第51話 いきなりの凶行
「さて、そもそも私はヴァイスシュネーの事をよく知りません。マギー、改めて説明してくれませんか?」
食事も終わり、お開きになった。ヴォルケは眠たそうにしているので、寝床を案内してあげた。
今、部屋の中には私とマギー、グレーテルの三名だけである。部屋の中でもバニーガールなのは、どうかと思うが、普段着になってしまったので、どうしようもない。
裁縫ギルドが日常生活に困らないように、改良してくれていたので、不自由はしないのだ。
というか、バニースーツは普段着に使うものじゃないのだが。本当は酒場か、カジノで着る物なんだけどね。
「わかりました」
マギーが説明してくれた。グレーテルも興味津々である。
大体の事は聞いたが、それでもできる限り情報はほしいからだ。
まず数百年前に、今のシュピーゲル領にヴァイスシュネー王国があったという。現在はマギーの弟である侯爵が治めている。
ヴァイスシュネー王国は代々女王が治める国で、魔法使いを多く、輩出したそうだ。
辺鄙な場所にあり、周りは岩山に囲まれ、人の交流は一切なかったという。
それでも魔法技術の発達により、他の国より豊かで恵まれていたそうな。
魔物もいないし、国民は平和を謳歌していたそうである。
その平和を破ったのは、ビスマルク王国だそうな。彼らはドワーフが集まった国で、ヴァイスシュネーにむかついたので、戦争を仕掛けたらしい。
むかついたから宣戦布告って、いったいなんだよと、突っ込みたくなるが、長年ビスマルク王国はヴァイスシュネーに奴隷として扱われていたという。
そのうっぷんが一気に爆発したといったところだ。
当時の女王はライチュといい、魔法使いたちと共にビスマルク王国と戦ったという。
圧倒的な爆裂魔法に、火炎魔法が揃っており、敵などあっさり皆殺しにできると、国民は全員そう信じていたそうだ。
ところがドワーフたちは搦め手を使った。地面を掘り、岩山に穴を開け、様々な工作をしてきた。
その結果ヴァイスシュネー王国は地盤沈下し、めちゃくちゃになったという。
ライチュはドワーフから逃げるために、城に魔力を注ぎ、そのまま天空へ逃げてしまったとのことだ。
その際に地上に爆裂魔法を落とし、ビスマルク王国は跡形もなく消し飛んだのである。
後に残されたのは難民とドワーフたちだけであった。近衛兵の隊長であったヘルマン・シュピーゲルが難民を引き連れ、新しい場所へ国を作った。
ドワーフたちは人間の貴族と結婚させた。純血をすべて消し去るためである。
その後、シュピーゲル王国が建国されたが、百年前に、エアツェールング王国に忠誠を誓ったとのことだ。
ヴァイスシュネーは今も天空城に住んでいるとのことである。自分は逃げ出したのに、地上の人間を憎み、いつの日か復讐に戻る日を待ち望んでいるそうだ。
「ふむふむ、さすがはマギーですわね。わたくしも同じように習いましたわよ」
「ヴァイスシュネーは忘れてはならない故事です。貴族や王族は必ずこのお話を聞かされるのです」
グレーテルは感心していた。マギーは学校の先生のように教えてくれた。
数百年前といっても、この世界が生まれたのは数十年前である。元々とあるOLが交通事故に遭い、意識不明になった。それで生まれたのがこの世界なのである。
ヴァイスシュネーの話はおとぎ話にありそうなものだ。しかし、あまりにも詳しい内容が残っていることが気になるな。
なんとなくだが、ドワーフたちと戦争したという、くだりが気になる。
「そのお話は本当に古くから伝わっている話なのですか?」
「そうです、といいたいところですが、何となく違和感を覚えますね。つい最近頭に浮かんだといいますか、そのくせ、何年前も昔に覚えたという記憶があります。ちぐはぐしてますね」
私の質問にマギーが答えた。グレーテルは「そうでしたっけ?」と小首をかしげている。
ここは神様に訊ねてみるのが早いな。
『神様神様、これはいったい、どういうことでしょうか?』
『これは記憶の上書きじゃ。世界を構築した際は細かい設定はしておらなんだ。それを徐々に設定を作り、皆に広めたというわけだ』
『なるほど。世界を自由に作り直せないけど、記憶操作は可能なのですね』
『その通りだ。しかしあくまで存在しないものは作れない。元ある物に後付け設定はできるが、ないものの設定は作れないのだ』
神様が答えてくれた。あくまで元からあったものの設定を上書きすることは可能なわけだね。
ドワーフの作ったビスマルク王国も、後付け設定なのだろう。
するとヴァイスシュネーの住む天空城も世界創世のときから、存在していたということになるな。
これは某国民的ゲームの四作目が影響しているかもしれない。
「それでヴォルケとどういう関係があるのかしら?」
「ヴォルケを含む雲魔人は女王ライチュによって作られました。城を自由に出入りできるのは雲魔人だけなのです。ヴォルケと一緒ならハーゼさまもついていくことが可能なのですよ」
そういうわけか。ヴォルケがいれば、私もついでにお城に行けるわけである。
「あら、羨ましいですわ。わたくしも天空城へまいりたいですわね」
「グレーテルさまは無理です。危険ですし、期限の一週間ももうじきです」
「むむ~、けちくさいですわね~。マギーの手腕ならなんとかできるのではなくて?」
グレーテルが同衾を求めるが、マギーはきっぱりと断った。私はお茶を飲みながら、微笑ましく眺めている。
「なら、この手はいかがかしら?」
突然、私の知らない声がした。それは真っ白い巨大なウサギであった。
顔立ちは人間に近く、髪も肩まで伸びている。
体つきも胸や腹部、腰回りは白い毛に覆われていた。手足はうさぎそのものである。
「ピキンコ、パキンコ、パチカンコ! あなたの身体を氷漬け!!」
するとグレーテルの身体が氷に包まれた。彼女の表情は大きく口を開けたまま、ぽかんとした状態である。
いきなりの凶事に私は面を喰らった。
「アハッ、アハッ、アハーッ! ボクの名前はバーニー! バニーガールという魔物なのさ! ちなみにウサリーのお姉ちゃんでもあるんだよ。よろぴくね」
バーニーは右手でピースサインを作り、ポーズを取った。大きなうさ耳がぴょこぴょこ動いている。
「アハハ、ボクを差し置いてバニーガールを名乗るトンチキを見に来たけど、とんだ期待外れだったね。それに大魔女さまと同等の力を持つ、ヴァイスシュネーの名を得たいなんて、なんとも身の程知らずでしょうか!! むかっ腹が立ったので彼女を氷漬けにしちゃいましたよ。てへぺろ♪」
そう言ってバーニーは軽く舌を出して、ウインクする。なんかかわいいな。しかもボクっ娘かよ。
「あなたはいったいどうやって入ったのですか!! ミルドレッドは何をしていたのですか!!」
マギーが憤慨する。ミルドレッドは部屋の外で待機していたのだ。
「もっ、申し訳ありません。同じバニーガールだったので、つい……」
ひょっこりと彼女が顔を出した。いや、バニーガールでも、バーニーは明らかに魔物だろう! もっとも醜悪な感じはなく、コスプレに近いモノがあるけどね。
それにしても彼女の耳はすごいな。本物のうさ耳で、こちらのニセのうさ耳が色あせそうだ。クオリティが違うね。
「バーニー、あなたは私に何を望むのですか? グレーテルを元に戻さないと、ひどいことになりますよ?」
私は脅したが、バーニーはどこ吹く風だ。
「脅してもだめなんだね~。ボクを殺したらこの子も一緒に死んじゃうんだよね~。しかも治し方はライチュさまを解放しないとどうにもならないように設定しちゃったからさ~。そこで監視役としてこの方に来てもらったわけ!!」
バーニーが声をかけると、部屋に巨大なネズミが現れた。
それはまぼろしネズミだったのだ。
ライチュのモデルはハンナ・ライチュといい、第一次世界大戦で活躍したドイツの女性パイロットです。
ビスマルクはドイツの戦艦の名前です。




