44 初めての銭湯リターンズ
【前回のあらすじ】
帰宅するといつもの様子の違うルカが出迎えてくれたのであった。
果たしてこのルカは本物なのか偽物なのか…………!?
「大人1人と子供1人。って言わなくてももう分かるか」
「は? 常連ぶるのキモ。はいはい、いつものですねー。これで満足?」
「毎日通ってんだからそろそろ常連扱いしてくれてもいいだろ! Googleレビューに星1つけるぞ!」
「どうせ常連のジジババしか来ないんだから勝手にすれば?」
「ぐぬぬ……」
銭湯の暖簾をくぐると、数十分前に別れたばかりの番台ギャルから、数十分ぶりの罵倒が飛んでくる。
日に日に罵倒の火力がエスカレートしてないかこれ?
俺に特殊性癖があれば、現役JKが無料で言葉責めしてくれるサービス付きの銭湯として、ありがたがることが出来るのだが……。
残念ながら俺にその手の趣味はないので、シンプルに心が苦しい……。
「あれ!? 今日はルカきゅんいないんじゃなかったの!?」
「ああ、ちょっと里帰りから戻ってくるのが早くなってみたいでな」
そんな彼女は、ルカの姿を見て態度を一変。
「ルカきゅ~ん❤ 会いたかったにょ~❤ ちゅ❤」
「投げキッスすな」
あとなんだよ〝にょ〟って。
絶対学校じゃそんなキャラじゃないだろお前。
「あっ! もしかしてあなたがまりなちゃん?」
「はわわ~❤ もちかちて、名前覚えててくれたの!? まりな感激だにょ~❤ かわいしゅぎりゅ❤❤」
「ありがとっ♪ まりなちゃんも可愛いよ! おかえしの、ちゅ❤」
「はええええっっっっ!?!? いつも不愛想なルカきゅんがファンサを!? そ、そんな……愛想の良いルカきゅんなんて解釈違い……いいや! まさかついにデレ期に!? そ、そうだルカきゅん! このまま三助してあげよっか!?」
「お前絶対背中以外も触るだろ」
「誰がおっさんの背中なんか流すかよ! こっちは今ルカきゅんと喋ってんだよおっさん!」
ちなみに三助というのは、江戸時代の公衆浴場の従業員のことで、客の背中を洗ってくれるサービスなども行っていた……らしい。
「あらあら。息ぴったし。2人は仲がいいのね~」
「「仲良くない!!」」
いつもと様子がおかしいルカへ、いつも通り様子おかしい番台ギャルと、ハモらせながらツッコミを入れてしまうのであった。
***
「どうしたルカ? 脱がないのか?」
「えっ!? そ、そうねっ/// 脱がないと、お風呂には入れないわよね……///」
番台ギャルからロッカーのカギを受け取って、男湯の暖簾をくぐる。
いつものルカは、ポンチョ1枚しか着ていないので、文字通りあっという間に全裸になって「たいよう、早く早く」と、俺のケツ毛を巻き込むように、パンツをズリ下ろして急かしてくるのだが……。
今日に限っては、褐色の肌に朱を差しながら、全裸の俺を前にしてモジモジとしている。
ギリギリ聞こえる声音で「しまったわ……」と聞こえるのは、気のせいだろうか?
「ちょ、ちょっと待ってねたいよう君!! ◆◆◆◆◆」
ルカは俺に背を向けると、ブツブツと何かを唱え、いじらしくポンチョに手をかけた。
「(ん?)」
僅かに、何かが頬を撫でる感触に見舞われる。
これは……魔力の奔流か?
しかしルカの体はぽわぽわしていないし、ここで魔法を発動する理由もない。
気のせいだろうと思っていると、ルカはようやくポンチョを脱いだ。
しかし、恥ずかしそうに胸と股間を隠している。
とはいえ――その身体にいつもと違いは見られない。
いつも通り第二次性徴を迎える前の、子供特有の華奢な褐色ボディ。
股間を隠す手からチラリチラリと見えるちんちんも、いつもと差異はない。
いや……いつもより少し大きいか、かも?
「(まぁ、俺も小学校の修学旅行では、クラスメイトに全裸を見せるのは気にしなかったが、中学の林間学校では恥ずかしくて股間隠してたな……)」
ちなみに高校生になると、逆にまた気にならなくなって、クラスメイトとちんちんを見せ合い、サイズ比べで勝負するアホなことをやっていたのを思い出す。
え? サイズ比べの戦歴? それは聞かないでください……。
きっとコイツもそういう時期なのだろう。
少し寂しい気持ちではあるが……ここは保護者としてルカの情緒の成長を温かく見守ってやるべきだ。
俺は別に気にしない体を装いながら、「寒いから早く入るぞ~」と、ルカに背を向けて浴室へ足を進めるのであった。
***
「んで。今日も俺がルカの体を洗うってことでいいんだよな?」
「えっ!? あ、ああ。そうねっ/// いつもそうしてくれてるものねっ! それじゃあお願いしようかしら」
ルカはそう言って、俺に華奢な背中を向ける。
肩を小刻みに震わせるルカだが、嫌がっているようではないみたいだ。
いつもの様にボディタオルを泡立て、ルカの狭い背中に手を這わせた。
「あははっ!? 待って頂戴っ! くすぐったいわっ! いひひっ!」
「いつもと同じ強さだろ」
「優しすぎだわっ!」
ルカは生まれた頃から神官(召使い)によって、丁寧に体を洗って貰っている甘やかされボディだ。
なのでいつも通り丁寧なソフトタッチで洗ってやるのだが、今日はいつもより敏感なようで、触れるたびにルカは甲高い悲鳴をあげる。
「これくらいでくすぐったいとか言ってたら、俺の本気のくすぐりには耐えられねーぞ! おりゃおりゃおりゃ!」
「あひゃひゃひゃひゃっ!? あひひひひひっ!?!? や、やめて頂戴っ!! あばらをなぞらないでっ!!」
「おりゃおりゃおりゃ~~!!」
半月ほど前、ルカと身体が入れ替わってしまった時のこと。
ルカは俺のあばらをギターの弦に見立ててストロークしてきたので、その復讐も兼ねて紅を奏でてやる。
PATA顔負けの速弾きであばらを高速ストロークすると、RUKAは嬌声を上げながら必死に俺から逃げようとするが、AWAでヌルヌルして身動きが取れず、全身がPIKAPIKAになるまでされるがままにされてしまうのであった。
***
――かぽーん。
「ふにゃあああ~~♪ 癒されるわぁ~~♪」
ルカの全身を洗った後、2人で湯舟に浸かる。
ルカは長い銀髪をクラゲのように湯舟に広げながら、顔を蕩けさせていた。
さっきまで笑い死ぬ寸前まで俺に虐められていたのに、湯舟の気持ちよさですっかり忘れてしまったようだ。
「ルカ。今日は膝の上乗らないのか?」
「はえ?」
ルカの背丈は小学生中学年程度しかない。
浴槽に尻をつけると、口まで湯舟に浸かってしまうので、ルカはいつも俺の膝の上に乗って入浴している。
しかし今日のルカは、首から上を水面に出す高さで、中腰になって入浴していた。
これでは常に腰に負荷がかかり、入浴を十全に満喫できないだろう。
「はえ!? え、ええ……そうね。それじゃあ、今日も、いつもの様に、たいよう君のお膝を借りようかしら?」
ルカはそう言って、遠慮がちに俺の膝の上に座る。
「お、重くないかしら?」
「いつも通り羽のように軽いから気にすんな」
「そ、そう?」
珍しく緊張しているルカだったが――それでも銭湯の魔力には抗えず脱力するうち、すぐにいつもの調子を取り戻す。
俺の胸板に背もたれ代わりにしながら、まったりと全身を温めるのであった。
***
「ねぇ、たいよう君。わたしちょっと、寄り道をしたいわ」
「寄り道?」
最後に10まで数えて湯舟から出た後、いつもよりオーバーリアクションなルカとフルーツ牛乳を飲み、銭湯を後にして――現在。
手を繋ぎながらアパートへ向かっていると――ルカは寄り道したいと言うのであった。
まるで散歩の終わりを悟って、飼い主へ帰宅をボイコットする犬みたいに――俺の手を引っ張りながら足を止める。
家に帰っても、することは変わらない。
いつもと一緒に夕飯を食べ、一緒にダラダラスマホで動画を見て、一緒に同じ布団で寝る。
にも関わらず、アパートに着いたら、まるで離れ離れになってしまうかのような哀愁を漂わせながら、ルカは帰宅を拒絶するのだった。
「あー。んじゃ、コンビニにでも行くか」
「コンビニ!? コンビニって、あの、色んな食べ物が売ってる所!?」
「いい加減いつまでそのキャラやってんだよ……」
寄り道にコンビニを提案すると、ルカの顔から哀愁は無散する。
再び興奮を取り戻したルカと共に方向転換。
アパートから逆方向にある市街地へ、夜のアスファルトを踏みしめるのであった。
***
「う~ん! 温かくて、ホクホクしてて、美味しいわ!」
コンビニの自動ドアを出ると、北風が吹きすさび、俺達から熱を奪っていく。
銭湯で温まった体は、寄り道のせいですっかり冷めきってしまった。
失った熱を再び取り戻すように、俺とルカは購入したコロッケに食らいつく。
レジの横にある、ホットスナックコーナーのコロッケだ。
さて――
「(そろそろ、問い詰めてもいい頃か?)」
――美味しいものを食べているルカの横顔は、いつものそれと瓜二つだ。
それでも――昔から鈍感と言われる俺だが、流石に今日のルカの異変に気付かない程鈍くはないし、ルカと同じ時間を過ごしていない。
「あーあ、たいよう君のお家に、到着してしまったわ……」
コロッケも食べ終わり、1つ欠けたオリオン座の空の下――ルカと手を繋ぎながら歩き続けた末に、ついにボロアパートに到着する。
ドアを開ける前に、俺はルカに――いや。
ルカと同じ顔をした〝誰か〟に、問いかけた。
「なぁ、そろそろ教えてくれないか? アンタは一体……誰なんだ?」
最初こそ俺は、ルカが何かに影響されてキャラの真似事をしていたと思っていた。
しかし俺はルカと、文字通り短くない時間を費やし、寝食を共に過ごしてきた。
故に、ある程度一緒にいれば、流石に違和感に気付かざるをえない。
コイツは――ルカじゃない。
「なぁんだ――バレちゃってたんだぁ」
俺の問いに対し、ルカと同じ顔をした〝誰か〟は――観念するように目を細めた。
「っ!?」
それは――ルカが今まで1度も見せたことのない蠱惑的で、小学生くらいの子供が見せるには、あまりにも大人びた笑みだった。
あどけない子供の顔から作られたとは到底思えない、凄艶とした表情に、俺は思わず腰が引けてしまった。
「(同じ顔なのに……表情だけで、こんなに印象が変わるものなのか……?)」
しかし俺も、いつまでも怖気づく訳にはいかない。
気丈に振舞い、ルカの偽物と対峙する。
「本物のルカはどこだ?」
「あは! 知りたい?」
勿体ぶるように、偽物のルカは頬に手を当てる。
「…………」
「…………」
ゴクリ――2人の間に沈黙が続き、口内に溜まった唾を嚥下する。
しかしその沈黙は、ついに破られる。
ガチャリ――と。
俺の部屋のドアノブが回転する、軋んだ音によって。
「ん。たいよう。帰ってくるの、遅い」
「ルカ!?」
偽ルカと同じ顔。
そして、まごう事なき本物のルカが、玄関から出てきた。
「巫女様、太陽殿が戻られるまで、外に出てはいけませぬぞ!」
その後ろからは、プレートメイルを着た金髪の女騎士――マルガレーテもいる。
「ななななっ!? ルナエルナ様!? どうしてこっちの世界に!?」
マルガレーテは玄関先で俺と睨み合う偽ルカを見て、驚いたように声をあげる。
そしてルカもまた、自分と同じ顔の子供を見て――ボソリと呟くのであった。
「ん。お母さん」
――と。
「ええええっ!?!? お、お母さん!?!?」
という訳で――次回偽ルカ編最終回!
ルカのお母さんが、ルカを騙った真相は果たして……!?




