第27話 ホットケーキを試食します
「よろしいでしょうか?」
ノックの音がした。相手は職員のミルドレッドだ。
すでに私は着替えを終えている。彼女が来ることはすでに知っていた。だからマギーがすばやく、片づけてくれたのである。
「どうぞ」
私は入室を許可した。するとミルドレッドは手に何かを持っている。
それは白い皿で、上には茶色く平べったいものが乗ってあった。
ホットケーキである。小麦粉に卵、牛乳に砂糖があればよいのだ。
できればベーキングパウダーがあればよいのだが、まだ作れない。
まず小麦粉に卵を入れ、牛乳と砂糖を混ぜる。その後フライパンで焼けば出来上がりだ。
ベーキングパウダーが入ってないので、膨らまないのが難点だが、とてもおいしそうである。
バターを乗せ、蜂蜜をたらせば完成だ。これは職員たちに命じて作らせたのだ。
こういうものは言葉で伝えるより、実際に作らせなくては覚えないからである。
「おお、ホットケーキが完成したのですね。皆さんの評判はどうでしたか?」
「はい、とても好評でした。私もこんなおいしいものがあるなど、夢にも思いませんでした」
「そうでしたか。ですが、とある薬を入れれば、もっとふっくらしておいしくなるのですよ」
「確かベーキングパウダーというものでしたね。今職員の皆さんに作っていますが、なかなか難しいとのことです」
ちなみにベーキングパウダーは重曹で作られている。その重曹は炭酸水素ナトリウムだ。
もっとも重曹そのものを使うわけでないので、工夫が必要だが。
さて私はホットケーキを試食することにした。少しもそもそするが、甘みがあり、なかなかの美味である。
マギーも横からひょいと食べた。
「おいしいですわね。しかもマスターと間接キスをしてしまいましたわ」
マギーは頬を赤く染めている。ミルドレッドは乾いた笑みを浮かべていた。
なんか私たちの関係はとっくの昔にばれていそうである。
「そういえば砂糖はどこで手に入れるのでしょうか?」
砂糖はサトウキビやテンサイなどで獲られるのである。この世界ではどう手に入るかは、まだわかってないので、尋ねてみた。
「そうですね。西にあるアインデッカー家の領地にあるフォッカー砂漠にあるピラミッドから採れます。その中に安置されているミイラから砂糖が湧き出るので、キングシュガーと呼ばれているのですよ」
なんという斜め上な展開だろうか。なんで砂糖が砂漠から採れるんだ? しかもミイラから湧き出るなんて、信じられない。
そんな砂糖を口にしたいと思う人はいるのだろうか?
それ以上になんでメルヘンな世界に、ピラミッドがあるとは。世界観がめちゃくちゃだ。
『あるゲームに影響を受けた結果だろうな。私もまさかピラミッドが生まれるとは思わなかった』
突如、神の声が聴こえた。さすがの神様も説明する必要があると感じたのだろう。
「それって某RPGの三作目ですか?」
『いや、ゲームセンターに置いてあったモンスターランドというゲームだ』
そっちかよ! 学生時代によく遊んだけど、たどり着くまで苦労したよ!
すると奥にはスフィンクスがいて、なぞなぞを出してくるのか?
『正解だ。ちなみになぞなぞのヒントはピラミッドの番人が教えてくれるので、安心するがいい』
ゲームをよく知らないのに、なんで知っているのだろうか。たぶん、ゲーム好きの同僚に無理やり教えられたに違いない。
『……』
沈黙は肯定というわけか。神様も苦労していたんだな。
「あの、マスター。いかがいたしましたか?」
ミルドレッドが心配そうに声をかける。彼女は私が神の声を受信することを知らないからな。
「マスターは時折、独り言を口にするのですよ。気持ち悪いから、人前ではやめてくださいと進言しているのですが」
マギーはため息交じりで答えた。それだと私が危ない人だと思われるじゃないか!
いや、すでに人外の力を持つ私は、最初から異常に映るよね。
いまさら独り言をつぶやいても、普通に思われるかもしれない。
「そうでしたか。安心しました」
安心てどういう意味だろうか。ミルドレッドは心底安心そうに私を見ている。
一般人にしてみれば、私は脅威なんだなと思った。
「そうだ。今日はヴォルケのところに行く日でした。レオパルド子爵にホットケーキを作らせましょう」
もちろんまぼろしネズミたちの分も作ってもらうけどね。
「さて、着替えるとするかな」
「その必要はないでしょう。その素晴らしい衣装をレオパルド領で見せつければいいではないですか」
マギーはしれっと言った。この女、バニーガールの姿で街中を歩けというのか?
まるで私が変態と思われるではないか。
「そもそも、その衣装を変態と思うのは、マスターだけです。他の人は魔物に模倣したか、レオパルド子爵なら戦士の衣服と思うでしょうね」
そうなのだ。この世界ではバニーガールは未知の存在なのである。
肌を露出した衣装だが、卑猥さよりも戦士の衣装とみられているのだ。
「ねえマギー。私のこの姿を他の人に見られてもいいの?」
「構いません。むしろ他の人にも私のハーゼ、いいえ、マスターの雄姿を見ていただきたいのです」
「今、本音が漏れたよね」
クールビューティなのに、中身は変態で残念過ぎるな。普段、有能なだけに扱いが難しい。
「まあ、着替えをするのも面倒だし、早く行くとするかな」
私は窓を開け、外へ飛び出した。そしてレオパルド領へ走り出すのであった。
☆
一言で表すなら、ヘルメットを被らずにバイクを運転している感じだ。
風景や人があっという間に過ぎ去っていく。体全体に風をまとっているようである。
おそらく第三者には、つむじ風が吹いたようにしか思えないだろう。
自分で走っているのに、足が疲れない。走りずらいハイヒールを履いているのに、まったく問題ないのだ。
何とも言えない気分である。自分の身体なのに、別の生き物の身体を借りているようだ。
馬よりも早く、飛んでいる鳥を追い越す勢いだ。街道を走っているが、馬車も旅人も私が走っていることに気づかない。私は魔物に近い存在なのかもしれないな。
あと数十分でレオパルド領にたどり着くな。
「ちょいと待つだわさ!!」
いきなり声をかけられ、私は立ち止まる。
はてな、いったい誰だろうと、辺りを見回した。草原が広がっており、木がぽつんぽつんと生えている。
遠くには山が見えて、うっすらと青く見えた。周りには動物の姿は見えない。
「どなたですか? 私に声をかけた人は?」
「それはあたちなのだわさ!!」
そう言って草原から飛び出たのは、大きな白いウサギであった。
黒い魔女のようなローブを着ており、長いうさ耳を持った人間の少女の顔だ。
「あたちはうさ耳魔女のウサリーだわさ!!」
なぜかRPGにはピラミッドが多いよね。ドラクエ3のイシスとか、セガのモンスターランドとか。




