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あたしは、君に拾われた

 お腹が空き過ぎると、人ってこんなにどうでもよくなるんだなって思った。


 最初はちゃんと辛かったはずなのに。苦しいとか、痛いとか、そういうのも全部あったはずなのに。今はもう、どうでもいいなって感じで。

 体も動かないし、声も出ないし、なんか全部めんどくさい。


……どうせなら、皆と一緒にいたかった。


 ぼんやりとした頭で、そんなことを考える。考えたところで、どうにもならないのに。


……お腹、すいたな。


 声に出したつもりだったけど、ちゃんと出てたかはわかんない。

 耳も変にぼやけてて、自分の声すら遠い。視界も、なんか白っぽくて。空なのか地面なのかも、もうよくわかんない。


 このまま寝たら、たぶんそのまま起きないんだろうなーって、わりと冷静に思った。

 まぁ、それでもいいか。どうせ、帰る場所もないし。


 そのときだった。


「……まだ、生きてるな」


 知らない声がした。

 すぐ近くから聞こえたはずなのに、水の中みたいにくぐもって聞こえる。

 重たいまぶたを、なんとか持ち上げる。


 ぼやけた視界の中に、人影がひとつ。逆光で顔はよく見えないけど、多分、あたしと同い年くらいの男の子。


「……食べるか?」


 そう言って、その子は何かを差し出してきた。湯気が立っている。いい匂いがする。


……ごはん、だ。


 その瞬間、さっきまでどうでもよかったはずの体が、急に全部思い出したみたいに騒ぎ出した。


 お腹が痛い。喉が渇く。手を伸ばしたい。

 なのに、動かない。


「……ほら」


 呆れたみたいな声がして、次の瞬間。口元に、温かいものが触れた。反射みたいに、それを口に含む。

 やわらかくて、あったかくて……ちょっとしょっぱくて、すごく美味しい。


……ああ。


 なんだ。まだあたし、生きてるじゃん。

 気づいたら、視界がぼやけてきた。


「……大げさだな」


 そんな声がしたけど、どうでもよかった。


 夢中で、差し出されたそれを食べる。

 食べて、食べて、食べて。


 少しずつ、意識がはっきりしてくる。そしてようやく、その子の顔がちゃんと見えた。

 特に笑ってるわけでもなくて。優しそうでもなくて。ただ、淡々とこっちを見てるだけ。


「……なんで、こんなことするにゃ」


 やっとのことで絞り出した声は、思ったよりちゃんと出てた。

 するとそいつは、少しだけ首を傾げてから、


「別に」


 ほんとにどうでもよさそうに、そう言った。


「損はしてないから」


……え?

 意味がわかんなかった。助けられたはずなのに。ごはんももらってるのに。

 なのに、その言葉が妙に引っかかる。


 このときのあたしは、まだ知らなかった。こいつが、これから先もずっと、こんな顔で人を助け続けるやつだってことを。


 そして、その〝理由〟をめぐって、あたしがあんなにも振り回されるなんてことを。

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