01話 ヴァルセリア・オンライン
「おめでとうございまーす。一等賞はゲーム機本体と超人気ゲームのセットでーす」
寂れた商店街に響く大きな声。
一等賞と聞くと胸が踊るような気持ちになるが、それが数年前に発売されて話題を呼んだ有名オンラインゲームとなると複雑な気持ちだ。
今ではVR技術も発展していて、VR専用のゲームも多くあるというのに――
「ゲームねぇ……」
右手から感じる確かな重みが、否応なしに過去の記憶を蘇らせる。
俺はゲームが好きだった。
好きなゲームの発売日には1秒でも早くプレイするために開店前には店に足を運んでいたし、社会人になってからも休日は家から出ないように食べ物を大量に買い込んで寝る間も惜しんでプレイしていた。
それがいつからか――ゲームを起動するのが億劫になっていた。
子供の時は早く大人になりたいと思っていたさ。
仕事はしなくちゃいけないだろうけど、その代わり一人暮らしをして自由な時間を過ごせるって……
実際に大人――大人って何なんだろうな……
20歳を迎えたら?酒が飲めるようになったらか?
それとも社会人として立派に成長できたらなのか……
36になった今でも、学生の時から大して成長していない気がする。
体だけ大人になった感じだ。
子供の頃夢見た大人の生活って、こんなにつまらないものだったか?
毎日がキラキラ輝いているもんだと思っていた。
少なくとも社会に出てすぐの頃は楽しかったんだ。
会社で辛いことがあっても家に帰れば大好きなゲームがあったし、家に帰るのが待ち遠しかった。
――でもずっと同じようにはいられなかった。
歳を取るにつれて周りは変わっていく。
知人の結婚報告や、同期の昇進。
周りは少しずつ変化していく――
小さな焦り、それは俺の中で少しずつ募っていった。
他人は他人――頭では理解していても心がそれを拒んでいた。
そしていつからか、俺はゲームをしているだけの自分に罪悪感を抱くようになっていった。
まるで今の自分の生き方を否定されている気がしたんだ……
そして少しずつゲームから遠ざかり、いつのまにか家の中にはゲームに関するすべての物が消えていた。
「――おっと、もう着いたのか」
物思いにふけていたせいか、気がつけば自分と歳があまり変わらないおんぼろアパートの前まで来ていた。
二階へと続く階段から一番遠い角の部屋、扉の前に立ちポケットから取り出した鍵をシリンダーに差し込む。
「ガチャ」とロックが解除された合図を確認し、ドアを開けた。
誰に届くわけでもないが、いつの間にか習慣になっていた「ただいま」という帰宅の言葉を暗闇に向かって投げかける。
当然返ってくるわけもない事を確認しながら、俺――中野 行人は帰宅した。
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「さて、一息ついたことだしどうするかな……」
テレビの前には袋に入ったままのゲーム機が置かれている。
「ヴァルセリア・オンラインか」
ゲームをしなくなってもこのゲームタイトルには覚えがあった。
その圧倒的クオリティで発売前からSNSなどで話題になり、VRが主流となった現在でも多くのプレイヤーがいる大人気のオンラインゲームだ。
さすがに36にもなって罪悪感がなんだとは思わなくなったが、発売から数年経っているゲームをプレイするのは今さら感があって、何となく気が引けた。
少しの間、何をするわけでもなくただ天井をぼーっと眺めていた。
(このままゴミにしちまうのも勿体ないしな……)
ただただ時間だけが過ぎていくのにも嫌気が差し、体を起こして袋からゲーム機を取り出す。
「さて――と、設定は終わったしあとは実際にプレイするだけだな」
ゲームのアイコンを選択し決定ボタンを押すと一瞬の暗転の後、オープニングが流れる。
テレビ画面に流れる壮大なオープニング映像は、久しくゲームから離れていた身でもわくわくせずにはいられない演出だった。
ストーリーはどこにでもあるような、ありふれた設定だ。
自由度を売りにしているらしいので、ストーリーはおまけ程度なんだろう。
「おぉ、さすが評判なゲームなだけあるな。キャラクター作成の項目がこんなに……」
これからずっと見ることになる自分の分身――アバターを作るとあって下手な物は作れない。
丁寧に作ればその分愛着も湧き、ゲームをプレイする楽しみが増える。
そのため、プレイヤーのほとんどはキャラクター作成に全力を注ぎ込む。
さすが自由度が高いと評判のゲームだけあって、キャラクター作成にも一切の妥協がない。
眉一つとっても、形から毛の長さ、色や剃り込み具合などこだわろうと思えばキャラクター作成だけで数時間費やす作り込みだ。
キャラクター作成の項目の多さを見るだけでも、このゲームの凄さの一端を垣間見た気がする。
俺も昔は散々この手のゲームをしていたので重要性もわかるし、いつも手を抜かなかった。
「ふんふん、おお、ここもいじれるのか。なるほどなぁ……」
一通りキャラクター設定を触った後、俺はゆっくりと目頭をつまんだ。
少ししてから指を離すと、俺は画面の上部にあるランダム作成のボタンを連打した。
昔ならなんてことない作業も、この歳になると厳しくなることがある。
(この項目の多さはおっさんには厳しすぎる……)
一通り触ってギブアップした俺は、数分間ランダムボタンを押し続け、
見た目40くらいのおっさんキャラクターを作成した。
うん、普段なら絶対に選ばないけどな。
もう時間も時間だし、逆にこっちのほうがリアルと似た年齢だから、愛着も持てるかもしれない。
キャラクター設定が終わり、決定ボタンを押すとオートセーブのマークが出て物語が進む。
こうして俺のキャラクター『ユキト』は、ヴァルセリア・オンラインに誕生したのだった。
「いよいよ本編開始か……よし!」
そこで俺はそっとゲームの電源を落とした。
これからいよいよ冒険の旅へ~と言いたいとこだが、部屋に置いてある時計に視線を送るとすでに時計の針はてっぺんを指し示していた。
昔ならともかく、今から徹夜してまでゲームをする気力はない。
俺は室内の明かりを消して布団に潜る。
久しぶりのゲームの感触に少し疲れが出たのか、俺は目を閉じてすぐに意識を失った。




