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キセルの煙をくゆらせて  作者: 二宮シン
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天使と悪魔

 三人で家へと戻り、スノウの拘束を解いた後、なんともいえない空気が流れていた。たった今まで殺し合いをしていたのだから当然だが、スノウのような小さな子を縄で縛っていたことの方が、天使からすれば苦しいようだ。

 そのまましばらくはキセルを吸う音しか流れていなかったが、俯きながらもニードがこちらを見た。

「悪魔との子と聞いて、もしかしたらって思ったんですけれど、サタナキアという悪魔が父親ですか?」

 その通り。カイムの面倒など一つも見ずに死んで、母親はカイムが小さな頃に死んだ。そんな家族の父親だとしておいた。


「そうですか……実は、父さんの話を直に聞いていた人が、悪魔に詳しく、サタナキアの名もその人から聞きました。その人――ハーフエルフ曰く、悪魔たちはたくさんの女性を攫い、子供を作ろうとして、失敗したらしいのですが……なぜ、あなただけ生まれ落ちることができたのですか」

「そんなことを聞いてどうする。悪魔の出生なんか、どうでもいいだろ」

「僕は、ただ知りたいだけなんです。ついさっきまでは、悪魔は全て殺すべき恐ろしい存在だと、固定観念にとらわれていました。しかし、あなたは違うようです。それに、もうこの世界に本当の悪魔はあなた達しかいません。悪魔について、天使の血を引く者として知っておきたいんです」

 だから、教えてくれ。好奇心は猫を殺すぞと脅しても、ニードは譲らなかった。またしても頭をガシガシと掻いて、真面目一辺倒なニードに煙をくゆらせた。

「人間を知ったから、だそうだ」

 知った? と疑問が消えないその顔に煙を吹きかけてやると、人の家庭事情にあんまり首を突っ込むなと黙らせておく。

「まあ、大雑把すぎたか。ずいぶん昔のことで、ガキだったからうろ覚えだが、人間の感情を知ったから、だそうだ。その知ったというのが、悪魔には持ち合わせていなかった『愛』だと教えられた。愛を知った親父はどんどん人間について知識をつけていき、心が人間に近づいていった。悪魔どもは化け物のように強かったらしいが、見かけは人間と大差ないからな。中身さえ同じにすれば、あとは、昨日お前たちがベッドでギシギシやってたことをしたまでだろう」


 真っ赤になった双子を余所に、ギシギシってなに? とスノウはキョトンとしているが、あと五、六年したら教えてやると煙にまいた。

「これで満足か」

 深呼吸して平静に戻ったニードは、愛があれば種族も関係ないのだと、勝手に解釈していた。愛は尊いものだとも。

「あなたはきっと、祝福されて生まれたのでしょうね」

「どうだかな。親父も母親もすぐに死んだから、確かめようがない」

 いえ、きっと祝福されて生まれてきましたよと、ニードは穏やかな表情で、サナの手を握った。

「もう一つだけ、あなたが僕たちより力のある人として、聞きたいこと――頼みたいことがあります」

 誤解とはいえ殺そうとした相手に頼みごととは。天使の教会に強欲が罪だという考えはないようだ。

「天使が悪魔になにを頼む」

 一応聞いてやるかと刻みタバコを交換すれば、話の内容にむせかけた。

「悪魔であるあなた方と僕たち天使が協力すれば、白水晶という恐ろしい力を持った物を破壊出来るからです」


 どうしたものか。真面目に、真剣に聞いてくるニードは白水晶を知っており、破壊しようとしている。こちらの目的が白水晶の奪還だと知られれば、また戦いになるかもしれない。

「とりあえず、あれだ。そんなものをなぜ知っている」

 誤魔化しようもなさそうなので、そのルーツを探れば、二人は向き合って頷くと、ある名前を出した。

「先日、ニオ・フィクナーを名乗るハイエルフがエレナへ向かう道中、結界を見破り、この村で一休みしている時に教えてくれたからです」

 あの野郎はなにがしたいのだ。カイムは天を仰いで深いため息を吐きだすと、どこまで知っているのか問い詰めた。

「手のひらに数字が浮き上がったナンバーズと呼ばれる亜人たちが手にできる、願いをかなえることができる水晶だと。ですが、神でさえ創ったことを後悔している力の塊で、この世界が亡びてもおかしくないことを、世界の成り立ちから教えてくれました」

 ほとんど教えている。シックスやワンだけでも面倒だというのに、こいつらまで加わったら対処しきれない。しかし、ニードは羨ましいと呟いた。

「ナンバーズは神が与える証だと聞きました。僕たち天使に与えられなかったのが悔しいのと……叶えたい願いがあるんです」

「空を飛べて、魔法みてぇなのが使えて、二人そろって美男美女で愛し合っている。それ以上、なにを望む」

 ニードは頬を赤くすると、サナも縮こまった。

「その、双子でも結婚できるように、したくて……」

 馬鹿な願いですよねと、自分で言っていて笑っているが、カイムはそこに抜け道を見つけた。

「俺も白水晶には詳しいが、願いを叶えるのに回数制限はおそらくない。権力を望めば、そこから分岐する様々な願いをかなえるだろうからな。――もしだが、白水晶に願いを聞いてもらえるとなったら、どうする?」


 二人は顔を見合わせて、どちらも同じタイミングで頷くと、答えは一緒だった。幸せになるため、叶えたいと。

「ですが、教王シックスがエレナで手にしたとも聞きました。一度戦ったことがあるのですが、天使の力でも歯が立ちませんでした。シックスは人間界では右に出る者はいないのではないかと思えるほどに強いです。そのシックスがいる限り、無理な願いなんですよ」

 だんだんと声のトーンが落ちていって、仕方のないことなのだと諦めかけていたニードとサナへ、不敵な笑みを向けた。

「シックスとは剣や斧は使わない肉弾戦をしたことがある。引き分けだったがな。だが、この剣を持って本気で相手をすれば、勝機は十分にある」

 嘘だろと、双子揃って開いた口がふさがっていなかった。

「そ、それが本当なら、私たちはとんだ化け物に喧嘩を売ったってことね」

 やっと分かったか。ニヤリと笑ってやれば、気持ち悪いと一蹴された。それをニードが失礼だとか注意しているが、サナはカイムに対して態度を変える気はないようだ。

「ええと、シックスについてはなんとかなるかもしれませんが、肝心のナンバーズがいません」

 ここまで話しを引っ張って気付かないとは。真面目すぎて足元がおろそかになっている。

 カイムは立ち上がり、キセルを右手に持ちかえたら、左手のひらを見せつけてやった。


「ナンバーズのゼロ。俺がこの前手にした証だ」

 ならば条件は揃ったなと、手のひらを二人して凝視している二つの頭をキセルでポンポンと叩くと、我に返ってくれた。

「これが、吹雪の中でもエレナを目指していた理由だ」

 さて。一度座りなおしてキセルをしまい、二人に問いかける。この旅についてくるかと。

「僕たちが、あなたたちと?」

「シックス一人が相手じゃねぇからな。もう一人ナンバーズがいる。そいつと教会の騎士共の相手をしてくれるのなら、俺としても悪い話ではない」

 ニードとサナには、きっとカイムの様につかめずにいた虚空があったのだろう。それが十分叶う夢に変化したことは、二人にとって、これほど嬉しいことはないはずだ。

 ぜひ、よろしくお願いします。ニードは綺麗な一礼をすると、サナも馬鹿にして悪かったと、頬を掻きながら謝った。

「なら出発は吹雪の止む二日後だ。お前たちも村の住人へ伝えておけ」

「はい!」

 今すぐにと、ニードはサナの手を取って家を出ていった。

「欲深で浅ましい天使だな」

 とりあえず和解できて、強力な助っ人が旅に加わった。このまま一気に夢へと突っ走るかと意気込めば、スノウが私も、と口にした。

「私も、お願い叶えたい」

「お前が? 珍しいな」

 子供らしく、あれが欲しいこれが欲しいと喚き散らさなかったスノウが、記憶が正しければ二度目か三度目の要求をした。

「白水晶を手にしたら叶えてやる。なんでも言え」

 またしても珍しくモジモジしていると、一緒にいたいと囁いた。

「カイムと一緒にいたい。ずっと、この先ずっと」

 つくづく、子供らしくない奴だ。そんなこと、頼まなくても叶えてやるというのに。

「お前はもっと欲深になれ。そうしたら、ずっと一緒にいてやる」

 柄ではないと頭を掻き毟り、いい加減斬るかと思い経ったころ、二人が戻ってきた。色々と話したそうだったが、まずはカイムが口にした。鏡はあるかと。

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