第89話 緊急消火の不意打ち口づけと、お花畑要塞の繰り上げ残業
大魔導師アリアちゃんが、自分の災害報告書の山を俺のデスクの上へ丸ごと投げ捨てて研究室へと大脱走していった、あの衝撃の中退場から数時間後のことだ。
防衛隊の薄暗い隔離執務室(残業部屋)の中。
「はぁ……。アタシの手の方が書類のインクと胃薬の煤で大破しそうだよ胃が痛てぇ……」
目の下に真っ黒なクマを作った美人女隊長タイアが、デスクの上で胃薬をバリバリと噛み砕きながら、驚異的なチート処理速度でガシバシと複雑な書類の山を片付けていく真ん中、俺(人間姿)のデスクの上に置かれた書類の山は、前世がただの普通の高校生の脳なせいで、システムエラーを起こしたかのようにほんの少しずつしか片付いていなかった。
(あ、あかん!!!俺、アリアちゃんを助けてタイアさんを労うために軽い常識人のノリで『いいですよ♡』とか言っちゃったけど、この異世界の国家災害報告書の連立方程式、難解すぎて俺の脳細胞じゃ1ミリも役に立ってねぇじゃねぇか!!!)
俺がデスクの上で今にも大号泣しそうな形相で冷や汗を流して震えている、まさにその時だった。
「……あ、あれぇ……? マモルさん、何故こんな防衛隊の薄暗い残業部屋の密室で、私の隣に座っていらっしゃるの……?♡」
隣の椅子の上で、昨日のお返し不意打ちキスのあまりの強烈な熱狂バフのせいで、お頭の上にお花の幻覚をバチバチ咲かせたままフリーズしていたキアラちゃんが、ようやくルビーの瞳をキラキラと大復活させて、目を丸くして目を覚ましたのである。
「――ってお前、やっと目が覚めたかバカキアラァァァッッッ!!!(※タイア隊長のリアルな胃痛怒号)」
タイア隊長はすかさず胃薬を噛み砕きながらデスクを叩いた。
「勇者くんはキアラが使い物にならない不祥事の穴埋めのために、朝からアタシの隣のデスクで共同残業の生贄になってくれてるんだよ!!ほら、さっさとそのお花をパージして仕事を片付けなッッッ!!!」
「まあっ!!! マモルさん、私のために……っ!♡」
キアラちゃんは顔を一瞬で大赤面させてトロンと悶絶すると、「マモルさんにこれ以上の公務残業という過労を強いるわけにはまいりませんわァァァ!!!♡」と、俺のデスクの上の書類の山を「ごっそり」と両手で強奪していったのだった。
そこからの、特級エリート分隊長としてのキアラちゃんの書類処理速度は、元高校生の俺とは比べ物にならないくらいにマッハの超爆速だった。
ザッ、ザッ、ザババババッ!!!と、彼女の手によって国宝級のスピードで書類がみるみる減っていく。
のだが――時折、ピタリとキアラちゃんの手が完全に硬直する瞬間があった。
「……ふふっ♡ マモルさんとの、初めての共同作業ですわね……はふぅ、これ、実質私とマモルさんの結婚式の披露宴の受付の予行練習ですわ……っ♡」
「バカキアラァァァッッッ!!! また手が止まってヨダレ垂らしてお花畑ループに入りかけてるぞおい!!! 早くペンを動かせ胃が痛てぇ!!!(※タイア隊長の定期的な怒号)」
そんなバカバカしいすれ違い大騒ぎの天丼ループをデスクの上で何百回も繰り返しながら、窓の外の太陽が沈みかけ、人間の村の市場がすっかり夕暮れの茜色に染まる頃――、俺たちの前にあった地獄の書類の山が、ついに完璧に片付いたのだった!
「「「――終わったァァァアアアッ!!!」」」
俺とタイア隊長、そしてキアラちゃんの3人は、同時に執務室の天井を見上げて魂の大大号泣の快哉を叫んだ。
タイア隊長は「よし、勇者くんも本当にお疲れ様! 予定外の代筆だったがマジで助かったよ!アタシもお腹が減って限界だし、お礼に何かいつもの馴染みのカフェへ、極上の飯でも食べに行こうじゃないの!♡」と、これ以上ないほど晴れやかな苦労人笑顔で、俺をお礼の食事へと誘ってくれたのだった。
――そして。夕暮れのカフェへと3人で到着した、まさにその瞬間のことだった。
俺の隠密ライフの防衛線は、新たな不法侵入者を網膜にポップアップさせた。
「あッ!!! マモル見つけたっすゥゥゥ!!!♡ ウチ、こんな夕暮れの時間まで、一体何やってたっすかぁー!?♡」
カフェの入り口のテラス席の影から、人間の美少女形態(衣服完璧バージョン)へと擬態変身を完了させた火の部族のギャル・ガルダが、満面のガチ恋大興奮笑顔で俺のゼロ距離まで猛ダッシュで突撃してきたのである。
ピキィィィィィィン……!!!
そのデレデレとした強襲を直撃で浴びた瞬間、さっきまで書類仕事を終えてご機嫌笑顔だったキアラちゃんのルビーの瞳から、一瞬にして光が完全消滅(ヤンデレ覇気最大出力点火)した。
「……あら?出たわね、アタシのいない残業部屋の隙を突いてマモルさんの純潔を奪おうとする不衛生な泥棒猫が……ァァァ……。今すぐアリア師匠の作ってくれたこの特級破壊兵器の漆黒の杖で、その真っ赤な頭髪ごと村の入り口を更地消毒に――」
「な、何だ!? いかん!!! 勇者くん緊急事態だッッッ!!! あのバカキアラが、アタシじゃ抑えられない最高火力の杖の魔力陣を大点火させようとしてる!!! 早くお前のその完全無敵の消火器(唇)で、あのバカに緊急消火のキスをブッ放したまえェェェッッッ!!!(※タイア隊長の必死の絶叫)」
「くそっ、またこの緊急消火天丼システムかよ!!!」
俺は大慌てで、魔力をバチバチさせているキアラちゃんのゼロ距離まで突撃すると、タイア隊長の命令に則って、彼女の真っ赤な唇へと大急ぎで『緊急消火の不意打ち口づけ』を思いきりブッ放してやったのである!
んちゅむっ♡(※魔力をへし折る、マモルからの本日2回目の緊急消火キス)
「あへぅぅぅううう!?!?!?(※脳内のシステムが2連続で大爆破エラーを起こすキアラ)」
俺からの不意打ち消火口づけを正面から直撃で食らったキアラちゃんは、一瞬にして杖の魔力出力を完全パージさせると、頭の上の幻覚のお花を一気に満開の大インフレに大復活させ、「あへぅ〜♡ マモルさんの、2回目の愛のバフチャージ……っ♡」と、再び白目を剥いてテラス席の床の上へドサァッと完全にお花畑フリーズへと戻っていったのだった。
それを見たガルダちゃんは、ルビーの瞳をこれ以上ないほど羨ましそうに熱く大点火させて俺の顔に詰め寄ってきた!
「いいっすねぇー!!! マモル様との濃厚不意打ち口づけ!!! ウチも今すぐその唇でキスしてほしいっすゥゥゥ!!!♡……あれ? っていうかマモル、その堅物令嬢が装備してるそのカチカチの格好いい胸当てに使われてる魔導素材って……もしかしてマモル様の【漆黒の脱皮ウロコ】っすか!?(※野生の鼻による看破)」
「ブフッ!!!(俺の人間姿の顔面滝の汗)」
俺は一瞬にして心臓を大破させ、隣で目を丸くしているタイア隊長の視線を前に、マッハの速度で大嘘隠密ディフェンスをブッ放した。
「ガ、ガルダ!! 違うんだからもうお家に帰れ!!!(※必死のツッコミ)」
ガルダは不満そうに人間の可愛い唇をプクッと尖らせながら、俺のズボンに抱きついてワガママを言いだした。
「嫌っす!!! ウチもマモルからの聖なる口づけか、それかその黒ウロコを1枚貰うまでは、絶対に帰りたくないっすよォォォ!!!」
「わかった!!! ウロコならやるから、さっさと一瞬で直帰退散して帰れーーッ!!!」
「ほんとっすか!? マモル、約束っすよ!!!♡(※ご機嫌笑顔の最高ステップで街道の闇へダッシュで帰るガルダ)」
ガルダがこれ以上ないほどハッピーに去っていき、静まり返ったカフェの前。
タイア隊長は、今しがた起きた怪獣級のドタバタ劇を網膜に焼き付けながら、胃薬をポリポリと静かに食べつつ、俺の顔をニヤニヤとした引きつった苦笑いで見つめてきた。
「……いやぁ、嵐のような女の子だったな勇者くん。ぶっちゃけ、ウチの暴走堅物令嬢と、さっきの元気なギャル、君にとってはどっちが本当の『本命(婚約者)』なんだい?♡」
俺は顔面から滝のような冷や汗を流しながらも、常識人の誠実なキリッとした顔を作って、ハッキリと言い放った。
「キアラちゃんです!!! あいつ(ガルダ)はただのストーカーです!!!」
「へぇ?♡(※意外そうな顔をするタイア隊長)」
俺のピュアすぎる高校生としての防衛線のセリフを鼓膜にログインさせたタイア隊長は、ニヤニヤとした笑みをふわりと和らげると、「モテる男はいいねぇ。さて、お礼の食事にしたいところだが…… 」と、テラス席の床の上で白目を剥いて「あへぅ♡」とお花を咲かせているキアラちゃんを見つめた。
「このお花畑の様子じゃ、とてもじゃないがテラス席でパスタを優雅に食事できる状態じゃないな。 今日のお礼はテイクアウトのサンドイッチに変更にして、また書類仕事の無い後日に改めてごちそうすることにしよう♡」
タイア隊長は店主へ大急ぎでサンドイッチのテイクアウト袋を追加注文して受け取ると、床の上で転がっているキアラちゃんを優しく見つめ、またニヤニヤとしたからかい顔で俺に聞いてきた。
「キアラはアタシがこのままおんぶして送っていくが……いや、勇者くん? 君がこのまま彼女を腕の中に優しく抱きかかえて、キアラの自室のベッドまで直接送っていくかい?♡」
俺は前世18歳のチェリー高校生としての理性の防衛線を最大出力で大点火させると、顔面を真っ赤にさせて、大慌てで顔を横にブンブンと激しく振りまくった!
「へえ?(笑)」
俺のそのガチで慌てて純潔を守ろうとする常識人な態度を網膜にログインさせたタイア隊長は、胃薬のボトルを胸ポケットにしまいながら、これ以上ないほど頼もしい先輩騎士としての「本物のデレ(信頼の笑顔)」を浮かべて俺の肩をポンと力強く叩いた。
「キアラに手を出すような男だから、もっとチャラチャラした軽い男だと思っていたんだが……。君、なかなかしっかりとした常識的な理性の防衛線を持っているじゃないか。アタシ、君のそういう誠実なところ、結構リスペクトするよ♡」
タイア隊長はキアラちゃんの襟元をその強靭な防衛隊の腕力で優しくズルズルと鷲掴みにすると、「これからも、この可愛くてバカなキアラをよろしく頼むよ、勇者くん!♡」と、最高の笑顔を俺に残して、気絶したままのキアラちゃんを引きずって兵舎の方向へと夜の街道を去っていったのだった。
………………。静まり返る夜のカフェの前。
キアラちゃんもタイア隊長も去っていき、俺は自分用にテイクアウトしたサンドイッチのパック容器を人間の両手に抱えながら、
(システム無敵になった途端に、俺の唇が完全にタイア隊長の『対ヤンデレ完全要塞用・緊急消火器オブジェクト』として公式承認されちまってんじゃねぇか!!!だけど……、タイア隊長に常識人として認められて、スローライフの信頼の防衛線が完璧に大勝利クリアしたじゃねぇか!!!)
と、心の中で魂の大号泣歓喜ステップを噛み締めていた。
俺は人間の姿のままサンドイッチの袋を抱きしめると、これ以上ないほどご機嫌笑顔のステップのまま、大集落の我が家の直りたての美しいドアへと向けて、夜の街道をハッピーに直帰退散するのだった。
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(次回更新:来週土曜日18時40分!)




