第30話 懐かしい人と再会
「あんっ、ああん!!」
何やら下半身に何かが乗っかっている。それがリズムを刻みながら、上下に揺れているようだった。
目を覚ましてみると、周囲は真っ白だ。風景も何もない、純粋な白。
私の身体はおろか、指すら見えない。自分で確認できないほどである。
その上にひとりの女性が、一糸まとわぬ姿で馬のように乗っかっていた。胸は乳牛のように大きく、たぷんたぷんと揺れている。
肌の色は浅黒くエロチックで、腰の動きも嵐の中にさまよう船のように激しかった。
そして私の股間も噴火寸前の火山のように大きくなり、やがて間欠泉の如く、爆発するのであった―――。
その瞬間、世界が爆発したと気がした。
☆
「なんなんだ……?」
私ははっきりと目が覚めた。先ほどのは夢だと認識するのに、数秒だけ時間がかかった。
今の私は裸でベッドの中に潜り込んでいる。昨夜はマギーと愛し合ったからだ。
女同士は指だけで充分感じさせられるのである。あまり子供に教えるものではないが。
それはいいとして、私は股間に手を当てた。そこには男のシンボルはない。
私は転生者の元男だ。今はバニーガールにふさわしい女性に生まれ変わっている。
別に女になりたいわけではない、バニーガールになりたかったのだ。
正直、ゲームやアニメ、ネットで理想のバニーを探すのに飽きた。だからこそ私はバニーになりたいと思ったのである。
普通はバニーを愛でたいと思うのが大半だ。
まあ、私が変人であることは認めよう。しかしバニーの悪口だけは許さないので、そこのところよろしく。
「いかがなさいましたか?」
部屋に入ってきたのは、マギーだ。昨日は激しく愛し合ったのに、もう平然とした顔になっている。
仕事とプライベートは分ける性質らしいが、あまりにも代わり身が過ぎて、こちらがキツネにつままれる気分になる。
彼女も魔物と呼ばれても、疑うことはないだろう。
「いえ、昔の事を思い出しました。私の股間にお宝があった頃の事を……」
こう話せるのはマギーが私の正体を知っているからだ。しかも私が話したわけではなく、推測したのだから大したものである。
異世界転生物は大抵本人が自己申告しない限り、ばれることはないのだが、マギーは感覚が鋭いと思う。
「なるほど、夢の中でやってしまったと。まあ、よろしいのではないですか。男と女では感じ方も違いますし」
マギーは気にしていないようだ。確かに女性は長く感じやすいが、男と違い、終わりがない。
男は出せばすっきりするが、女は明確な区切りがないため、時間がかかる。
快楽は長く続くが、男の方が自分の意思できっちりと解放できるから、一概には言えないね。
「そうなんだけどね。でも、相手の女性が、どこかで見た顔なんだよね……」
「そうなのですか?」
「だけど思い出せないんだ。確かこの世界で会った人だと思うのだけど」
私は頭をひねるも思い出せない。チート能力でも夢の記憶までは明確に思い出すことができないようだ。
記憶力は元の世界に比べれば格段に上がったけど、覚えていても使いこなせなければ意味がないからね。
「けど、マギーは冷静だね。私が他の女性の話題をしたら、焼きもちを焼くと思っていました」
「私は女性が好きなのではありません。ハーゼが好きなのです。あなたが男でも問題はないですし、仮に私が男でも、愛する自信はあります」
「……それはどうも」
男同士はちょっとアレだな。男の娘ならともかく、ゲイは正直怖い。
「それよりもギルドに行く時間です。早く身支度をしましょう」
そういってマギーは私の着替えを手伝うのであった。
☆
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
早朝のギルドは職員で賑わっていた。私の教育のおかげか、身だしなみもよく、毎日元気よく挨拶を交わしている。
男性職員が丁寧にお辞儀をして挨拶したのを、私も挨拶で応えたのだ。
これは前世で私の悪癖で、声が小さく、陰気臭いと言われていた。だからこそ、この世界では明るく元気に答えることにしている。
まあ、着ている服はギルド職員の事務服ではなく、バニースーツなのが難点だけどね。
もうギルド内どころか、エアツェールング王国でもバニースーツは私の通常衣装と思われているのだ。なんだかなぁ。
ちなみに隣にはマギーもいる。彼女には恐る恐る挨拶をする人がほとんどだった。それでもマギーは事務的に挨拶を交わす。
「あっ、おねーちゃんだ!!」
突如、幼女の声がした。朝早くから子供がいるのかと、周りを見回す。
すると正面から、ひとりの少女が走ってきたのだ。そして勢いよく私に抱きつく。
赤毛でおさげをしており、そばかすが目立つ。
ズンブフ村で出会ったゲッティンだ。
「まあ、ゲッティンちゃん! あなたがここに来るなんて知らなかったわ! お母さんはどこにいったの?」
「うん! おかーさんもいっしょだよ!!」
ゲッティンは元気よく答えた。すると遠くから彼女を呼ぶ声がする。
長くウェーブのかかった黒髪に、地味な衣装を着た女性だ。
化粧ッ気はないが、磨けば光る。そんな感じがする。
黒い衣装だが、胸の大きさは誤魔化せられない。彼女はゲッティンの母親、ツァールトだ。
「はぁはぁ、だめでしょゲッティン。お母さん、息が切れてしまったわ」
「だって、おねーちゃんとおはなししたかったんだもん!!」
肩で息を切る彼女に、娘はふくれていた。なんかほほえましく、頬が緩むね。
「はぁはぁ……。あら、あなたはハーゼさんですか? 巨大な黒ウサギの魔物と勘違いしていました」
なんとも失礼な言い方だが、バニーガールを知らない人にしてみれば、魔物と思われても仕方ないだろう。
「これはバニーガールという衣装なのですよ。初めて見た人には魔物に移るかもしれませんね。ところでツァールトさんたちはどうしてここに? 私に会いに来てくれたのですか」
「いいえ、今日はハーゼさんにお願いがあってきました」
お願いとは、どういうことだろうか? どこか切羽詰まった表情を浮かべているから、ただ事ではないと思った。
ただゲッティンの方はからっとしており、母親の焦燥感に気づいていないようである。
「実は風の噂でハーゼさんが料理ギルドのマスターになったと聞いたのです。それで不躾な話ですが、私を雇ってほしいのです。もちろん雑務で、掃除洗濯なんでもします。それと住むところも世話していただけないでしょうか」
そう言ってツァールトは頭を下げて頼むのだった。
内容はかなり図々しいが、ツァールトさんが頼むことに違和感がある。
「……ツァールトさん。ズンブフ村で何か起きたのですか? 雇うことは問題ないですが、せめて理由を教えてください」
「……実は村にいられなくなったのです。村の女性たちは私の事を、男を誘いこむ悪女と敵視しだしたのです。それで村から夜逃げをするように出て、ここにきたというわけです」
「そうですか……」
彼女は悲しそうにうつむきながら答えた。確かに彼女の色気は強い。私が男だったらとびつきたくなるほどだ。
しかし、村を出る際に長老はこう言っている。村の男は彼女に対して無関心であり、村の女性たちもそれほど敵視したわけではないという。
心の声を聴こうとしてたが、先ほどの言葉と見事に一致しており、裏がないことが分かった。
嘘をついている様子も見受けられないし、それなら心臓音が通常より大きく鳴るはずである。
「ゲッティンちゃんは村を離れてよかったの? お友達とお別れはしなかったのかしら?」
すると彼女は首を大きく横に振った。あの村には同年代の友達はいないとのことである。
いきなり母親から村を出て行くと言われたときは、特に何も思わなかったようだ。
「まあ、いいでしょう。マギー、ツァールトさんに適当に仕事を見繕ってちょうだい。住む家は私の屋敷がいいでしょう。給料もマギーとお話してください」
「ありがとうございます!! ほら、ゲッティンもお礼を言いなさい」
「ありがとう! おねーちゃん!!」
ツァールトは大げさに頭を下げた。マギーは職員に命じ、ゲッティンを別室へ連れて行かせた。今日からでも働かせるつもりのようだが、本人も問題ないようである。
そういえば男性職員たちは遠巻きに、ツァールトを見ているな。私のバニースーツを見てほしいが、彼女の色気もなかなかのものである。
ただ女性職員たちはやっかみの視線を向けている者もおり、正直彼女を雇ったのは失敗したかと思っていた。
問題が起きても私がにらみを利かせれば問題はないだろう。もちろんツァールトも知人だからと言って甘やかすつもりはないが。
きちんと職員たちに教育するのも、ギルドマスターの仕事だ。前世ではろくに仕事の責任を取らず、ぼーっとしていたからである。
今は神の知識を活用し、行儀作法や、マナーを学んでいるのだ。私は見た事のない便利な発明や料理よりも、人間としての道徳を知ることがうれしいのだ。




