42話 古層の迷宮③
愛多の助けによりコパースライムの奇襲を何とか凌いだ俺は、この戦闘でレベル6になった。
ステータスにそこまでの変化はないが、先程のエルビートルとの戦闘で習得した『スラッシュ』によって、俺の戦闘力は確実に上がっている。
「ようやく、俺にもスキルが……」
「なになに~?おじさんもようやく武器スキル習得したん?」
「あ、ああ、さっきの戦闘でな」
「おめでとうございます!ち、ちなみにどんなスキルを習得したのか教えていただいても?」
バルドさんは俺の習得したスキルが気になるようだ。
「えっと、スラッシュっていうスキルですね」
「スラッシュですか、扱いやすくて良いスキルですよね」
説明を見る限りスラッシュは決して派手な技ではない。
それでも、今まで武器スキルを持たなかった俺にしてみれば、どんなスキルだろうがありがたい。
「そういえば、以前調べた時に適正装備以外の熟練度は上がらないって書いてあったはずなんですけど、何で俺は片手剣の熟練度が上がったんでしょうか?」
もしかしたら俺のアカウントだけ特別で、時間を掛ければ全ての熟練度が上がるチート仕様なのかもしれない。
主人公がチートを授かり無双する物語。
そんな訳はないと思いつつ、どこか期待してしまっている自分がいる。
「ああ、ユキトさんもしかしてAI以外の攻略情報をみたんじゃないですか」
「そうですね、ネットにあるサイトを参考にしてます」
「たしかに以前は職業による適正武器以外の熟練度は上がらなかったんですが、半年以上前のアップデートで適正武器以外の熟練度も上げられるようになったんです」
半年以上前のアップデート?
ということは、まさか――
「ユキトさんの見たサイトというのは、おそらく随分前から更新を止めているんじゃないかと……」
昔散々お世話になったゲーム攻略サイト、昔はアップデートが来るたび、即座に情報をまとめる個人攻略サイトがいくつもあった。
しかし今は、そういうサイトも随分減ってしまったらしい。
「おじさんどしたん?急に黙っちゃって」
「いやなに、時の流れってのは残酷だなと思ってな」
「え?もしかしておじさん――髪薄くなっちゃった?」
「そういう意味じゃねえ!」
こいつは俺を何だと思ってるんだ?
確かにおっさんではあるが、まだ薄くなる歳じゃ……大丈夫だよな?
いや、そんなことよりも――
「あの、それじゃあもうAIを使わないと攻略情報は調べられないってことですか?」
「いえ、探せばちゃんと更新しているサイトもありますし、それ以外にも書籍も出ているので――」
バルドさんはその後も詳しく説明してくれた。
別にAIが嫌いというわけじゃない。
でもすぐに答えがでるより、苦労しても自分で答えを見つける方がしょうに合っている。
それにしても、俺だけのチート能力じゃなかったのか……
いや、チートじゃなかったとしても、近接系の武器も使えるならいろいろ不便な遠属性を捨ててこっちを極めるのもありかもしれない。
俺は鞘から剣を引き抜き、勢いよく振り下ろす。
「スラッシュ!」
淡い光が刃を包み、次の瞬間、腕が導かれるように動いた。
鋭く放たれた一撃――しかし、
その刃は虚しく空を切った。
「ちょっと、急にどうしたの!?」
愛多が慌てて詰め寄ってくる。
「初めてのスキルを試してみたくってな。やっぱりスキルはいいよなぁ」
「まったく、するならするで事前に言ってよね!ビックリするじゃん」
愛多に軽く謝罪をし、剣を鞘に戻した。
警戒しながら進んでいると、やがてT字路に差し掛かる。
両方の道を進む予定なので、俺たちは悩むことなく左の道を選んだ。
少し進んだ先、通路の突き当たりに扉が現れる。
「扉を開けたら敵が襲ってくる――なんてことないよな?」
「大丈夫じゃね?それにどうせ開けるんだし悩んでもしょうがなくない?」
「むぅ……」
慎重になったのは、歳のせいなんだろうか……たまにこの無鉄砲さが羨ましくもある。
「んじゃあいくぞ、一、二、の三!」
勢いよく扉を開き身構えたが、そこに敵の姿はない。
扉の先は小さな部屋になっていて、その中央には台座に乗った宝箱が置かれていた。
「わぁ、やったね宝箱じゃん!」
「待て待て、罠が仕掛けられたり宝箱がモンスターの可能性だってある。ここは慎重にだな――」
「ああ、このダンジョンの宝箱なら大丈夫だと思いますよ」
俺たちが言い争っていると、後ろから見ていたバルドさんからアドバイスが飛んでくる。
「ここのような初心者用のダンジョンは、価値の高いものはめったに出ませんが、その代わり危険な罠などが設置されていることもほとんどないので」
「それじゃあ、さっそく開けちゃおー!」
愛多はそう言って躊躇せず宝箱を開けた。
宝箱が開くと同時に、目の前にアイテム取得画面が表示される。
「魔力ポーション(劣化)、か」
周囲を見ると、愛多やバルドさんも俺と同じように画面が表示されたようだ。
「これって当たり?」
「うーん、ハズレとまではいいませんが、そこまで貴重なものでもないですね」
魔力ポーションはMPを回復させるための手段として用いられる消費アイテムだ。
MPは自然回復するが、戦闘など緊急を要する場合、即座に回復できるポーションは重宝する。
(とはいってもなぁ……)
魔力ポーションを見ながら俺はため息を吐いた。
MPが減れば重宝する魔力ポーションも、MPが減っていなければ無意味だ。
そして、俺の操作する『ユキト』はMPを全く消費しない。
武器スキルはCTこそあるがMPを消費せず、生産系ジョブなら使用するらしいが俺のサブジョブは解体屋だ。
せっかくの宝箱に期待したが、そうそう上手くはいかないらしい。
「この先にも宝箱はあるはずです。気を取り直して進みましょう」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
目の前には道を塞ぐように三本の木が生えている。
石畳のダンジョンに根を張るはずもないその木は、異様な存在感を放ちながら道を塞いでいた。
「いや、これどうみてもモンスターだろ……」
周囲の環境も相まって、あきらかに自然のものではないと判断できる。ただ――
(名前が表示されない?)
「あれはツリーパーと言います。あれでも一応擬態してるつもりなんでしょう」
後方から見守っていたはずのバルドさんは、いつの間にか俺たちの横に並んでいた。
「擬態、ですか……あの、あいつらの名前が表示されないのと関係ありますか?」
「一部のモンスターは名前が表示されないことがあるそうです。ツリーパーの場合は擬態の影響ですね」
湿影の森に現れた【侵蝕のアラフニア】、あれも何かの能力で名前が表示されなかったのかもしれないな。
「ダンジョンでは問題ないですが、森の中ではとても危険なモンスターなので要注意です」
名前も表示されず、見た目は木にしか見えないツリーパーが森にいたら――確かに危険なモンスターだ。
「力は強く堅い外皮に覆われていますが動きは速くないので、相手の行動に注意すればそこまで手こずるモンスターではないはずです」
擬態が成功していると思っているのか、あちらから動く気配はない。
それならばと、俺と愛多は敵を目の前にゆっくりと作戦会議をすることにした。
「普通に切っちゃえばよくない?」
「話聞いてたか?バルドさんが堅い外皮に覆われてるって言ってただろ?」
「じゃあどうすんの?私もおじさんも剣以外、攻撃方法なくない?」
前回と同じように囮作戦――は、エルビートルの非力な攻撃ならまだしも、力の強いツリーパーの攻撃を防ぎきれる自信はない。
ブーメランも相変わらず使えないとなると……
「よし、できるかわからんが一匹に石を当てて釣ってみよう」
「もしそれで全員釣れちゃったら?」
「そんときはこれを使う」
俺はエルビートルからの解体報酬で得た油嚢をストレージから取り出した。
油嚢の油は俺が投げれば劣化せず使用できる。
粘性に加え、まとわり付いた油に火を点ければ多少の足止めにはなるはずだ。
上手くいけば木であるツリーパーなら、そのまま燃え続ける可能性だってある。
ストレージから小石を取り出し、慎重に狙いを定める。
(今――は?)
小石を投げようと踏み込んだ瞬間、足元から突然光が溢れ出す。
足元の光はやがて俺の視界を真っ白に染め、次の瞬間――目の前が真っ暗になった。




