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キセルの煙をくゆらせて  作者: 二宮シン
18/22

真相

 水晶の教会、その大聖堂がある北の国エレナ。すべての国を統べる大国王すら凌ぐ影響力を持った集団のねぐらが、ようやく視界に入った。市壁より先に佇んでいる、大斧を背負っているシックスとワンの姿も。

「むこうは二人だけですが、なぜ今日、この時間に来ると分かっているのでしょう」

「簡単だ。俺の左目が強者を捉えれば疼くように、あいつらにも分かるんだろう。俺たちという力の塊が」


 今も左目がジリジリと熱い、流石はシックスというところか。それに、連れてこようと思えばいくらでも騎士を呼べるというのに、ワンだけしか連れて来ていない。拳を交えた時から、決着はこうなるだろうなとは思っていた。

「行くぞ、最後の戦いだ」

隠れていた茂みからカイムを先頭に出ていき、堂々と進む。シックスとワンも気付いてか、大斧を手に持ち、ワンも剣を抜いた。チリチリとした緊張感の中、互いの言葉が届くところまで歩み寄ると、シックスの黒い瞳が四人を睨み付ける。


「どこで見つけてきたのか知らないが、天使の子を連れてくるとはな。そいつらに頼るほど、お前は弱かったか? カイム」

「てめぇとはタイマンでケリをつけるって決めている。この三人は、ワンを足止めするだけだ」

 作戦をばらしてどうするのですかとニードは言うも、カイムとシックスはニヤリと口角を上げた。

「どうせ最後は知恵も品性もない殺し合いだ。言葉を交わせるうちに、俺が全力を出してもいい相手と話したかった。それに、四対二で作戦を隠すのは、俺の性分に合わん」

「見事な心意気だな。人間にしておくのがもったいない。どうだ? 俺直属の部下にならないか? 俺の願いを叶えてからだが、お前の願いもかなえてやるぞ」


 悪くない提案だと、カイムを覗く三人は思ったことだろう。部下になって、ドワーフが優先されるだろうが、ある程度は今よりマシな世界になる。ニードたちの願いも叶う。だが、カイムだけは剣を納めずに、切っ先を向けた。

「俺は誰かの下につくなんてこと、心の底から御免だ。それに、てめぇの部下になったら、全力で戦える相手がいなくなる。そこのワンとも、戦えなくなる」

 つまりは、交渉決裂だ。シックスは少し残念そうにしていたが、深く息を吸うと、高笑いを上げた。

「そうだ! そうでなくてはな! この俺も退屈していたところだ! 誰も俺の相手が務まらなくてな!」

 ただ、カイムがナンバーズになどならずにいれば、良き友として、高みを目指せたと残念がっていた。

「本当に残念だ。ここで殺してしまえば、もう、血沸き肉躍る戦いができないだろうからな」


 そうして大斧を構えるかと思っていたら 、懐をあさっていた。なにかを掴んで取り出すと、左目が強烈に痛み、ニードとサナも慄いた。

「白水晶は、ここにある」

 間違いなく、ここまで追ってきた白水晶がシックスの手にあった。見たところ、ニードとサナの村を隠していた結界のようなものに包まれているが、シックスは渾身の力で握ると、防護壁はガラスの様に割れて、光の塵になった。

「ここで、お前たちを殺せと願えば死ぬのだろう。従えと願えば首を垂れるのだろう。神にさえ、なれるのだろう」

 しかし、そんなことは絶対にしないと高らかに宣言した。


「ハーフドワーフとして生まれ、九百年。水晶の教会へ下っ端として入り、純血の老人どもに、いいようにされてきた。だが、それもナンバーズとなったことで立場が変わり、俺は大国王すら超える教王となった! 後は、最後の戦いを楽しもうではないか! この白水晶は、この場で生き抜いた者の手に渡るのだ!」

 とうとう身の丈以上の大斧を小枝の様に振り回した。ならばこちらもと剣を構え直し、眼帯を外して両目とも深紅の瞳にした。ニードとサナは飛翔し、スノウも瞳孔を開いて臨戦態勢になる。

「さぁ! 思う存分、戦おうでは――」

 ほんの僅かな時間。一瞬ともいえないほどの刹那に、一人を除いて皆が言葉を出せずにいた。頭が理解する頃には終わっており、意識が登ってきて、ようやく目の前の事を整理できた。


「な……なぜ、お前が」

 シックスを背後から、ワンが剣で貫いていた。心臓か肺に突き刺さったであろう剣をワンが足で蹴って抜き取れば、シックスは倒れた。

「すべては我が主のため。この水晶は頂いていく」

「主のため? てめぇの主はシックスだろうが!」

「そんなこと、口にした覚えはない。任務完了だ」

問答が終われば、その背中に光が集まっていき、ニードとサナと同じ白い翼が現れた。そのまま白水晶を手にすると、エレナの市壁を越えて飛び去っていく。

「どういう、ことだ……?」

 ワンはシックスの部下であり、主とはシックスのはずだ。それが、なぜこうなった。

 四人とも困惑して、頭が追いつかないでいると、血を吐き出しながら、シックスがカイムを呼んだ。か細い声で、こっちに来てくれと。


「は、はは……無様なものだ。この生涯で最高の戦いを目の前にして、死ぬ事になるとは」

「もういい、喋るな」

 いや、もう手遅れだと、シックスは白くなっていく顔で、生きることを諦めていた。それでも最後に伝えたいことがあると、流れ続ける赤い血液を必死に押さえた。

「もう一人、ナンバーズがいる。俺の体を改造した、ナインが、大聖堂にいる」

 そいつが黒幕だろう。シックスは深いため息を付いて、ハーフドワーフには過ぎた願いだったと、吐血しながらも悔いていた。


「カイム、せめてもの頼みを聞いてくれ」

「……なんだ」

「裏切り者から白水晶を取り戻し、お前の願いを叶えたら……せめて、純血と混血が分かり合える世界にしてくれ」

「――分かった。だから、もう休め」

 礼を言う。シックスはそれだけをカイムへ告げると、出血を押さえていた手を離し、空に掲げた。

「ドワーフの、未来を――」

 その手が力なく地に落ちると、シックスは息絶えた。ここまでどうやって殺したものかと考え続けていた相手は、裏切りにより死んだ。

「ナイン、だったな」

 亡骸の瞳を閉じてやれば、ワンを操っていた本当の黒幕がこの先にいるのだと、もう一度覚悟した。どういうわけか、天使の力まで得ていたワンと、ナインとの戦いのために。

「白水晶を使われたら、僕たちは終わりです!」

「そうなると、大聖堂まで強行突破だな」

 異論はなかった。皆、心のどこかで、こんな結末は望んでいなかったのだろう。




「困ります! 入国税を払って、検問を通ってからにしてください!」

 シックスの死はここまで届いていなく、巡礼者と間違えたのか、検問で足止めを食らう。一分一秒でも惜しいので左目の眼帯を外した。


「命が惜しかったら、俺たちの邪魔をするな」

 そうして検問にある煉瓦の壁を思いっきり殴れば、ヒビが入るどころか拳が食い込んだ。退かないのなら、次に拳で殴るのはお前の頭だと脅せば、化け物だと逃げていった。

 そのままエレナへと突入し、ニードとサナに飛んでもらって大聖堂はどこにあるのかと探してもらう。そんな時にもドワーフの騎士たちは不法侵入かつ悪魔の生き残りとして集まってくる。

「雑魚は引っ込んでろ」

 蹴り飛ばし、殴り、投げつけて、とにかく邪魔する奴らを片っ端から気絶させていくと、サナが、ついてきて、と鈍色の空を背後に言えば、スノウを抱きかかえて走った。全速力で空を行くサナへ追いつくと、ニードも合流して、四人は大聖堂を前にした。


 城のように天高くそびえ立ち、正面には巨大な門がある。数十人がかりで開けるのであろう門を、カイムが無理やりこじ開ける。中には水晶を模した石像が、天井まで伸びる太い柱に取り付けられている。柱は大聖堂の奥まで続いており、色鮮やかなステンドグラスが見てとれた。

「ナインとやらの力がどれほどのものかわからない以上、いつでも戦えるようにしておけ」

 ニードはソードリオンを、サナはアーチェリオンを創りだし、スノウもやる気のようだ。カイムも剣を手にして、柱が両脇にある大聖堂内部を注意して進めば、おそらく戦いになる。覚悟をしなおして突き進めば、またしても言葉を失った。

「――おや、ようやく来たね。遅かったじゃないか」

 大聖堂の最奥。ステンドグラスが鮮やかに輝く光の下で、ニオがいた。椅子に座り、机に紅茶とポットも置かれている。そしてもう一人、背中しか見えないが、ティーカップを持つエルフがいた。左目が疼き、そのエルフとカイムに光が差す。ナンバーズ――ナインなのだろう。それを受けて気づいてか、ティーカップを机に置いて、こちらへと振り返った。


「久しぶりだね、ナンバーズのゼロ。名前はカイムだったかな」

 薄緑色の髪に、見覚えのある顔。カイムはこの男を知っていた。なにせ、スノウと出会わせてくれた男なのだから。だが、なぜこんなところに。しかし、

「てめぇがナインとはな」

 半年前、バベルの塔の残骸で出会ったハーフエルフ。あの時はナンバーズではなかったので気付かなかったが、今ならハッキリとナンバーズだと確信が持てる。

 剣を抜くも、ナインはほんの少しも恐怖を感じていなかった。それほど強いということなのか。いや、ワンが主と呼んでいたのがこいつなら、奴はここに来る。切っ先を向けて踏み込もうとすれば、天井から舞い降りてきた。


 白い翼をはためかせ、本物の天使と同じように床へ降りると、白水晶をナインに渡してから、カイムを鋭い刃物のような目で睨む。

「ナンバーゼロ、貴様に我が主の邪魔はさせない」

「俺の名はカイムだ。ゼロじゃねぇ。それと悪いが、てめぇにはいろいろと頭にきている。邪魔するなら容赦しねぇぞ」

「天使の力まで得た私を、貴様は倒せるのか?」

 翼が大きく広がり光に戻ると、凄まじい威圧感を感じる。これがワンの本気なのか。それともまた、強くなるのか。左目だけでなく、全身が、ワンという一人の人間に警告を知らせていた。

「ニオもナインも、この際、話を聞くのは後だ! シックスとの戦いの分まで有り余った、俺の全力を受けてみやがれ!」


 カイムの剣と、ワンの剣。お互いに譲れない想いがあり、目指す未来がある。それらがぶつかり合おうとしたところで、ナインがワンを止めた。カイムが振りかぶった一刀は、ワンが一歩退いた虚空を斬り裂く。何事かとナインに視線を向ければ、ティーカップを手にしながら、もう大丈夫だとワンを制している。

「すべては僕の計画通り。もう戦う必要はないよ」

「ですが……」

「いいんだよ。元より世界を手にしようなんて考えていないからね」


 どういうことだ? ナインの言動も行動も理解できない。白水晶を手にしているというのなら、カイムたちを殺せるはずだ。それなのに、何一つ願わない。

「なにが目的だ。ワンを従えて、シックスを殺して、白水晶を手にして――お前はいったいなにがしたい」

 ティーカップを置くと、どこか微笑んだようにカイムを見た。

「別に、なにも願わないよ。叶わないからね」

即答だった。迷いが一切ない言葉に、ワンも含めてナインへ視線が集まる。

「込み入った事情があってね。僕が語るよりも、母さんに任せた方がいいかな」

 母さん? 誰が? そんな奴どこにもいないとナインへ視線を戻せば、一人、手を上げている奴がいた。

「ボクの子供だよ。丁度今年で二百歳になる」

「お前の、子供?」


 いつも掴みどころがなく、遊び人の様に適当で、見かけは二十歳前後のニオに子供がいるのは、にわかには信じられなかった。言われてみれば、髪の色など似ているところもあり、口調も似ている。

「なぜ黙っていた。ナインの存在を知っていれば、白水晶は手にできたかもしれないというのに」

 全部話すよ。隠していたことは全てね。ニオもティーカップを置いて、全員を視界に捉える。

「さて、なにから話したものかな」

 いつもの調子で適当なそぶりを見せながらあれでもないこれでもないと口にした結果、まずはこれならば、と人差し指を立てた。

「ワンがシックスを騙すこと。そして、ワンがシックスを超えること。それが、ボクたち親子が立てた計画だよ」

「そのワンが話を理解できてねぇのに、なにが計画だ。シックスを殺して、親子で世界征服でもするってのか」


 そんなことは決してない。戦いはもう望んでいないよと、そう口にするニオもナインも疲れているように見えた。

「話の順序通りに話すから後になるけれど、シックスには巨大な野心があり、ナインが改造したおかげで、力も得た。それに加えてナンバーズだからね。当然、教会はシックスの言うことに従うことになるし、いつか白水晶を探すような命令が出るだろう。けれども、ナインにはそんな力も、野心もカリスマ性もなかった。手に入れても、防護壁を破壊する力もない。だからワンを創って、シックスの近くに置いたのさ。いずれ白水晶を見つけて、防護壁を破壊した時に奪えるようにね」

「ワンを、創った?」


 それ以外にも疑問点はあるが、一番にそれが気になった。そこからは、ナインが変わった。

「君と出会ったバベルの塔には、神の力が僅かに残されていた。非常に小さな光の粒子で、魔界や人間界を創り、新たな命を生み出してきた神の力がね。それを使うことでまったく新しい命を――ワンを生み出し、順序立てて力を与えていった。分かりやすいように言うなら、各種族の精鋭たちから得た血液をワンの体へと流し、強くしていった。そんなところかな」

 血液と聞いて思い返してみれば、アインヘルムでニオが襲われた時も、サナが襲われ時も、殺す事もなく、必要以上に傷つけることなく去っていった。共通していたのは、出血だ。

「そこにいる少女からも、寝ている間に血を分けてもらったよ。そのおかげで、新しく創った亜人たちをレッドアイにすることができた。すべては、ワンを強くするための実験で、シックスを殺すための事だったんだ」

「ならば、この後どうするつもりだ。シックスが死んだ今、ナンバーズは俺とお前と、ワンとスリィだけだ。スリィはここにいなく、ワンの主はお前だ。願いを叶えないというのなら、白水晶をどうするつもりだ」

 ナインは手にしている白水晶を一瞥して、カイムへ差し出した。


「君に、破壊してほしい」

 なに? こいつはなにを口走っている? 破壊しろだと?

「わけがわからねぇぞ。破壊するくらいなら、俺が頂く」

 まあ、そうなるよね。ナインは落ち着いた口調でカイムを肯定すれば、もしも、と切りだした。

「君に破壊してもらわなければ、もしかするとこの世界は終わるかもしれない……と、言ったら?」

 世界が終わるだと? 一体全体、なにを考えているのだ。親に似て掴みどころのないナインに頭を掻き毟ってから、もしもの場合を口にする。

「俺と、ここにいる三人の願いを叶えたら、破壊する」

 そういうわけにもいかない。ニオが口を挟むと、生まれた時に神から告げられたナンバーズについての真実を話すと、遥か過去を語りだす。


「元々、ナンバーズなどないのさ。ワンもスリィもシックスもナインも、ナンバーズは神から与えられたものではなくてね。白水晶が持つ自我が、白水晶を手にしそうな人を選んで与えたものなんだ。水晶の教会も、白水晶に操られた誰かが作ったのだろうね」

「ナンバーズが、ない? お前は、俺たちがアインヘルムから旅立つときに、ナンバーズは願いを叶えられると言っていたじゃねぇか! まさか、嘘なのか?」

 だんだんと状況を掴み、怒りを溜めていったカイムへ、ニオはハッキリと口にした。ナンバーズにも白水晶にも願いを叶える力なんてないと。

「てめぇ! 俺の旅は無駄で、夢は叶わない! そう言いてぇのか!」

 残念だけれど、その通りだ。ニオはカイムの瞳を見つめて、真剣に答えた。その緑の瞳は、嘘を含めていない、誠実なものだった。

「嘘、だろ……」

 怒りは、薄れていった。結局は、夢は夢でしかなかったという現実に、未来に、打ちひしがれて、膝から崩れ落ちた。


「――白水晶は、とっくの昔にナインが見つけていたよ。でも、持ちだしたらシックスに見つかる。だからカイムがここまで来るように促した」

「俺を、ここに呼んだ?」

 そう、わざわざ呼んだ。カイムの力が――ナンバーズのゼロが必要だったと。

「白水晶が与えたのは、ワンからナインまでの数字。ゼロはないんだ。ゼロは、白水晶を破壊できるであろう人物に、神が与えられるものなんだ。それとね――」

 君の夢は叶うよ。そう、ニオはカイムへ優しく語りかけた。

「叶う、のか? 白水晶もないのに」

「もっと具体的に言うのなら、叶っていると言うべきかな。君の夢、つまり、あのことは――」


「待ってください!」

ニオの言葉を遮り、ワンがナインへと叫んだ。

「私は、あなたが創る新世界のために力を与えられたのです! 人間として生まれ落ちてから、何度も激痛に耐えて他種族の血液を流し込まれました! その果てに、新世界があるからと――それが全て、嘘だったのですか!」

 カイムと同じように騙されていたワンへ、ナインは少しだけ沈黙すると、その通りだと答えた。ワンはシックスを殺すためだけに創られたのだと。

「でも、これからは違うよ。もう戦わなくてもいい。嘘をつかなくてもいい。その力で好きに生きていい」

 ナインもまた、肩を落としたワンへ寄り添って、何者にも縛られなくていい世界が待っていると諭した。

「君の求めていた新世界とは違うかもしれないけれど、僕は白水晶なしでも、新たな世界を創るよ。このナンバーズという地位を使ってね。種族間の争いも、混血と純血のいざこざも、なくしてみせる。時間はかかると思うけれど、必ず成し遂げるから」

 なるほど、この人は偽善者でも悪人でもなく、良い人だ。ニードは尊敬の眼差しでナインを見つめる。


「あなたの言葉に、嘘はないですね」

「分かるのかい?」

「これでも天使なので。言葉の中に悪意があるかどうかくらいならわかります。サナも、そうだろう?」

「少なくとも、正真正銘善人のようね。でも、そのために殺したシックスの分は働いてもらうわよ」

 ここまで蚊帳の外だったニードとサナが太鼓判を押すと、ニオの言葉にも同様に嘘はないとも、カイムに伝えた。

 夢が、叶っている。だとしたら、どこにいる? あの人たちは――


「……ません……認めません……」

「ワン?」

「認めません……こんな結末、認めません!」

ワンから激しい怒りと、膨張する力を感じて、左目が燃えるように熱い。この力は、シックスを軽く超えている。

「あなたが……あなたが創らないのなら、私が新世界を創ります! 救世主になります! そのためなら、たとえあなたでも、殺します!」

  ワンはナインから白水晶を奪うと、蹴り飛ばして壁に激突させ、衝撃でステンドグラスが割れた。割れたステンドガラスの降る中、ワンが剣を振り上げた時、カイムは眼帯を外して、両目を深紅に染め上げた。そして、ナインの前へと剣を引き抜いて飛びこめば、振り下ろされた一撃を受け止める。

「グッ……重てぇんだよ!」


 なんとか振り払うと、ナインは不思議そうに見上げていた。

「なぜ、僕を助ける? 君を利用した、僕を」

「夢が叶っているのなら、この世界を導く奴が必要だからだ。俺にはそんな知識の欠片もねぇからな。この場を乗り越えたら、正しい方に世界を導け」

「――分かった。でも、乗り越えたらまずは謝るよ。どんな理由でも、嘘をついていたのだから」

だから、ワンを止めてくれ。そう言って、ナインがニードたちの後方へまで逃げると、天使二人もアーチェリオンでワンを狙った。スノウも、準備ができている。

「ニオ! 本当に叶っていたら許してやるが、嘘だったらアインヘルムを燃やす」

「大丈夫だよ。神に……いや、悪魔に誓うよ」


 その一言を待っていた。カイムは剣を構えて、まずはワンを黙らせるために近寄る。

「四対一だ。なぶり殺しは趣味じゃねぇから、もう降参しろ。お前の夢は、終わった」

 ワンも、とことん道化だったのだ。できることなら、殺したくない。新しい一生を生きてほしい。だが、ワンの怒りは収まらなかった。

「私が、新世界を創る神となる。そのためならば、自我も捨ててやる」

 そうして白水晶を掲げると、ナインが慌てて前に出てくる。

「不味い! 止めてくれ!」

ナインの叫びは虚しく、カイム達の前で、ワンは白水晶を手にして叫んだ。力を寄越せと。

次の瞬間には白水晶は光り輝くと、砕けていった。その欠片がワンを包み込み、今まで感じたことのない力が増大していく。カイムの左目は灼熱の熱さで、眼帯をしていられない程だ。

そうして光が晴れると、ワンから煙が上がっている。白い翼も生え、その手にはソードリオンが二本持たれていた。


「ふ、ははは……感じるぞ、白水晶の意思と、私の意思が一つとなり――ゼロを超える」

 これは、逃げられない。死んでもおかしくない。それに負けたら、夢を見られない。

「これが最後だ」

 剣を構えて、ワンを迎え撃つ。最後の戦いだ。

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