苦渋の選択
キリウェル達は、まだ日が昇る前にフレールを出立しようとしていた。
「ルティスラ村近くで、人が殺されたらしいから、気ィつけて下さい。」
馬の世話をしてくれていたキャスの屋敷の使用人が声をかける。
ルティスラ村は、テオグラートが初めてフレールに行った際に立ち寄った小さな村だ。
「物取りか?」
アディが、馬の手綱を受け取りながら、使用人に近づく。
「いや~、それが金は取られてなかったらしいです。なんでも、リメルナの兵隊だって話しで。あの辺りは、リメルナが警備に兵隊出してるんで、わざわざ、兵隊狙うなんて、おかしな輩がいるもんです。」
使用人に、礼を言い、アディ達は、故郷コッツウォートに向かって出立した。
その隊列には、テオグラートの姿はなかった。
キリウェル達は、フレールに向かう際に戦った、魔術師と異形について考えざるを得なかった。
キリウェル自身は、魔術師と直接戦っていなかったが、アディ達の報告とニーナの死が、13才のテオグラートを戦いに出させるべきではないと、皆の意見が一致した。
魔術師との戦いは、ロゼとマークがいなければ全滅していたかもしれなかった。
この戦いは、魔術師二人だったが、西のキッセンベリとの大きな戦いになった時、何人の魔術師が戦場に出てくるのか分からない。
戦って主の為なら死ぬ覚悟はある。
だが、主を守る者が皆死んでしまったら。
この選択では、新しい国王リルが、新しい主になる。
もちろん、自分たちは、コッツウォートの兵だ。分かっている。分かってはいるが、第三所領の兵になった時から、そして幼いテオグラートに宣誓をしたその時の想いが、キリウェル達を苦しめた。
もし、自分たちが生き残れた場合、テオグラートの元に戻ることも、テオグラートをコッツウォートに呼び戻すことも出来ないだろう。
新しい国王リルが、テオグラートを好意的に迎えるとは思えない。
そして自分たちも、テオグラートの元に戻ることを許す筈がない。
ただ、自分たちが生き残れる可能性が低いことが、この決断をさせた。
テオグラートが、生き残りさえすれば、コッツウォートの兵が滅んでも、まだ、再建の道はあると信じて、テオグラートをフレールに置いてきたのだ。
宣誓をした主を裏切る。
キリウェル達は、裏切り者になる苦渋の選択をした。
「テオグラート王子は、私達を恨むでしょうね。」ジルが馬に揺られながら、呟いた。
クラウス王子に頼みロゼとマークがテオグラートのいる部屋を封じた。
本当は、国王に頼む筈だったが、多忙で会うことが叶わなかった。
キリウェル達は、ジルもフレールに置いていこうとしたが、実行する前に気付かれた。
ジルにとっては、すでに友を二人も殺され、第三所領では、もっと多くの仲間が亡くなっているかもしれなかった。
年齢や性別など関係ない。
同士のために、戦いたかった。
自分も騎士だと。ジルの主張は、キリウェル達を納得させた。皆、同じ騎士だった。
フレールで聞いたリメルナの兵の殺害は、キッセンベリの魔術師である可能性が高いと、キリウェル達は、確信していた。
リメルナの兵は、傭兵が多く少人数での戦いに強い。殺された人数が、五人の小隊だったと聞いた。
今回の旅に、ロゼやマークは同行していない。
ベリンガーも、先にリメルナに向かっている。
平野を進むルートは、隠れる場所が無いため、待ち伏せの危険はないが、自分たちが隠れる場所もなかった。
リメルナの兵より、人数は多いが油断ならない。
何としても、コッツウォートにたどり着き、キッセンベリを倒さなければならない。
主のために。




