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11:魔法石の功績

 ユーグさんと向き合ったとき、私は聞かずにいられなかった。

「ユーグさんは、サディが嫌がらせの犯人だと知っていましたか?それが原因で仕事を辞めるのでしょうか」

「それは違う。彼女の解雇理由は、文書室の最重要規則である“個人的な理由で王宮職員の個別調書を見てはならない”ことを破ったからだ。彼女がアメリアの個別調書を勝手に見たことがそれに当たる」

 ユーグさんの言葉で腑に落ちた。私はサディに実家の場所は話しても家庭の事情は話していない。でも、もらった紙片のなかにはそれに触れているものもあった。

「文書室の大幅な人事異動のことを知っている?」

「はい。この時期になぜだろう、と思いました」

 人事異動は年に一度、新しい年の始まりだけが普通だと聞いている。だから今回の異動は2度目ということで異例なのだ。

「サディ・オージェが文書室に入ることになった年に、文書室で結構な地位についた者がオージェ家に縁のある人間だと分かってね。私や宰相が調べたら文書室には他にも、この者とともに文書室に来た何人かも彼女の行為に気づいたものの黙認していた。宰相が大鉈をふるい、陛下が了承した。だから、アメリアは責任を感じる必要はない」

 ユーグさんはそう言うけれど、サディがそこまでしたのは自分よりブラッドリーさんに近い私を排除するためで。やっぱり私はいくら責任がないと言われても心にしこりは残ってしまう。

 もし私が国王様の図書室に手伝いに行かなければ、サディはまだ私のよき隣人兼友人で休みがあえば甘いものを食べに行っていたかもしれない。もしかしたら、互いに恋の話なんかもしたかもしれない。

 サディの言うとおり、私ってお人好しなのかなあ…。


「ユーグさん、私ってお人好しなんでしょうか。サディのことを嫌いになれません」

「突然だな。でもアメリア、嫌いになれなくても彼女の行為を許すな。彼女は自分の気持ちのために人に嫌がらせをしたり、重要な規則を破って関わった人間の人生を狂わせた」

 ユーグさんの言葉にハッとする。そうだ、サディの行いは許されることじゃない。

「サディはこれから自分で償っていくってことでしょうか」

「オージェ家当主は頭のいい野心家だ。今回の娘の行動に際しての罰もとっくに考えているだろう。まあ、王都には二度と足を向けさせないために隣国か遠方に嫁がせるだろな。相手は当然自分の選んだ相手で、そこに娘の意思はないだろう」

 なるほど、自分の意思ではない結婚をさせるってことか。あれだけブラッドリーさんを好きだったサディにとってはどんな罰より辛いかもしれない。

「恋する一念ってすごいですね。小説では読んだことありましたけど、実際に目にするとは思いませんでした」

「……アメリアはブラッドリーのことをどう思っているのだ?」

「ブラッドリーさんは素敵な方だと思いますけど、一緒にいると緊張します。ユーグさんとは違いますね、やっぱり」

「私とはどうなのか聴いても?」

「ユーグさんと図書室で初めて出会ったときは驚きましたけど、今はお会いするのが楽しみです…すみません、公爵様にそんなこと言って…」

 自分の言動がちょっとずうずうしかったような気がしてうつむいた私の隣が軽く沈んで、温かい腕がぎゅっと私を抱きしめた。

「私も同じ気持ちだよ、アメリア。きみとの時間がいとおしくてならない。好きだよ、アメリア」

「えっ」

 思わず顔を上げると、そこにはしまったというユーグさんの顔が。

「すまない…こんなところで言うつもりはなかった。もうちょっとムードのある場所をと思っていたのに。これはアメリアが悪いな」

「え。どうしてですか?!」

「落ち込んでいるアメリアを見ていたら、つけこみたくなってしまった。怒ったか?」

 でもユーグさんの顔は笑ってて。

「お、怒るというか。突然で」

「でも、アメリアの周囲の人間は皆気づいているようだが?」

 そこでジリアンやトリクシー様の言動を思い出す。ブラッドリーさんもそういえば……もしや私は鈍いのか。

「……私は鈍いってことですね」

「アメリアはそれでいいんだ。ところで返事を聴かせてくれないか?」

 もしかして、以前に国王様が言った“勇気を出して手を伸ばしてごらん…”というのは、あの仲直りのことじゃなくて、このことだったのかな。

「私も、ユーグさんのことが好きです」

 ユーグさんの背中をそっとつかんだ。



~その頃の国王執務室~

「よかったなあああ、ユーグ!本当によかった。うんうん、お兄ちゃんは嬉しいぞおおお」

「エルネスト、仕事してくださいね。それからスハイツ、盗み聞きなんてエルネストみたいなことをしないように」

「わざとじゃないよ。アメリアにあげた魔法石が反応してるから俺がたまたまのぞいたらこんななってたの!だからここに来て陛下に教えれば喜ぶだろうと思ったんだよ」

「見苦しい言い訳ですね」

「なんだよ、兄上だって聞いてるじゃねえかっ!」

「…ほお、私にそんな口を聞くのはどの口ですか?」

「ごめんなさいすいませんゆるしてください」

「魔道士長を黙らせる宰相…私って本当に友人にも臣下にも恵まれてるよね」

「…兄上、陛下ってやっぱりすごいな」

「そこは認めましょう。さて陛下、無事にタレイラン公爵も配偶者を見つけたようですし、あなたもそろそろ王妃選びに本腰いれてくださいね」

「へっ?!それとこれとは別だろ?」

「そんなわけありますか?ありませんよね」

 宰相がにっこりと笑う(目は笑っていないが)。

 魔道士長は思った。やっぱりうちの兄上のほうが恐ろしいかもしれないと。

これにて第2章は終わりです。第3章は年明けから書けたらいいなと思っております。

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