第十話 狩りの後に……
私は素早く北の山に移動する。自分の身体なのに、信じられなかった。
気分は某アンドロイド少女のようだ。「んちゃ!!」と地球を素手で破壊できそうな気がする。
それをやったらこっちが破壊神になるので、やらないけどね。
さて森の中は深い。深いだけに深いな気分になる。マギーから前もって情報をもらったから、大体わかる。
前世のように物忘れすることもない。それだけでもかなり嬉しかった。
人と普通に会話できるし、声も普通に出せる。緊張もしないし、どもらない。異世界転生して最高だと思った。
だからこそ、私の考えたことを実行すべきだ。前の世界は道徳がひどかった。勉強よりも常識を教えるべきなのに、まったくできなかったのである。
いや、人の悪口を言うのはやめよう。人の悪口を言うことは、他人も自分の悪口を言っていいということだ。
因果応報は実在するのである。
前に荒らしに騙されたが、その荒らしは他の人にも叩かれ、孤立したと知ったとき驚いた。
その癖そいつは全く学習能力がなく、同じことを繰り返したから呆れている。
私はそいつを反面教師とし、誠実に生きることを決めたのだ。
耳をすませば、どんな生き物が住んでいるかわかる。さすがにどんな種類があるかはわからない。マギー曰く、ニードルボアにカワハギ熊はもちろんのこと、うさ耳を剣として扱う、うさ耳セイバーや、頬張った木の実を鉄砲のように吐き出す、ビーハイブというリスの魔物がいるそうだ。
この場合、体の大きい魔物を探せばよい。姿かたちはマギーが図鑑を見せてくれた。
ハリネズミのような猪に、二足歩行のアライグマだ。
大きさや色などを記されており、発見すればわかるという。
「さて、探しますか」
私は気配のする方へ向かう。
森の奥には大きな滝があった。そこでニードルボアが大群で水を飲んでいる。
初めて見るが、なんとも狂暴な姿だろうか。バチバチと無数の針を鳴らしている。
これは一般人には無理だ。回収人でも難しいだろう。
特にニードルボアの針は槍のように鋭く、間合いを開けないといけないらしい。
弓矢で額を狙わなければいけないそうだ。
それなら私はまったく問題ない。まず適当な石を数個拾う。
それを親指で弾く。ニードルボアの額に決まった。
全員ふらふらと倒れていく。他の仲間は恐れて逃げていった。
ニードルボアは10匹きっちりいる。こいつらを持ち帰ろう。
これらは風船魔法で軽くするのだ。重い荷物は大抵その魔法を使うらしい。
ワープ魔法は難しいので、王宮魔術師でないとできないそうだ。
マギーに教わったがすぐにできた。彼女は結構驚いていたな。
「グルルルル……」
茂みの中から巨大なアライグマが現れた。カワハギ熊だ。
二足歩行だが、愛嬌がまったくない。狂暴なヒグマのようである。
さらに両手には大型動物の頭蓋骨を持っていた。
しかし、私には恐怖心はない。ニードルボアと同じく倒せると確信している。
私はすぐに小石を使い、カワハギ熊の眉間を撃ち抜く。
ふらふらとよろけて、どさっと地面に倒れた。
こちらは逃げ出さず、私に向かって怒りの表情をあらわにしている。
手に持った頭蓋骨を私に投げつけた。かなり大きく、当たれば痛い目に遭うだろう。
だが私には通用しない。投げられた頭蓋骨はまるでスローモーションのように見える。
逆に頭蓋骨をつかみ取り、カワハギ熊に投げつけてやった。
顔面を打たれ、慌てだしている。
その隙に人数分の獲物を狩るのであった。
☆
約束の数を達成し、風船魔法でぷかぷかと獲物の身体を宙に浮かせた。
カラスなどの鳥が獲物を横取りに来るが、追い払えばいいのである。
一息入れるために、水を飲んだ。とてもきれいでおいしい水だった。
人心地つく。すると森の奥で声が聴こえる。
なんというか腹の鳴る音だ。誰かお腹を空かせているのだろうか。
獲物を茂みの中に隠すと、音の鳴る方へ向かう。
さらに鬱蒼とした森で、あまり立ち寄りたくないところだ。
ある程度歩くと、目的地に着いた。
それは苔に覆われた大岩であった。これから音が聴こえる。
いったいこれはなんだろうか?
すると大岩に目が現れた。ぱっちりと丸い目が出てきたのだ。
「ん~? アンタ誰だい?」
驚いた。言葉を発したぞ。こいつは魔物だろうか。もしかしたら人喰いの巨人だろうか。
それに自棄に甲高い声だな。ヘリウムガスを吸った後の声みたいだ。
「私はハーゼ。人間です。あなたのお名前は何ですか?」
「なまえ~? なまえってなんだい?」
そこからかよ!! というか魔物はあまり名前に興味がないのかもしれない。
「……ところであなたはどこから来たのでしょうか? この森に昔から住んでいるのですか?」
「違うよ~。オイラ、上から落ちてきたんだ~」
そう言って岩男は右手で天を指した。まさか雲から落ちたのではあるまいな?
「オイラ、雲の上に住んでいたんだよ~。のんびり暮らしていたんだ~。でもある日落ちちゃったんだよね~。それでずっとここに座っていたんだ~」
ずっと座っていたか。彼は仲間が助けに来るのを待っていたのだろう。何ともけなげなことだ。
「するとあなたは仲間を待っているのですか?」
「なかま~? なかまってなんだい?」
「……」
「オイラ、こんな暗いところ怖くてさ。だからじっとして動かないでいたんだ。あんたはオイラに何の用があるんだい?」
なんかこいつ、仲間意識がまったくないようだ。魔物の考えは案外そうかもしれない。
「ところであなたは何も食べずに、過ごしていたのですか」
「う~ん、確かにお腹は減ってるけど、我慢できるよ~。雲の上じゃ、雲苔という苔を食べてたしね~。オイラの身体に生えてる緑色の苔は苦いけど、食えなくはないよ~」
やはり魔物だから栄養の取り方も違うようだ。おそらくこいつは人など喰ったことはないだろう。
そもそも証拠の骨などがない。村人は彼の空腹音に恐れをなしただけだ。
恐怖で人喰いの巨人を生み出したのである。人の想像力が一番怖いのだ。
しかし雲から落ちて何年たっているか不明だが、見つけた以上放置するわけにはいかない。
私は思い切って、彼を誘うことにした。
「あなたは行く場所がないなら、私と一緒に行きませんか? 人間の住む村ですが、私が口添えをしましょう」
「ふ~ん。別にオイラ、やることないし、ついていくよ」
あっさり決めおった。こいつ自分の意思がないのではないか。石に見えても意思がないのはどうかと思う。
「じゃああなたに名前を付けてあげましょう。雲の上から来たから、ドイツ語でヴォルケという名前にしましょうね」
昔読んだネーミング辞典を参考にした。うん、なかなかだと思う。
ヴォルケは名前の概念を理解していないが、嬉しそうだ。
「う~ん、オイラ、ヴォルケなのか。うん、気に入ったぞ」
こうして私はヴォルケを連れて行くことに決めたのであった。




