから、驚くしかない。気の遠くなるような年月をかけて、コツコツと積み上げたのだろう。
魔物なら手っ取り早く、魔法で岩山の中を溶かし、部屋を作っている。味気ない無骨な造りが難点だけどね。
「ははぁ、ヘンゼル陛下。ご機嫌麗しゅう」
ハーゼもひざを折り、頭を下げる。ひざまずく姿も高貴な感じがするね。相手は偉そうな若い男で王座に座ったままだ。こいつの方が強いのだが、人間は自分が弱くても、権力の強い方に逆らわないそうだ。
ちなみにヴォルケと人間のエリザーベトも一緒だ。ヴォルケは白いワンピースを着ていたが、エリザーベトはハーゼと同じバニースーツを着ていた。
これは俺様の指示、というかバーニーに命令されたんだけどね。遠隔操作で扱う操り人形にされた気分だ。
「事情は事前に手紙をもらっている。今回は余の妹、グレーテルが迷惑をかけたな。この件は余の責任である、なぜなら妹の悪だくみは耳に入っていたのに、それを放置したからだ。よって悪いのは余である、許してくれハーゼ」
ヘンゼルという男は王座に座ったまま、尊大な態度で、謝罪をした。右には鎧を着た活発そうな男が立っており、左には銀髪で眼鏡をかけた神経質そうな男が脇を固めていた。
眼鏡の男は、なんか顔が曇っている。その視線はエリザーベトの方に向けられていた。
残念そうな人を見るような目つきだが、本人はまったく気づいていない。
「……姉上、その恰好は一体何なのですか?」
「フローリアン! 服装に無頓着なあたなが気づくなんて、すごいじゃん! おねーちゃんは、びっくらこきまろだわ!!」
「……あなたに服装の事で、言われる筋合いはありません」
フローリアンと呼ばれた眼鏡の男は、こめかみをぴくつかせていた。エリザーベトはブリッジしたままなのはいうまでもない。こいつは赤いバニースーツを着ていた。ちなみに自主的に着替えたのだが、理由は以下の通りだ。
「まずこのスーツは素晴らしいわ! 背中が開いているから、大地の気を直に感じられるの! さらにこの頭に付けたウサギの耳! これを地面につけると大地の声がきれいに聴こえるのよ! そしてこのハイヒールという靴! 一見大地につける部分は少ないけど、網タイツのおかげで、大地の気を吸い込むことができるわ! これは世紀の発明で、作ったハーゼさまは最高よ! ヘンゼルはこの服を国民に配布するべきだわ!!」
エリザーベトはブリッジしたまま、口から唾を飛ばしながら叫んだ。ハーゼと同じく、眼鏡をはずすと美人らしいが、残念な性格のため、男は寄ってこないらしい。本能でこいつはやばいと感じるそうだ。
正直、俺様もこいつは魔物と呼ばれても、違和感はないな。
ハーゼもその様子を見て、ため息をついた。こいつも苦労しているんだ。
「してそこの魔物よ。そなたが我が妹、グレーテルを人質に取っているのだな?」
「おっ、おうよ! これを見ろ!!」
ヘンゼルに言われて、俺様はぬいぐるみのグレーテルを物のように突き出す。
「お兄様~、助けてくださいまし~」
「ふん、すべてはそなたの軽はずみな、行動のせいではないか。しばらくは不自由なぬいぐるみに身をやつし、反省するがよい。まぼろしネズミ殿よ、妹が反抗的な態度を取れば、容赦なく折檻しても構わんぞ」
ヘンゼルは、くねくねシナを作る妹の助けを無視し、俺様に折檻してよいと冷酷に答えた。
なんか同年代の人間と比べると、かなり落ち着いているな。大魔女さまみたいに堂々としている。魔王がいたら、たぶんあのようなものかもしれない。
「ねえ、親分」
そこにヴォルケが声をかけた。今まで静かにしていたからびっくりしたな。
「なんだヴォルケ。おやつの時間はまだまだだぞ」
「違うよ~。ハーゼの目の前にいる男の人が、ハーゼのお嫁さんなのかい?」
いきなり何を言い出すのだ。たぶん退屈な話が続いたから、我慢できなくなったのだろう。
お嫁さんは女性であって、お婿さんが正しいのだ。
まあ、俺様としては人間のコイバナには、まったく興味はないがね。
「こら、ヴォルケ。陛下の前で不遜なことを……」
ハーゼがしかるが、ヘンゼルはいきなり笑い出した。まるでピエロの曲芸を見たかのようである。
「はっはっは! 噂の雲魔人殿も、下世話な話には聞き耳を立てているようだな。残念ながらそれはあり得ない。なぜなら余の妻は……」
そう言っていきなり立ち上がる。そしてフローリアンともうひとりの男の首に腕を回した。
「フローリアンとトビーアスのふたりだからな」
俺様はきょとんとなった。だって俺様でも男と女が結ばれることは知っているんだぜ? 同性同士じゃ子供が生まれないことも、常識だと思っているぞ。
こいつはいきなり何を言い出すのだろうか。
「まあ、ヘンゼル陛下は、宰相さまと将軍さまをお嫁様にしていらっしゃるのですね?」
「その通りだハーゼよ。もちろん結婚式は挙げてはおらぬがな。夜の営みでは、毎晩ふたりを取り換えて、楽しんでおるのだよ。あっはっは!!」
ヘンゼルは呵々大笑いし、他のふたりは苦笑いを浮かべていた。
ハーゼは真剣なまなざしで見ている。正直、俺様には理解できない世界だ。こういうのを、やおいと呼ぶのだろうな。意味はわかんないけど。
「きゃー! お兄様ったらいつの間に!! でも納得ですわ、鬼畜眼鏡のフローリアンに、熱血漢に見えて実はヘタレなトビーアスとなら、相性抜群ですわね!!」
「グレーテル……、何嬉しそうにしてるんだか……」
「誰が鬼畜眼鏡ですか。私が相手をするのはヘンゼル陛下のみです。この人間カワハギ熊と一緒にされては困ります」
「誰がカワハギ熊だ! それじゃ俺は人の服を脱がしたがるみたいじゃないか!!」
「おや違いましたか? あなたの数少ない美点だと思いましたがね」
トビーアスとフローリアンの言い争いに、グレーテルはなぜか嬉しそうであった。マネギンたちも男同士の友情に黄色い声援をあげていたっけ。
「ふーん、そうなんだ。まあ、昔からヘンゼル陛下は女っぽいと思っていたから、男を嫁にしてもおかしくないわね」
エリザーベトは心底無関心であった。こいつは自分の興味のあることしか、頭にないのだろうな。
「さて話は戻すぞハーゼよ。そなたがシュピーゲル領に向かい、呪われたヴァイスシュネーの住む天空城に赴くのは構わん。そこでそなたが呪いを解き、ヴァイスシュネーの家名を受け継いだのならば、そなたは公爵位を授けよう。領地はエアツェールング王国の領地全域の空だ。それでよかろう」
話はすぐに決まった。ハーゼは何か考え事をしているが、俺様にはどうでもいい話だ。
それにしてもヴァイスシュネーか……。確か大魔女さまと同類の力を持つって話だよな。俺様は大魔女さまからハヤブサの笛をもらっている。シュピーゲル領の一番奥にある山、ウソップ山にある跡地に、天空城の入り口があるという。
俺様はそこで笛を吹き、伝説の魔人、デーモンスリーを召喚するのだ。
しかし、あそこは北にある険しい山で、大雪が積もっているそうだ。さらに魔物も強いらしく、俺様としては行きたくないな。




