あたしは、君の理由を知らない
あたしは、一人で歩いていた。
森でもなく、街でもない、ただの道。どこへ行くかも決めてないまま、足だけが前に出る。
「……はぁ」
小さくため息が漏れる。別に、後悔してるわけじゃない。……たぶん。
あいつのこと、わけわかんなかったし。何考えてるのかも、全然わかんなかったし。だから、離れた。それだけ。
……それだけ、のはずなのに。
足が、重い。
三日、四日。どれくらい経ったか、もうちゃんと数えてない。
その間、あたしは適当に狩りをして、適当に食べて、生きてた。
一人でも、生きていける。それは、わかってる。でも。
「……つまんないにゃ」
ぽつりと、呟く。獲物を仕留めても、褒めてくれる人はもういない。ご飯を食べても、隣で文句言うやつもいない。
「ルカにゃんなら、絶対“効率が悪い”とか言うにゃ」
思い出して、少しだけ笑う。
……ほんと、やなやつ。でも。
「……なんでにゃ」
なんであたし、あんなやつのこと考えてるんだろ。
思いっきり頭を振る。考えるだけ無駄。そう思って、また歩き出す。
その日の夕方、小さな村に辿り着いた。
人はいるけど、活気はない。どこか、沈んでる。
炊き出しで行くところと、雰囲気がよく似てる。
「……お腹すいたにゃ」
適当に食べ物を探そうとした、そのとき。
「炊き出しだ!」
誰かの声が聞こえた。足が、止まる。
「……え」
ありえない。この世界にそんなことをしている人はいない。……ルカにゃん以外は。
「向こうだ!」
人が走っていく。
気づいたら、あたしも走ってた。なんでかは、わからない。でも胸が、ざわつく。
嫌な予感と、ほんの少しの、期待。
人だかりの先で見えたのは、見慣れた姿だった。こんなに遠くでも、夕日に照らされた青髪がよく見える。
「……ルカにゃん」
思わず、名前が漏れる。流石に、近くにいないあたしに気が付くわけがない。そのままルカにゃんは、淡々と配っている。
「次」
いつも通りの声。
……ほんとに、変わんない。
少しだけ安心した……と同時に、ちょっとだけ腹も立つ。
「……何してるにゃ」
気づいたら、口が動いてた。列の横から、ずかずか近づく。何人かが驚いた顔でこっちを見る。ちょっと罪悪感もあるけれど、止められない。
ルカにゃんも、ゆっくりと顔を上げた。
目が合う。キラキラとした赤い瞳が、あたしを貫いた。
変わらない。でも、ほんの少しだけ。
「……来たのか」
声が、前より柔らかくて、少し掠れていた気がした。ほんの一瞬、ルカにゃんの手も止まる。
「来たのか、じゃにゃい」
あたしは偉そうに腕を組む。
「勝手にいにゃくなったくせに」
「君が出ていったんだろ」
「そうとも言うにゃ」
少しの沈黙。周りの人たちは、ぽかんとしてる。
「……邪魔だ。どけ」
「あ、はいにゃ」
普通に言われて、普通にどく。
……何やってんだろ、あたし。
そのあと、何事もなかったみたいに炊き出しは続いた。
あたしも、なんとなく手伝う。器を渡して、スープをよそって。
「はい、どうぞにゃ」
自然に、言葉が出る。
「ありがとう!」
子供の元気な笑顔。それを見て、ふと、横を見る。
ルカにゃんは、ほんの少しだけ。
ほんとに、ほんの少しだけ……口元が、緩んでた。
「……にゃ?」
思わず声が出る。
「何にゃ今の」
「何がだ」
「今、ちょっと笑ったにゃ」
「気のせいだ」
いつも通りな即答。……でも。
絶対、笑ってた。なんかもう、それだけで。
「……変なの」
小さく呟く。
やっぱり、わかんない。この人のこと。
炊き出しが終わる頃には、空はすっかり暗くなっていた。
人も、いなくなる。静かになる。
「……」
少しだけ、気まずい沈黙。
「……」
「……」
「……なんか言えにゃ」
その空気に耐えきれず、言ってしまう。
「何をだ」
「いや、にゃんかあるでしょ!?」
「特にない」
……ほんとにこいつは。
「……まあいいにゃ」
ため息をつく。
「どうせ聞いても教えてくれないし」
「何をだ」
「君の〝理由〟」
ぴくり、と。
ほんの一瞬だけ。ルカにゃんの動きが止まった。
でも、すぐに戻る。
「……さあな」
それだけ。やっぱり、教える気はないらしい。
「……やっぱり、わけわかんないにゃ」
苦笑する。でも、前みたいに、怒りはなかった。
なんでだろ。ちょっとだけ、考えて。
やめた。
「……ほんとは、知りたいにゃ」
一瞬、空気が止まる。
「でも」
少しだけ、笑う。
「君、絶対教えないでしょ」
「……」
「だったら、いいにゃ」
息を吐く。
「わかろうとして別れるくらいなら。わかんないままで、一緒にいる方がマシにゃ」
風が、吹いた。静かな夜。その中で。
「……そうか」
ルカにゃんが、短く答える。それだけ。
それ以上は、何も言わない。でも、その声は。前より、ほんの少しだけ。
優しかった。
「……でも」
少しだけ、視線を落とす。
「たまに、気になるにゃ」
本当に小さく呟いたこの思いがルカにゃんに届いたのかは、あたしにはわかんない。
「じゃあ、明日はどこ行くにゃ?」
「候補はいくつかあるが、まだ決めてない」
「人が多いところがいいにゃ。効率いいし」
「……そうだな」
並んで歩く。少しだけ、距離が近い。触れてはいない。
でも、離れてもいない。
「ルカにゃん」
「なんだ」
「自分の為の料理も、作ってにゃ」
「……検討する」
「絶対しにゃいやつだ、それ」
あたしは小さく笑う。
その隣で、ルカにゃんも、ほんの少しだけ笑った気がした。
理由は、わからない。……でも、それでいいと思った。君の隣に、あたしはいる。それだけで、十分だ。
あたしは、君の理由を知らない。
シェルフィーネ=フェリシアール(15)
一般家庭で育った日本人の前世を持つ。生まれた時から記憶があり、今世では森の奥深くで、一族で慎ましかな生活を送っていた。だが、魔王の侵略により、自身以外の皆を亡くしてしまう。それからは放浪の旅に身を置いた。
それから半年後、お腹が空き過ぎて倒れてしまう。そこをルルカーシュによって助けられた。シェルフィーネは助けてもらったお礼とルルカーシュに対する興味で、ルルカーシュと共に行動することにする。
獣人なので、戦闘力は人間よりもある。特にシェルフィーネは一族の中でも強い方だった。
ルルカーシュ=ブラジェイ(15)
とある港街で作物に関する商売をしていた商会の三男として生まれた。周りは跡取りである長男とそれを支える次男へ接しており、三男だったルルカーシュは放置気味で育った。ただ、商会の中で育ったので、金の損得を考える現実主義者な性格になった。
ルルカーシュが5歳の頃から、魔王の侵略により国全体で不作が続く。それにより、商会もだんだんと経営不振となる。そのため、ルルカーシュは狭くて暗い屋根裏部屋に閉じ込められ、黒くて硬いパン一つが1日の食事となるほどの生活を強いられた。
それから2年後の7歳の時、闇の借金を借りていた商会がその大元に取り押さえられる。ルルカーシュは屋根裏部屋にいたので無事でしたが、家族や商会の人々はその人たちに連れて行かれた。そして、ルルカーシュは1人となった。
このような出来事で心がやさぐれてしまっていたルルカーシュだったが、そのとき『神の祝福』を手に入れ、ルルカーシュはそこで神に呼ばれる。
その神はルルカーシュに、特別な祝福を与えたことを告げる。神はときどき、世の中を良くするための特別な『神の祝福』を授けることがある。そして、その与えられた祝福は『炊き出し』。
炊き出しは無償で人々に料理を振る舞う行為なので、損得を考えるルルカーシュには到底納得できない行為だった。なので、ルルカーシュは神に、なぜ自分がそのようなことをしなければならないのか、そんなに炊き出しというものをしたいのなら裕福な者にその『神の祝福』を授けたらいいのではと問いかける。
なんやかんやあり、会話を通じて、ルルカーシュは炊き出しをすることに決める。ただ、この世界には『炊き出し』なるものの文化が無かったので、神は炊き出しに関することが書かれてある本を授ける。そこには、日本のことについても書かれていた。
そうして、ルルカーシュは各地で『炊き出し』を行うこととなっていった。




