17話 お使いクエストって好きな人いる?
「あらあら~、しぃちゃん。私、先にログアウトした方がいいかしら?」
クリスさんは、どこか楽しそうに俺たちを見ていた。
「もー、からかわないでください!」
「ああん、いいわぁ。男女の甘酸っぱい、せ・い・しゅ・ん♡
もう、キュンキュンしちゃうじゃなぁい」
シエラさんはため息を吐き、こちらに戻ってくる。
「ごめんなさい。あの様子だとしばらくはまともにお話できないと思います」
男女の青春に目がないのか、クリスさんは悦に入っていた。
シエラさんは「まったくもう」と文句を言っているが、
普段から優しいシエラさんのそんな言動に、二人の関係の深さが伺える。
俺は素直に二人の関係が羨ましくも思い、同時にとても微笑ましく感じていた。
「ところで、さっきはだいぶ落ち込んでいるように見えましたけど何かあったんですか?」
「実は、ゴブリンリーダーの隙を作る為に全財産を投げてしまって――」
俺はゴブリンリーダーとの戦闘の一部始終をシエラさんに話した。
「それは何と言うか……大変でしたね。あ、でも1,000Gなら依頼を達成すればすぐ戻ってきますよ」
当然と言えば当然だが、ゲームプレイ開始時に支給される1,000Gという金額は、そんなに大きい金額ではない。
せいぜい最初の村で、装備を揃えられる程度の金額でしかないらしい。
とは言え、初期装備であるショートソードを取り替えるにはお金が必要だ。
すでに刃こぼれでボロボロになっているショートソードを見て、軽いため息が出る。
このゲームではモンスターをいくら倒してもお金はドロップしない。
なので、お金を入手する手段が限られてる現状では、例え1,000Gでも俺にとっては大事なものだった。
「それにしても、なんでモンスターからお金がドロップしないんですかね」
「えっと、それはですね――」
「よーく考えてみて、モンスターが人間のお金を持ってる方が不自然じゃないかしら?」
ようやく正気に戻ったのか、クリスさんは俺達の会話に割って入ってくる。
今まではモンスターを倒すとお金をドロップするのが当たり前だと思っていた。
しかし言われてみると、モンスターが人間のお金を持ってることの方がおかしい。
「たしかに言われてみるとそうですね」
「このゲームってファンタジー要素満載だけど、変な所リアルなのよねぇ……」
たしかにゴブリンリーダーの挙動はモンスターとは思えないほど保身的で、その姿は人間に近いものがあった。
部下を矢面に立たせ、自分は安全な所で指示を出す。
まるでうちの部長を思い出させるその姿に、戦闘では随分気合が入ってしまった。
「と、いうわけで、ユキトさん依頼を受けてみませんか?」
依頼……依頼かぁ。
依頼と言えばゲームの定番とも言える《お使いクエスト》というものがある。
はっきり言おう。俺はこのお使いクエストが大っ嫌いだっ!
◯◯を◯◯の町まで届けてくれ。
◯◯を◯個持ってきてくれ。
これをお金と経験値の為に延々繰り返すのが《お使いクエスト》だ。
とにかく似た内容の繰り返しで飽きる。もんっのすっごく飽きる!
制作者のみなさんにぜひ聞きたい。
あなた達はこの終わらないクエストを楽しんでプレイできますか?……と。
そんな訳で依頼を受けるのは気が引ける。
――が、シエラさんの濁りのない眼差しが俺の決意を鈍らせる。
「ちなみに、依頼ってどういうことをするんですか?」
ゲームをやらなかった間、もしかしたら依頼クエストの扱いも変わってマシになっているかもしれない。
そう思ってシエラさんに聞いてはみたけれど……
「依頼は毎回ランダムに更新されます。それと依頼によっては別のクエストへ分岐する進化クエストもあるのでとっても楽しいですよ」
すげぇ、昔と違うとは思ってたけどまさかそこまでとは……
シエラさんの提案に従って、俺たちは依頼を受けるために街へ向かった。
「ここが、ユニア村でーす」
おかしいな……聞き間違いじゃなければ、ここは最初に俺が立ち寄らなかった村のはず。
依頼は大きな街にあるギルドでしか受けられないんじゃなかったか?
「あのぉ、ここって初心者が最初に訪れる村ですよね?どうしてこんな所に?」
俺は疑問に思ったことを素直に口にした。
「それはですね。もう少し進めばわかりますよ」
シエラさんに促されるまま歩いた。
村はそこまで広くなく、目的地と思われる広場にはあっという間にたどり着いた。
そこには人間1人分の大きさ程ある石碑のようなものが設置されていた。
「これは飛石と言って、飛石には触れることで他の飛石にワープできる機能があります」
「なるほど、だからこの村に立ち寄ったんですね」
「はい、依頼を受けるなら移動手段は多いほうがいいかなって」
確かに依頼クエストは移動することがほとんどだ。もし、ユニア村の飛石を解放せずに先に進んでいたら面倒なことになるところだった。
(シエラさんの気遣いに感謝だな……)
「それと、ユキトさんの剣も交換したほうがいいかなと思いまして」
俺は腰に帯びたショートソードに視線を送る。
数回に渡る戦闘ですでに切れ味は落ち、剣の役割を果たすには不十分になってしまったそれを鞘に戻す。
「村長さんに挨拶すれば『銅の剣』が貰えるので早速行きましょう!」
俺はシエラさんに手を引かれ、村長のいる家へ向かった。




