第39話 まぼろしネズミと三つのしもべ
あ~、俺様はどうしてこんなところにいるんだろうか?
空は雲一つなく、太陽がギンギンに照らしている。足元は熱く、まるで鉄板の上を歩いている気分だ。
ここはフォッカー砂漠といい、ネズミである俺様にはきつい場所である。
俺様はまぼろしネズミ。ただの大きなネズミだ。最近、俺様は普通の生活にあこがれている。
それもこれもハーゼという人間の女と関わったことが原因だ。あいつは女のくせに生身で俺様をぶんなぐったのである。
その後、幾度となく戦いを挑んだが、結果はワンパンで終わってしまった。
もっとも子分のマネギンたちは俺様を尊敬のまなざしで見ているのだ。理由は簡単、ハーゼに殺されてないからである。
他の魔物は一撃で倒されているが、俺様はまだ死んでいないのだ。
正直、なんで俺様は死ななかったのだろうと思っている。世の中には殺されることより、恐ろしいことがあると学んだね。
前置きが長くなったな。俺様がわざわざ砂漠に来たのは、大魔女エヴァンジェリンさまの命令なのだ。
大魔女さまから一本の笛をもらった。誰の耳にも聞こえない、三万サイクル音の笛だそうだ。
その笛吹けば、砂漠の魔物を自在に操れるという。名前はハヤブサの笛と呼ばれている。
なんで俺様がと思ったが、大魔女さまは俺様しか適任がいないというのだ。
うさ耳魔女のウサリーは最初自分が行くといったが、だめだと断られた。どうせならあいつに丸投げしたかったぞ。
マネギンのマネビンも俺様を持ち上げていたし、妙にイラっとしたな。
さて俺様はハーゼを待ち伏せしていた。大魔女さまからもらった水晶玉であいつの位置を把握できるのだ。
あいつと対峙した後笛を吹けばいいらしい。そういえば大魔女さまはなぜか俺様の頭をなでなでしていたっけ。
さて待つこと数時間、俺様はようやくハーゼを確認した。
焼けつくような砂漠に、いつもの黒ウサギに見立てた衣装を着ている。もっとも肌は褐色で髪の色も銀色になっていた。
向こうも俺様の姿に気づいたようだ。またかとうんざりしている様子がわかる。
俺様はお腹が痛くなる一方だ。さっさと仕事を終わらせて帰りたい。
「ピ―――!!」
俺様は笛を吹く。音はまったく聴こえない。音が鳴らず、空気の音だけだ。
すると地面が揺れ、空から何かが飛んできた。
地面からはさばくキノコが出てきた。こいつは大蛇のように体が長く、砂漠に住む人間を一気に飛び出して食らいつくという性質がある。
それがヒドラのように、ハーゼの周りを囲んでいた。
次に遠くからサボテンうしが突進してきた。牛の形をしたサボテンの魔物だ。
普通の牛より、一回り多く、体中にするどいとげがびっしり生えている。
人間の町の壁など簡単に破り、家も踏みつぶす。こいつらの大群が走った後は何も残らないのだ。
最後に天からはコンドルはなが飛んできた。コンドルの形をした花の魔物で、空を飛んでは種をばらまく性質がある。
さらに空から人間を見つけては、急降下して捕らえるのだ。そしてひとりに対して複数で襲撃することで恐れられている。
「ハーゼを倒すために三つの魔物に命令だ! コンドルはなは空を飛べ! さばくキノコは土の中! サボテンうしは地を駆けろ!!」
俺様は叫ぶと魔物たちは一斉にハーゼに突進する。全部で合わせて300匹はいるのだ。
いくらあいつでもひとたまりもない、と思えません。
ぶっちゃけ、こいつらでもハーゼには敵わない気がしてならないのだ。
俺様はただぼうぜんと見るだけである。
遠くでハーゼがにやりと笑った。あいつはジャンプすると、身体を回転させて蹴りを放つ。
その衝撃波が一気にサボテンうしを横から真っ二つにしてしまった。
さらに天高く飛ぶと、コンドルはなの一匹に飛び移る。他のコンドルはなたちが一斉に襲い掛かってきた。
ハーゼはそれを狙い、パンチを放つ。一気にコンドルはなはこっぱみじんだ。
最後に地面に落ちてくる。その衝撃でさばくキノコは泡を吹き、飛び出てきた。
キノコは菌糸体といい、よく食べるキノコは子実体と呼ばれているらしい。ハーゼは衝撃波でさばくキノコの本体を攻撃したため、子実体はダメージを受けたのだ。
ハーゼはすくっと立ち上がり、俺様の方へ向かう。ああ、やっぱりこいつらでは歯が立たなかったか。
さようなら俺様の人生。
「ふふふ、まぼろしネズミさん? これはいったい何の真似かしら?」
ハーゼは笑顔を浮かべている。しかし目は笑っていない。そのまま視線で死んでしまいそうだ。
「えっと、これには深い事情が……」
俺様は言い訳をしようとしたが、その瞬間、身体が勝手に動いた。
俺様の右手はハーゼの胸元を掴む。そして一気にその黒い皮を剥がしたのだ。
「あれ~?」
ハーゼの白い肌と大きな乳房があらわになった。正直言って人間の女の胸に欲情はしない。
しかし、俺様は真っ青になった。やってはならないことを本能的に悟ったのである。
「……ふふふ。オイタが過ぎたようですね」
その瞬間、俺様の意識は飛んだ。腹部に強烈な衝撃を受けたのだ。
ハーゼの拳が決まった証拠である。
ああ、俺様は死んだのかなと、そう思った。
☆
「こら、あんた! 早く起きなさいよ!!」
何やら耳元がうるさい。ここは地獄だろうか。鬼たちが起きろと催促しやがる。
「なんだ、ここは地獄か?」
「ちがうだわさ! まだこの世だわさ!!」
それはウサリーだった。なんで俺様はここにいるのだろうか。
混乱する俺様に対してマネビンが説明する。なんと俺様はハーゼに腹パンチを喰らった後、この森に飛んできたそうだ。
どうやら俺様は死なずに気絶しただけのようである。なんたる不運だろうか。
俺様の周りはマネギンたちが集まっていた。
「すごいや、まぼろしネズミさん! ハーゼのパンチを喰らって生き延びてるよ!」
「そうだよね! だってさばくキノコにサボテンうし、コンドルはなはぼくらを一度に数匹食べるほどの強さだよね!」
「そいつらは一撃で倒されたけど、まぼろしネズミさんだけ死ななかったんだから、すごいよ!」
ああ、マネギンたちが尊敬のまなざしで見つめている~。
やめてくれ、俺様はハーゼに何もできなかった、ちんけなネズミなのだ。
「ニョホホのホ。まぼろしネズミよ、よくぞ使命を果たしたザマス。すべてお前のおかげザマスね」
そこに大魔女エヴァンジェリンさまがやってくる。黒い帽子に黒いローブを着た人間の老婆だが、その魔力は魔物に近い者があるのだ。
「あの、俺様は無様に負けたんですけど」
「問題ナッシングザマス。お前さんはわしの望みを叶えたザマスよ。グッジョブザマス」
大魔女さまは俺様を褒めちぎる。いったいなぜだろうか? 俺様は大したことをしていないのに。
「さてグランドマザーは去るザマス。ヤングマン同士、ふたりっきりでアバンチュールしたいと思うからね」
そう言って大魔女さまはマネギンたちを引き連れていった。残るは俺様とウサリーのみ。
「もう、師匠ったら気を使いすぎなんだわさ……」
なぜかウサリーは照れている。
「なんだよお前。俺様といて不機嫌なのか?」
するとウサリーは俺様の足を踏む。いてぇ、その途端不機嫌な顔になる。
まったくメスってのはよくわからんな。
笛の元ネタは海底人8823です。
三つのしもべはバビル二世ですね。さすがに元ネタをそのままにはできません。




