40-3 魔王復活の儀式
あれは、メティスっ!!
声に出して名前を呼びたい衝動を必死に堪える。
せめて私に気づいてくれないだろうかと、訴えるようにメティスに視線を投げかけるけど、メティスは朦朧とした瞳で地面を見つめていてコチラには全く気づいてくれない。
め、メティスのほっぺちょっと腫れてない? よくみたら口元から血が出てない? もしかして殴られたの?! 許せないメティスを殴った人は絶対にぶっ飛ばす!!
内心で怒りの炎を燃やしながらもメティスからは決して目を離さなかった。
フラフラとおぼつかない足取りのメティスを、体を縛るロープを無理矢理引っ張って祭壇に昇らせ、その上に描かれている魔方陣の上にメティスの体を放り投げた。
ちょっとぉおっ?! メティスが怪我したらどうするの?! もっとやさしくふわっと座らせてあげれないの?!
すぐにでも噛みついてやろうかという程怒りを募らせながらも、我に返る。
メティスが直ぐそこに居る! ならもう逃げ出さなくちゃっ、で、でも子ども達がっ。
その一瞬の躊躇が仇となる。
山羊の骨の仮面を付けた、トゥルーペに「我が君」と呼ばれた男が声高らかに叫んだ。
「赤き瞳の贄は逃したが、それを補う程の器を我々は手に入れた! さあ! 月も覗かぬ新月の夜! 今宵が魔王復活の瞬間となろう!」
「っは、まって!」
私の叫び声は掻き消された。
「さあ魔導師達よ! 魔王復活の魔術を唱えるのだ! 今こそ世界は我らの手に!」
「オオーーーーッッ!!」
この部屋にいる悪魔の仮面を付けた大人達が一斉に低い声で不気味な呪文を唱えだし、部屋の気温が急激に冷え切った。
赤い魔方陣から鉄の匂いが立ち込め、ぶわりと赤と黒の煙が吹き出し、私と、周囲の子ども達を包み込もうと襲いかかってくる。
「アアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
そして、祭壇の上では倒れていたメティスが背中を反らせ断末魔の様な悲痛な叫び声をあげた。
メティスの足下の魔方陣が赤く、赤く光り、それはメティスの体を貫く刃となり彼を苦しめる。
「やめてやめて!!」
メティスの元へ走り出そうとしたのに、足を鎖で捕らえられているせいで足を取られて転んでしまう。
すぐに起き上がろうとしたのに、赤い煙を吸い込んでしまった途端、体に力が入らなくなり、喉に激痛が走る。
私の周りの子ども達も同様で、みんな呻き声を上げながら倒れていく。
「ぐっうぅっ!!」
喉から通って、肺に入り体中が痛みを訴える。段々と体の力が吸い取られていき、このままではまずいと分かっていても身体が動いてくれない。このままここにいたら生気を奪われて動けなくなっちゃうっ。
「めてぃ……すっ」
地面を這いつくばりながらメティスに手を伸ばす。
そして、気づく。
羊の骨の面を被った男が、メティスの元へ一歩、また一歩と近づいていき……その片手には赤いナイフが握られている事に。
『 こんな儀式をしなくても魔王は復活する、人への怒りと憎しみを募らせて人としての心が壊れ、魔王は人間を滅ぼす為に君臨する』
この瞬間の事だ、あのナイフがメティスに突き立てられた瞬間、メティスはその痛みを憎しみへと昇華させ、人間を完全に見捨ててしまう。
魔王としてメティスは生まれ変わり、人間としてのメティスは死んでしまう。
「ぐっ……あああぁぁっっ!!」
床に手をついて踏ん張って起き上がる。額から滴り落ちる汗が床に零れ落ち、歯を食いしばって胸元から短剣を取りだして、それを足を捕らえている鎖に突き立てた。
鉄が鉄を弾く鈍い音をたてるが、鎖はすこし欠けただけで壊れない。何度も繰り返せば壊れるだろうがそんな時間はない。
あと何秒猶予がある? これを考えている瞬間も、瞬きしている瞬間にも、メティスを失う危機は迫っているというのにっ。
「めてぃ、す……」
こんな小さな声じゃ痛みに叫ぶメティスの耳には届かない。
「めてぃす……めてぃすっ」
立ち上がって、鎖が繋がっていても進める限界までメティスの方へと進んだ。
忘れないでメティス、人を憎み嫌ってもいいから、それでも貴方を傷付けてしまった人間の中にも、貴方を大切に想う人がいるという事を。
ぐっと両手を握り締めて息を吸い込む。
私だってその中の一人なんだよ! 貴方を絶対に諦めたくない!
「メティスーーーーーーーーーっっ!!」
全てを掻き消す程の大声が辺りに響き渡る。
誰もが私に振り向き、もしかしたらほんの1秒の出来事だったかもしれないけど、時が止まったような感覚だった。
そして、私は確かに……メティスと視線が交差した。
祭壇の上から驚愕の表情で私を見つけたメティス。
痛みに叫んでいた喉では、すぐに言葉を発する事は出来ないのか口をはくりと動かす事しか出来ずにいた。
私の大好きな穏やかな海の底を思わせる青い瞳は赤く光っていて……その瞳からポロリと一滴の涙が零れ落ちた。
その瞬間、私の目の前に火花が散る。
私の大切な人を痛めつけ泣かせたこの現実に、怒りで目の前に火花が散った。
「メティスにっ」
上空から私の横を小刀が掠め飛び、私の足を繋ぐ鎖に突き刺さり粉々に粉砕した。しかし、そんな事に構っている暇はない。
足が自由になったと本能で察知して走り出し、私はメティスに赤いナイフを突き立てようとしている男へと短剣を振りかざして飛びかかった。
「メティスに触らないでーーっ!!」
ズトッと鈍い音と共に、その男の肩に短剣を突き立てた。
「ぎゃああああっっ?!」
男は祭壇から転げ落ち、私はすかさずメティスへと手を伸ばした。
「メティス!!」
メティス行かないで、まだここにいて、私の大好きなメティスの心を、失わないでっ。
冷たく冷え切ったメティスの体を抱きしめて告げた。
「約束、今度はちゃんと守るからね!」
ピクリとメティスが反応する気配がする。
「私はメティスの傍にいるよ!」
最悪なシナリオのステージの上で、私はイレギュラーな存在として、ようやく彼を捕まえる事が出来たのだった。
◇◇◇◇◇
作品を読んでくださりありがとうございます!
もし「面白い!」と感じましたら、下の【☆☆☆☆☆】の評価や、いいね、ブクマ登録でポチっと応援をどうぞよろしくお願いします!




