04話 フレンドメッセージ
彼女の瞳は、まっすぐ俺を見据えていた。
画面越しに映る、ただのアバター。
それでも俺には、彼女が今にも泣き出してしまいそうな――ひどく脆いものに見えた。
たかがゲームだ。しかも、ただ一緒に遊びたいってだけの……なんてことないお誘いだ。
でも彼女にとっては、そうじゃない――
彼女はこの世界が大好きだと言っていた。
だからこそ、安易に返事をしてはいけないと思った。
少しの間沈黙が流れ、その沈黙を答えだと受け取ってしまったのか、シエラさんは力なくうなだれた。
そんな時、パンッと大きな音が草原に鳴り響いた。
俺とシエラさんは同時に音のする方へ視線を向ける。
その先には、クリスさんが手のひらを合わせてじっと俺たちを見据えていた。
「はーい、いったんストップ!二人とも、わたしのこと忘れてなぁい?」
おっしゃる通り、俺はこのインパクトの強い存在を、すっかり忘れていた。
「まーったく、二人とも堅すぎよ~。ていうか、しぃちゃん重すぎよ~。他の人が見たら愛の告白かと思っちゃうわ!」
クリスさんの言葉に、一瞬にして顔が真っ赤に染まったシエラさんは、ぽかぽかとクリスさんの肩を叩いている。
「赤くなっちゃって、可愛いわねぇ。こっちの表情のほうが素敵よ」
クリスさんのおかげで、張り詰めていた空気がなくなっていた。
シエラさんと目が合うと、彼女は耳まで真っ赤にしてクリスさんの背後に回った。
「あなたもごめんなさいね。この子はいろいろ抱えちゃうところがあるから、あまり深く考えないでちょうだい」
クリスさんは優しく微笑みかけ、ゆっくりと続きを口にした。
「でも、わたしもしぃちゃんと同じ意見よ。あなたとなら楽しく遊べそうだもの」
「俺のこと、買いかぶりすぎです」
「うふふ、さーてもうこんな時間だし、今日はとりあえず解散にしましょう」
部屋にある時計を確認すると、すでに日付が変わっていた。
シエラさんは何度も頭を下げ、クリスさんは「返事は後日聞かせてちょうだい」と言い残して、その日は解散した。
俺は布団に横たわりながら、スマホの画面を見ていた。
ログアウトする直前、クリスさんから「連絡できないと困るでしょ」と言われ、フレンド交換を提案された。
ヴァルセリア・オンラインには専用のアプリがある。
掲示板を使った募集や勧誘、装備の確認やイベントの告知など、機能が充実している。
プレイヤーのほとんどが利用しているという、そのアプリを俺もインストールしていた。
ピコンッ
通知が来たことを知らせる、通知音と共にスマホが一瞬震える。
「おお、ほんとにきた」
クリスさんから教えてもらった、ゲーム専用のフレンドメッセージ。
やり取りの感覚は一般的なメッセージアプリと同じだが、既読表示はなく、フレンド以外には送れない仕様になっている。
[クリス]今日はいろいろごめんなさいね。おやすみなさい
[ユキト]いいえ、今日は助けていただきありがとうございました。おやすみなさい
クリスさんからのメッセージを手早く返し、改めてアプリ画面を見る。
「それにしても……ほんとにすごいな、このゲーム。専用のアプリもそうだけど、メッセージだって大手のものと変わらないし、専用のスタンプだって――」
ピコンッ
再度、通知音が鳴ると、クリスさんからの新しいメッセージが届いていた。
「なんだ?もう話すことなんて……はは。あの人にぴったりだな」
メッセージ画面を開くと、ゲーム内のキャラクターが投げキッスをしているスタンプが送られていた。
クリスさんが、いかにも好んで使いそうなスタンプだ。
(こんなものまであるなんて面白いな。ところで――)
あの人、実際のところ中身はどっちなんだ?
ああいった性格のキャラクターとして、活動するプレイヤーもいたにはいたが、実際のところ性別なんてわからない。
すごくきれいなお姉さんかもしれないし、俺と同じようなおっさんの可能性もある。
この歳で、ゲームに出会いなんてあると思ってないが、それと関係なく無性に気になる……
昔も――今と理由は違うが、相手のリアルが気になってた時期があった。
(やっぱり、今も昔もあんま成長してないよなぁ)
過去の出来事を思い返していると、恥ずかしい記憶ばかりが蘇る。
顔がだんだん熱くなってきたのを感じ、黒歴史を記憶の隅に追いやって冷静さを取り戻そうと瞼を閉じた。




