55話 苦い思いと恋愛事情
「もうこんな時間か……」
コンビニで凛心に捕まり、ようやく解放され家に帰ったが、着いた頃にはお昼時をとっくに過ぎていた。
(はぁ、あと半日で俺の休みも終わりか……)
休日も二日目の昼になると、明日のことが頭をよぎって胸がざわめき始める。
「ああーくそっ、あと半日あるのにこんな気持ちでいたら休みなんてすぐ終わっちまう!」
憂鬱な気分を振り払うように頭を振り、手早く昼食を済ませゲームの電源を入れる。
一分一秒無駄にしないため、俺はすぐに狩場へ向かおうと駆け出したが、すぐに足を止めた。
レベル上げは必要だ。
でも残りの休日をモグラ狩りで消費して本当にいいのか?
「……予定変更だ。クエストを受けに行こう」
レベルも大事だが、俺には今金がない。
クエストなら金を稼げるし、ただレベルを上げるよりも気分転換になるだ。
「護送クエか、割はいいけど……」
【馬車の護送】
難易度:☆☆
報酬:金貨八枚
クエスト内容:
王都から神殿都市ルミナ=リエまで馬車を護衛
金貨八枚、☆2としては破格の報酬だ。
(普通のクエストなら即決なんだが……)
護送クエストはワープも使えず徒歩での移動となるので拘束時間は他のクエストよりも長い。
さらにいつモンスターの襲撃があるかわかないので常に気を張らなければならない。
チラりと他のクエストに視線を向けるが、報酬額を見て思わずため息が漏れた。
(しょうがない、今は金が優先だ)
クエストを受けようとボードに張ってある張り紙を取ろうとして手が止まる。
人数がいればその分取り分は減るが万全を期すなら最低でもあと一人、一緒に行く仲間が欲しい。
とはいえ、今俺が誘えるフレンドは――
[ハルト]ユキトいるじゃん!暇ならレベル上げ行こうぜ!!
[ユキト]すまん、暇っちゃ暇なんだが今からクエストに行こうと思っててな
[ハルト]マジかー、それ一人でやんの?俺も付いてっていい?
「ふっ、くく……」
あまりのタイミングの良さに思わず笑いが漏れる。
なんだろうな、この自分の気持ちに正直というか――相手の都合をあまり考えていない言動はいっそ清々しいと思った。
俺は人の目も気にするし、断られたらと思うと自分から積極的に何かを誘ったりなんてなかなかできない。
ましてや昨日会ったばかりの相手となればなおさらだ。
ハルトの言動に嫌悪感はない。
むしろ少しだけ羨ましいとさえ感じている。
[ユキト]ああ、むしろ誰か誘おうと思ってたから助かる。
[ハルト]さすが俺!タイミングバッチリだな。そんじゃ今からそっちに向かうわ
「ん?ハルトだけか?」
三人で来るとばかり思っていた集合場所に現れたのは、ハルト一人だけだった。
「そうなんだよ。二人とも用があるっていうから俺一人でログインしたんだ」
ハルトと俺の二人だけか、☆2のクエストだしよほどのことがない限り大丈夫だろうが……
「念の為に聞きたいんだけど、ハルトのジョブって――」
「俺か?俺は戦士だ!」
「お、おお、そうか。なんか意外だな、てっきりもっと派手なジョブを選んでるとばかり――」
ハルトはパーティ名をかっこいいからという理由だけで決めていた。
そんなハルトだからこそ、ジョブももっと派手なものを選んでいると思っていた。
「ああ、俺は暗黒騎士になりたいからな。少しの間くらい我慢するさ」
「ん?何いってんだ?戦士になってるならもうジョブの変更なんてできないだろ?」
「え?」
「え?」
俺たちは互いに首を傾げ、俺はハルトが何を言ってるかすぐには理解できなかった。
「――つーわけで、暗黒騎士になるには戦士からジョブ進化しないといけないんだよ」
「マジか、全然知らなかった……」
暗黒騎士――自身の体力を削って繰り出すスキルが多く、体力減少に伴って攻撃力が上がる超攻撃的なジョブだ。
暗黒騎士になるには戦士のジョブに就いた後、特殊なクエストを達成することでジョブ進化できるとハルトは言った。
「ゲーム始める前にいろいろ調べてさ、暗黒騎士はジョブ進化の方法も詳しく載ってたし絶対かっこいいからすぐに決めたぜ」
このゲームジョブ進化なんてものがあったのか……
いや、でもそれが当たり前なのか?この手のゲームでジョブ進化がない方がむしろ珍しい。
「それって戦士だけがジョブ進化できるってわけじゃないよな?」
「ん?ああ、俺が調べたのだと治癒師は神官や巫女――それと、弓術士なら弓聖ってのもあったはずだぜ」
経験上ジョブ進化は、ジョブのレベルを上げなければならないはずだ。
今すぐにどうこうできるわけじゃないが、テイマーを極めた先にある新しい可能性にワクワクが止まらない。
(よし、まずはサクッとクエストを終わらせるか)
「それでは神殿都市までの道中、どうぞよろしくお願いいたします」
「おう、任せとけ!」
堅苦しい物言いの依頼人と軽く挨拶を交わし、俺たちは神殿都市に向けて歩き出した。
「なあなあ、もっと早く移動できないのかよぉ」
ただ歩くことに飽きたのか、ものの数分でハルトの口から不満の声が漏れた。
「気持ちは分かるけどこればかりはどうしようもないから我慢だな。それよりいつ何が来てもいいように警戒を怠るなよ?」
「んなこと言ったってよぉ……あ、ちょうどいいや、せっかくだしユキトに相談したいことがあるんだけど」
「相談?俺に?」
人に相談される事がほとんどない俺に答えられることなんてあるのだろうか。
そんな事を内心で思いつつ、めったにない相談相手に選ばれた嬉しさを隠すために平静を装った。
「アオイとカエデのことなんだけどさ、二人のことユキトはどう思う?」
どうとは?
二人とも可愛らしくていい子たちだと思うが……
「昨日会ったばかりでどうと聞かれてもなぁ。まあ素直そうないい子たちだと思うよ」
セクハラにならず、かと言って質問の意図も汲み取った完璧な回答だ。
咄嗟にしては十分過ぎる回答に心のなかで自分に拍手を送った。
「だよなぁ。二人ともほんとにいいやつらでさ、だから困ってるんだ」
「二人がいい子で困る?どういうことだ?」
「二人とも俺の幼馴染でずっと一緒にいるんだけどさ、そろそろ二人のどっちかを選ばなきゃいけないと思うとどうしてもな……」
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「えっと、つまりあれだよな、えーっとぉ……ごめんどういうこと?」
「だからさぁ、俺はあいつらが好きだしあいつらも俺のこと好きなわけじゃん?でもずっと三人ではいられないだろ?だから高校卒業するまでにどっちを選ぶか決めなきゃいけないんだ――って、聞いてるか?」
「あ、ああ、意外な相談だったもんで一瞬混乱しちまったけどもう大丈夫……です」
こんな俺でも、学生時代付き合っていた女性がいた。
気になっていると彼女から告白され、俺は有頂天になりその場で告白を受け入れた。
そして記念すべき初のデートで俺は緊張のあまりまともに喋れず、ただただ無言で歩くだけという地獄のような時間を過ごし、翌日に彼女からあっさり別れを告げられた。
そんな俺が二人の女性から好意を寄せられる男の相談にのっていいのだろうか。
「その、なんだ、昨日会ったばかりの俺にするような相談じゃないと思うんだが……」
「俺本当に悩んでるんだ……友達に相談しても今の関係を続けた方がいいって言われてさ――でも、それじゃダメなんだよ!」
ハルトの真剣な声色に、俺は思わず息を呑んだ。
「でも、どれだけ考えたってどっちかを選ぶなんてできなかった。だから昨日会ったばかりのユキトなら率直な意見をくれるんじゃないかと思ってさ。なあ、頼むよ力になってくれ!」
きっとハルトは藁にもすがる思いで俺に相談したんだろう。
そんな男を前に、経験が少ないからアドバイスできないとは言えなかった。
「分かったよ。でも、すぐに答えられる問題じゃないから少し時間をくれないか?それにもうゆっくり話してる時間もなさそうだ」
俺はハルトから視線を外すと、前方に現れたモンスターに向けてパチンコを構えた。
「ったく、ようやくお出ましか。それじゃあユキト、この話はまた今度な!行くぜっ!」
ハルトの声にモンスターが反応し、それが戦闘開始の合図となった。




