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56話 重なる偶然

「時間はかかったけど大したことなかったな!」


道中数体の敵に出くわしたものの、特に問題も起こらず俺たちは目的地の神殿都市に到着した。

依頼人の女性を見送って依頼報酬を受け取り、その後俺たちは当てもなく歩きながら都市を見て回った。


「なあなあ、あいつらが合流したらまたレベル上げ行かねえか?」

「あー、夜は別の人とクエストに行く約束してるんだ。悪いな」

「全然悪くねえよ。んじゃレベル上げはまた今度行こうぜ!」


それからもハルトと雑談をしながら歩き続け、日も暮れ始めたところで解散になった。


「ふぅ、バルドさんとの合流までまだ時間はあるし、それまでに晩飯済ませないとな」


手早く風呂を済ませ、コンビニ弁当を温める。


「それにしても、まさかハルトにあんな悩みがあるなんてな」


高校卒業までに幼馴染の二人のどちらかを選ばなければいけない。

漫画やアニメのような展開がまさかこんな身近に起こるなんて……


ハルトの相談相手に選ばれたからにはどうにかしてやりたいと思っている。

気づけば飯を運ぶ手は止まり、しばらくの間彼らについて真剣に考えを巡らせていた。


……これ、答えなんてなくないか?

どうしたって選ばれなかった人は悲しむし、三人の関係はそこで変わってしまう。

そりゃ、ハルトがいくら悩んでも答えなんて出るわけがない。


というか、確かに深刻な悩みなんだろうが、俺からしてみれば贅沢過ぎる悩みだ。

独り身でコンビニ弁当食ってるおっさんの身になってみろ!


急に考えるのがバカバカしくなり、俺は少し冷めたコンビニ飯を胃に流し込むとそのまま仰向けに寝転んだ。


「はぁ、彼女ほしい……」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「え?二人の女性を選ばなければいけないならどうするか、ですか?」


集合時間になりバルドさんと合流すると、俺たちは前回失敗した隠しクエスト【名馬を求めて】を再受注し、モノクルス討伐の為に街を出た。


モノクルスの待つ街道へは少し時間がかかる。

世間話ついでに俺は例の問題のアドバイスを貰おうと、あくまで仮定の話と伝えてからバルドさんにハルトの悩みを伝えた。


「難しい問題ですね。どちらかを選択したらどちらかは不幸になるなんて」

「そうなんですよ。こんな問題に答えなんてあるんですかね」

「わ、私はこういった経験が乏しいので、その……ユキトさんの望む答えかどうかはわからないのですが――」


バルドさんは人見知りではあるものの、頼りになるし常に周りに気を配って配慮してくれる尊敬できる人だ。

だからこそ、そんなバルドさんがどんな答えを出すか純粋に興味があった。


「じ、自分の気持ちに素直になって、本当に幸せにしたい人は誰なのかよく考えて選びます。そしてお付き合いしたとしても三人の関係が壊れないように全力で行動します」


それができれば一番いいんだろう。

だが現実はそんなに甘くないことを俺は知っている。


(……全力で行動、か)


どれだけ頑張っても三人は幸せになれない――俺は勝手にそう決めつけ、その考えをハルトにも押し付けようとしていた。


だが楠木さんと自然に話せるようになり、部長のセクハラを止めることができたのも、俺が自分で選択して行動を起こしたからだ。

何かを成し遂げるには行動を起こさなければいけないことを、身を持って経験したはずなのに……


そんな当たり前なことを忘れて、自分のちっぽけな経験だけで物事を決めつけていたことにため息が漏れた。


「ほんとに歳は取りたくないもんだな」

「え?」

「いえ、なんでもないです。あ、そろそろ着きますよ」


3mの巨躯を誇るモノクルスを視界に捉え、相手もすぐにこちらの存在に気づくと、初見殺しの投擲を合図に戦闘が開始された。


「……パワーショット、パワーショット……はぁ」


モノクルスの投擲攻撃を避けた俺は、やつの大きい目に向けて鉛玉を撃ち込んだ。

あくまで牽制程度、少しでも動きを阻害できればと願った一撃は、俺の予想を大幅に超えてモノクルスの足を完全に止めることに成功した。


目を手で覆いその場で膝をついたモノクルスは、数秒後怒りの形相とともに雄叫びを上げこちらに突っ込んでくる。

怒りで我を忘れたのか、弱点である目を一切庇う様子もなく突っ込んでくるモノクルスに、俺は再び鉛玉をぶち込んだ。


それからも俺はまるで作業をこなすように、同じ動きをするモノクルス相手に淡々とスキルを放っていった。


「あの、ちょっと気が引けてきたんですけど……」

「あはは、モノクルスは近接武器だけで挑むと強敵なんですけどね。私もソロでしか挑んだことがなかったので、遠距離武器がここまで効くとは思いませんでした」


バルドさんはそう言うとゆっくりと歩き出し、膝をついているモノクルスに向けて大剣を振り下ろした。

報酬ログが表示されると、ひと仕事終えたかのようにバルドさんは息を吐き、大剣を収めながらこちらに振り向く。


「ユキトさんのおかげで楽に倒すことができました」

「少し拍子抜けでしたけどね」


俺の冗談交じりの言葉にバルドさんは笑顔で応えた。

達成報告をするために王都へ向かった俺の足は、クエスト報酬が待ちきれんと言わんばかりに速くなり、行きの半分程度の時間で王都にたどり着いた。


「これが天駆(てんく)の鐙(あぶみ)か」


アイテム名:【天駆の鐙】

効果:騎乗時の安定性UP/落下時の衝撃軽減


「……なんていうか、地味だな」


店主への報告を済ませ、念願の鐙を手に入れることができた。

しかし隠しクエストの報酬ならとんでもない効果が付与されていると思っていた分、あまりにも地味な効果に思わず肩を落とした。


「ようやく鐙をゲットできましたね!」


バルドさんは鐙を手にしながら嬉しそうにこちらを見ている。


そうだよな、目的の鐙は手に入れたんだ、効果が微妙だからって落ち込んでどうする!


「バルドさん、付き合っていただいてありがとうございます」

「いえいえ、とても楽しかったです」

「思ったより早く終わりましたけど、この後どうします?」


予定では今日一日かけてクエストをこなす予定だったが、モノクルス討伐が想定以上に早く時間が余ってしまった。


「ごめんなさい、少し用事があってクエストが終わったら落ちようと思ってたんです」

「そうなんですね、それじゃ今日はこのまま解散しましょうか」


そう言ってすぐにパーティを解散すると、バルドさんは俺に挨拶をして早々にログアウトした。


「さて、これからどうするかな」


当てもなく歩いていると冒険者ギルドの看板が目に入り足を止める。

ギルドとは名ばかりで、VOでの役割はクエスト受注所としての役割しかない。

そのクエストも街中にある掲示板からでも受注できるので、冒険者ギルドをわざわざ利用するプレイヤーは少ない。


(金稼ぎといきますか)


再度クエストを受けるためギルドに足を踏み入れ、目ぼしいクエストがないか物色する。


「あ……」


クエストは難易度ごとに分けられていて、俺の受けられるクエストは☆3辺りが妥当、ソロで挑むことを考えるのなら☆2が適正難易度なのでその中から探していく。

☆2のクエストはゴブリン討伐から薬草採取まで幅広く、その中で目に止まったのは今日ハルトとクリアしたばかりの護送クエストだった。


クエストは毎回ランダムで張り出されるので同じクエストを連続して受注することはあまりないが、たまにこうして巡り合うこともある。


(……ありだな)


護送クエストは時間こそかかるが難易度は低く、報酬は他に比べるとかなり高い。

俺は迷わず依頼書を手に取り、依頼主の女性の元へ走り出した。


「それでは神殿都市までの道中、どうぞよろしくお願いいたします」


堅苦しい物言いの依頼人は、前回と同様の言葉を並べて馬車を走らせた。


「よしよし、いい感じだな」


俺は今回プリンに騎乗した状態でクエストを開始した。

始めこそ慣れない視点と操作に苦労したが、数キロ移動した頃にはすっかり慣れ、先行して敵がいないか確認する余裕もでてきた。


「それにしても、モンスターの姿が見えないな……もしかしてこのまま移動だけでクエストクリアできるかもな」


前回モンスターが現れた地点はすでに通り過ぎている。

一人で護衛している緊張感は少し和らぎ、安堵のため息とともに力が抜けたその瞬間――


「きゃああああっ!」


依頼人とは違う女性の叫び声を聞いて、俺の体に一気に緊張が走った。

声のした方へ振り向くと、馬車の後方から炎が上がり、依頼主が何か叫びながら馬車の中に駆け込んで行く。


クエストの進化条件を達成しました。

クエスト名:【秘め事を運ぶ者】

クエスト内容:

神殿都市ルミナ=リエまで護衛対象を無事に送り届ける


「な、なんだよ、これ……」

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