第35話 夢の中で
「あん、あん、あん!」
喘ぎ声が聴こえてくる。いったい誰だろうと目を開けると、私の上にひとりの女性が全裸で腰を振っていた。
浅黒い肌に、グラマラスな裸体を見せつけてくれる。
丸い顔は愛嬌があり、可愛い声を上げていた。
気づけば私の身体は男に戻っていた。それも転生前よりかなり男らしい肉体だ。
理想を言えば、ボディービルダーのマッスル北村氏に近い。まるで自分の身体ではないみたいだ。
「ツァールトさん。なんであなたが私の上にまたがっているのでしょうか」
私が声をかけた。野太い声であった。転生前だと甲高い声で、少年ぽい声で嫌いだったな。
「―――!? 気づいてしまいましたか……」
相手は名前を指摘されて、ショックを受けたようだ。彼女は悪意があるわけではないようである。
「ここは夢の中ですか? なぜ私はここにいるのでしょうか?」
「……きちんとお話いたします」
ツァールトさんは観念したのか、自分の正体を語りだした。
まず彼女はサキュバスだという。サキュバスとは男の精を糧にする魔物と聞いている。
しかし彼女の場合、夢の中でしかその力を発揮できないというのだ。
その意味では彼女は魔物ではなく、魔女に近い存在らしい。
普段は人間として問題なく生活はできる。しかし、自分でも制御できないほど男を誘惑してしまうそうだ。
地味な服装をしてもまったく効果はないそうである。確かに料理ギルドで支給されたメイド服には色気などなかった。
それなのに、彼女に欲情する男性職員が目立ち、女性職員たちは嫉妬に狂っていたのである。
もっともそれらは夢の中で性交すれば問題はないそうである。
夢の中で射精をすれば、性欲は解放されるそうだ。その放出された精がサキュバスにとって貴重な食糧なのである。
ところが射精は一度きりがほとんどだというのだ。彼女自身手練手管というわけではない。
それでも一度出てしまえば、彼女に抱く欲望は消えてしまうそうだ。
だからズンブフ村の男たちは、最初彼女に秋波を送るも、次の日には賢者タイムになるわけである。
男としての機能は問題ないが、二度とツァールトに興味を抱かなくなるそうだ。
深刻なのは彼女の方である。夢の中とは言え、精を吸収できないと彼女の精神はバランスを崩してしまうそうだ。
食事や睡眠をとっても、彼女の心は癒されないのである。幸い自分の子供であるゲッティンはサキュバスの力を受け継がなかったので、安心しているようだ。
「それでなぜ私を頼ったのですか」
「はい、実はあの日あなたとは夢の中で交わりました。ですがあなたは私に対してまったく反応を変えなかったのです」
確かに当時私は性交する夢を見た。しかしツァールトさんに対しては何とも思っていない。
それは私がサキュバスに採取されても問題ない人種だからだそうな。前の旦那も同じらしく、夢の中ではニャンニャンを楽しんでいたらしい。
旦那が突然の不幸で亡くなり、ツァールトさんは身体を持て余していた。
現実では直接しなくても構わないのだが、彼女はサキュバスだ。夢の中での性交こそが本命なのである。
村の男たちは相性が悪く、一回で終わってしまった。ところが私だと何度もできるらしい。
この間性交する夢を見たのは、彼女が望んだからであった。
「するとあなたは私が元男だと気づいていたのですか」
「そうです。もっとも転生者とは気づきませんでした。あくまでその人の精神が男性か否かわかる程度ですね」
「なるほどね」
偶然出会った私は元男だった。だから夜中に夢の中で性交したわけである。もくろみは見事成功したのであった。
そうなると、彼女が村を捨てて、私を頼ったのは死活問題のためだろう。
世の中には男の肌に触れないと眠れない女がいるが、彼女の場合は夢の中で男と交わらないと、眠ったことにならないのである。
「はしたないとは思いますが、夢の中だけでも繋がらせてほしいのです。私はそれだけで満足なのです」
うむ。夢の中でなら問題はないな。それにここでは男に戻って好きなだけエッチができるわけだしね。
ツァールトさんの奉仕は結構すごいのだ。相手を確実に楽しませようとする気概を感じる。
風俗嬢には面倒臭がりも多く、積極性に欠けるものも多い。
さすがにバニーガールを相手にするのは、贅沢というものだろう。
「いいえ、可能でございます。夢の中は私の思い通りになります。あなたがどのような衣装で楽しむのも自由自在でございます」
そう言ってツァールトさんから煙が出た。それが晴れた後、彼女は見事なバニーガールへ変化していたのである。
なんと素晴らしいことだろうか! もっとも着たままのエッチは結構うざかったりするのだ。
その理由は衣装が肌にこすれて、痛くなるのである。昔メイド系の風俗に行ったが、メイド服がこすれて痛くなった、嫌な思い出があった。
バニーガールの場合、股の部分が問題なのである。AV男優は自身を傷めないためにも工夫をしているのだ。
ツァールトさんとの楽しみは置いておくとして、私はひとつ思いついたことがあった。
「そうだ、これでヘンゼル王の女嫌いを直せないかな?」
「残念ながらそれは無理です。私が性交を成功させるには、一度でもその人に直接会って、目を合わせなくてはならないのです。それに衣装を変えることはできても、心までを変えることはできません」
ツァールトさんは申し訳なさそうに答えた。さすがにうまくことは進まないか。
そういえば彼女は魔物とか、繋がりはあるのだろうか。
「それはないですね。あくまでサキュバスとは生まれつきの能力なのです。魔物とは無関係ですね。それに先天性なので、修業して身に付くものではないのです」
なるほど、都合の良い力ではないようだ。彼女は生まれつきの力で悩まされていたようである。
理想的な男性と巡り合い、子宝に恵まれたのに、夫を早くに亡くす。
これほどの不幸はないだろう。それに夢の中でならマギーにも気づかないしね。
安心して楽しめるというものだ。
「それは甘い考えですわよ」
突然別の女性の声が上がった。それはマギーであった。彼女は素っ裸である。
「やっぱりツァールトさんはサキュバスでしたか。ハーゼが目当てであることは気づいてましたよ。ああ、私がここにいる理由は簡単です。精神を同調させる魔法を使えば簡単です。サキュバス対策の簡易魔法ですよ」
いったい何の対策なのだろうか。聞けば王国騎士団はサキュバスなどの精神攻撃をする者に対し、他の騎士が精神同調魔法を使って、相手を救う方法を取っているという。
もっともサキュバスは攻撃ではないそうだ。身体からあふれ出る魔力によって、無差別に巻き込んでしまうという。普通は宮廷魔術師辺りが制御できるようにするらしいが、名乗り出る人は少ないそうだ。
自身の意思と関係なく、男のあれがたぎってきたら、近くにサキュバスがいると学んだらしい。
だからマッケンゼン氏はツァールトさんの本性を見抜いたのである。それが初日だけとも理解していたのだ。
「さて男のハーゼもなかなかですわね。私の純潔はお父様が用意した許嫁にあげますが、精神的にはあなたとひとつになりたかったのです」
いや、女同士とはいえ、ベッドでひとつになったのに、今更どの口が言うのだろうか。
そう思ったら、マギーが冷え切った目を向けたので、目を逸らした。
「いや、今の私は男だよ。しかもごっつい筋肉ムキムキの男だよ」
「起きているときも言いましたよね? 私はあなたが好きなのです。男女の差などどうでもいいのですよ」
「はい! あくまで夢の中だけなので、後腐れなく楽しめます!!」
こうしてマギーはバニーガールの衣装を生み出し、私とツァールトの三人で楽しむのであった。
やはり着たままエッチはうざかった。AV男優の偉大さを理解できたね。




