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7. true princess(3)

 ピュリピュリピュリ

 

 鳥の声がする……

 この声はサイだ


 夢混じりでユキの頭は考えていた。

 

 近くに留まっているのかな?

 

 サラサラとしたシーツは肌触りがよく、とても気持ちがいい。重たい目に朝の光が柔らかく届いてくる。

 うっすらと目を開けると白い薄絹が下がっているのが見える。よく見るとベッドの天蓋のようだ。

 うつ伏せになっていた頭を逆向きに動かした。

 ずっと同じ方向でも向いていたのか、少し首が痛い。

 

「うーん」

 唸りながら首を動かすと、窓とは反対側にはどアップで人の顔があった。

 

 アルスだった。

 ユキは飛び起きると、ベッドを後ずさった。

 

 ドタン!!

 

 ユキは後ろも振り返らず動いたため、ベッドから派手に転げ落ちた。

 

 もう朝から最悪だ


「……何だよ……? 朝から騒がしいな」

 アルスが目を覚ました。ベッドの下からユキの顔が覗くと驚いて、

「ユキ!? お前こんな所で何やってる?」と声を上げた。


「アルスこそ何なのよ? ここどこよ」ユキも同じように声を上げた。

 

 あっ

 と思いだした顔をしてアルスが呆れ顔になった。


「夕べ、お前…自分の言動覚えているのか?この酔っ払いめ」

 

 確かに少し頭が重い。でも覚えている。

 お姫様に微笑むアルスを。


「覚えているわよ。ちょっとお酒を飲んでただけじゃない。トーガ達といたわ。何で急にアルスが出てくるのよ?」

 ユキは思いだしてムッとした。


「お前がみんなに迷惑をかけているからだろう? 部屋に連れて行こうとしたら眠りこけるわ、結局どの部屋なのかわからないからここに連れてきてやったんだぞ」


 そう言われてしまうと、反論の手札もなくなってくる。

「だからって……。だからって何も同じベッドで寝る事ないでしょ! まさか……」

 ユキは自分の襟元を両手でしっかり閉じた。

 

 アルスもそのユキの行動にカチンときた。

「お前が俺のシャツに掴まって離さなかったんだろ! だいたいこんな可愛げのない女に誰が…………」

 言いかけてアルスもさすがに酷いと思ったのか、途中で言葉を詰まらせた。

 

 どうせ可愛くないですよ!

 

 ユキの怒りは沸点を超えた。大股で入口へ向かう。


「こんな可愛く無い私の側になんて居ないで、あのお美しいお姫様のところに行けばいいでしょ! バカ!!」

 そう捨て台詞を吐いてユキはピシャリとドアを閉めた。


 

 出発の時、清々しく晴れ渡った空とは打って変わって、皇子一行の空気は暗雲たれこめ、鬱そうとしていた。

 コルト(アルスの馬)に乗れというアルスの言葉を、ユキが断固として了承しなかったからだ。

 

「放っておいてよ」ユキは依然としてむくれている。


「……じゃあ、勝手にしろ!」

 

 アルスはひらりとコルトに乗ると門前へと進んで行った。

 ユキはずんずんと真反対の隊の後方へ歩いた。


 今まではなんとなくコルトに乗っていたけれど、これだけの人がいるのだ。

 別にアルスに乗せてもらう必要はない。

 

 モリさんはアルスのすぐ側を行くことはわかっていた。

 

 バトーには「乗せて欲しい」と言えば、どんな鳥肌物の言葉が返ってくるのか……。更にくっついて馬に乗るなんて、ちょっとした身の危険すら感じてしまう。


 ハセルには遠慮がちに断られるだろう。

 

 その為今回ユキはトーガに目星をつけていた。

「トーガ、お願い! 乗せて」

 ユキなりに可愛くお願いしてみる。


 トーガはどうしたもんかと小隊長のダライにお伺いをたてる。


「いいからお乗せしろ」

 出発の時が迫り、ダライがてきぱきと指示を出す。


「俺……着いたら首とか刎ねられませんよね?」

 トーガがダライにコソコソと耳打ちする。


「そん時は俺が首を拾ってやる」

 ダライが黒い冗談で笑い飛ばした。

 

 ユキはトーガが本気で困っている事には、気付かないフリをした。

 



 出発すると、皇子の一行の最後列では、あの殺伐とした空気が次第に薄れていた。

 とにかくユキがペラペラとトーガに話し掛けるのだ。

 うなだれていたトーガもユキの明るい声に、いつもの軽口が戻ってきていた。周囲からも笑いが漏れる。

 

 その反面、前列のアルスの周りは、さらに空気が重苦しくなっていた。

 背後で聞こえる黄色い声にアルスの怒りが沸々と湧いていた。

 

 出発前にアルスはとりあえずユキに謝っていたのだ。

 自分でも口が滑ったと思ってはいたけれど、別に本心ではなかった。売り言葉に買い言葉というやつだ。


 謝ってもユキはそっぽを向いて、

「気にしてないし」とつっけんどんだった。


 自分の気持ちとは裏腹に、背後で楽しそうにしているユキに心底苛立っていた。


「あーあ。俺も後ろに行きたいよ」

 モリの後ろでそっと呟いたのはバトーだった。

 

 モリが目でバトーを制した。

 


 一行は内陸にある首都、サインシャンドを目指していた。

 トルゴイ県からは西に位置している。


「ねえ、ここからサインシャンドってどれくらいかかるの?」

 ユキが背中越しにトーガに尋ねる。


「馬で行けばだいたい二日かな。途中サンガバナっていう大きなオアシスがあるんだよ。そこが中継地になってるから、一泊するんだ」

 

「天幕に?」ユキはヨデル湖を思い出していた。


「ああ、俺たちは天幕に泊まるよ。でも立派なバンガローが建ってるから、皇子たちはそっちだな。姫さんもそっちさ」

 

「へえ、そっかあ」

 ユキは考えあぐねていた。

 天幕はごめんだけど……アルスと顔を合わせるのも気まずい。


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