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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第5章 魔王復活の儀式(6歳)
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40-1 魔王復活の儀式


「レグルスはなんでここにいるの? やっぱり攫われたの?」

「まあ……そんなとこ」


 こんな小さな子どもが劣悪を極めたような場所に連れ攫われてしまうなんて、どれ程怖かっただろうか。

 膝枕をしたまま、呼吸が落ち着いてきたレグルスの頭を撫でながら会話を続けた。


「そっか……ご両親もきっと心配してるよね、早くここから出て帰ろうね」


 安心してくれるだろうと思ったのに、レグルスの顔は不快そうに歪んだ。


「心配? まさか、今頃ああよかったと手を叩いて喜んでいるだろうさ、俺が生きていたと知ったら舌打ちの一つでもされるだろうな」

「ええっ?! なんでそんな」

「赤い月の晩、生まれた双子は吉凶の象徴であり、幸福と不幸を呼ぶ不吉な存在である」

「え?」

「俺の国の言い伝えだ、俺は赤い月の晩に産まれた双子だ」


 レグルスはスッと視線を私から逸らした。


「双子の兄の方は光を吸い込んだような美しい金髪、対して俺は闇を彷彿とさせる黒髪だった。どちらが国に幸運を呼び、そして不幸を呼ぶのかなんて明確だった」


 レグルスは自嘲気味に笑う。


「俺は忌み子と呼ばれ、忌避され疎まれた……こんな場所にいるのも、もしかしたら誰かが手引きしたからかもな」


 私へと視線を戻し、レグルスは全てに絶望した瞳で笑う。


「だから、俺は生きたかった……誰にも望まれないこの命を俺自身すら投げ捨てたら俺が産まれてきた意味が消えると思ったから。

俺を蔑んだ奴等に絶対に復讐してやる……だから俺は死ねない、そう思った」


 レグルスは憎しみに塗れて見開かれた目を緩め、目を閉じた。


「だから……俺を助けた事を今更後悔しても遅いぜ、忌み子だと知っていたらお前も俺を助けなかっただろうに」


 レグルスの言葉が途切れ、私はどう返答すべきか悩んだ。


「レグルス……安心して」


 レグルスの頭を撫でて、私に出来る一番優しい微笑みを浮かべた。


「確かに黒髪は将来お歳を召して白髪が生えてきた時に目立ちやすいけど、毎日昆布を食べたら黒髪の維持が出来るって聞いた事あるから!」

「は?」

「え?」


 レグルスから素っ頓狂な声が漏れたので思わず聞き返してしまった。


「お前俺の話聞いてたか?」

「うん、黒髪ならではの悩みってあるよね、わかる、夜道を歩いてると闇と同化しちゃうから対向車に気がつかれにくくて危ないし、蜂って黒いもの目掛けて飛んで来るっていうから襲われやすいし、っていひゃいっっ!!」


 真剣に喋っている途中でほっぺをつねられた! 痛い! 爪をたてないで!


「赤き月の双子の伝承はこの国だけじゃなく世界共通の筈だろうがっ、なんでそんなアホみたいな返答しかできねぇんだよ?!」

「だって私はそんな話信じないし! 実際にレグルスとこうしておしゃべりしてても普通に楽しいから関係ないよ!」

「っ!」


 レグルスは言葉に詰まり、何も言えなくなっている。


「珍しいって意味では、そうだ! 私の大好きな兄様がね赤い目なの、世間的にはよくないぞ! って言われてるらしいんだけどね、全然そんな事ないの! 最高にかっこよくて優しくて素敵な兄様なんだよ!」

「赤目……っ?!」


 レグルスはぎょっとしたように目を剥いた。


「赤目は魔王の配下の象徴だろうがっ、そんな奴がいたら殺されるぞ!」

「あーっ!! ほらそういうのが駄目なんだよ! 実際の兄様はとってもかっこいいんだからね!」


 この国では王様が赤目の差別を無くす為に尽力してくれて、差別が薄れてきているようだけど……レグルスの話しぶりからして、きっと彼はこの国ではない所から連れて来られたんだろう。他の国ではまだ赤目への偏見があるようだ。


「赤目は伝承なんてもんじゃねぇ、魔王の魔力が凝固されてできたもんだからその内も凶暴だとっ」

「それだよ! それってレグルスが忌み子だって言われて嫌だと思っている感情とおんなじなんだよ! めっ!」

「んなっ……ことは」

「いいもーん! 私は兄様の事大好きだからいいもん~!」


 ほっぺをぷくーっと膨らませてそっぽを向くと、レグルスは心底不思議そうに質問をしてきた。


「お前は……本当にその赤目の奴と対峙してもなんとも思わないのかよ?」

「それは赤目に対して? そうだね……確かに一度は思った事があるんだけど」

「ほらみろ、やっぱりお前だって」

「目が赤いと花粉症になった時とか泳いで目が充血した時とかに分かりずらいし、目の異常に気づきにくくて大変そうだなって……」

「…………」


 ほら、人間の血って赤いからね? 目に異常があると赤くなるじゃない? そうなった時に分かりにくいと処置が遅くなるんじゃないかと心配した事がある。そうだ、今度エランド兄様に花粉症の目薬を買ってあげよう、花粉症になる前に使用しておけば目の異常もなんとか防げるんじゃないだろうか、我ながらないすあいでぃあだ。


「……ぷはっ」

「え? レグルスもしかして笑った?!」

「くくく……いいんじゃねぇの、お前みたいに暢気な奴がいる位が」

「暢気?! 私は真剣に兄様の健康について考えているんだよ?!」

「そうかよ、平和だな」

「凄く馬鹿にされている気がする」


 さっきまでの吊り上がってどこか辛そうだったレグルスの表情からは想像できないぐらい楽しそうに笑っている。今の話の何処が彼のツボにはまったのか分からず私は困惑するばかりだ。


「そういえばレグルスご家族に嫌われてるって言ってたよね? まさか酷い目にあったりしてない?」

「どうだろうな……」

「ま、まさかっ、レグルスのお兄ちゃんにはリンゴの皮むきがうさぎちゃんになっているのに、レグルスだけ丸ごと一個のリンゴが出されちゃうとかそういう事?!」

「っはは! なんだそれっ」


 なんで面白いと笑っているの?! まさか本当にそんな感じなの?! そんなの酷すぎる!! 食卓のみんながうさちゃんカットのリンゴなのに、自分だけがまるごとリンゴだなんて辛すぎる!! あまりにも酷い仕打ちだ!


「レグルス! 辛くなったらいつでも私の家に遊びにきてね! うさちゃんカットのリンゴ沢山出してあげるからね!」

「お前が言ういじめの想像ってそんなもんなんだな」


 レグルスはどことなく悲しげに、諦めるように笑った。


「お前はその考えのままでいいぜ……汚いもんは知らない方が良い」

「レグルス?」


 ふーっと深い溜息をついてからレグルスは話を変えた。


「で? お前はどうして捕まった?」

「さっきも言ったけど、私は目的があってわざと誘拐されたんだよ!」

「あの話マジだったのか、変態かよ」

「違います!! 大切な友達を助けに来たんだよ!」

「友達?」


 それは勿論メティスを助ける為だ、そしてこうしてレグルスとお話している間も実は気が急いてソワソワしている。でもその時が来るまでここで待たなくちゃいけない。


「その友達を助けに明け方に沢山の兵士達がここに来るんだよ、だから朝までの辛抱だからね、もうすこし頑張ってね」

「兵士が来るだと? なんでそんな事が分かる?」


 わかるよ、だってゲームではそうだと語られていたから。

 攫われたエランド兄様とメティスを国中探し回った国の兵士達が、ようやく見つけ出せたのが二人が攫われた次の日の早朝だと言われているから。

 つまり、メティスが魔王として心を破壊される前に助け出して、一緒に明け方までどこかに隠れていれば必ず助けが来てくれるという事だ。

 一緒に脱出する可能性も考えてみたけど、早朝まで隠れていた方が断然生存率も高くて効率的だと考えている。


 闇の魔法を駆使してメティスと一緒に帰るっ。

 ゲームのように、貴方を一人で絶望に突き落とさせたりなんて絶対しないからね!


「私は友達を助けに行くから、レグルスとはここでお別れだけど、兵士さん達と合流したら必ずレグルスを助けてくれるように伝えるから安心してね」

「待て、待て……っ、何を勝手にっ」


 その時、コツンコツンとコチラへ近づいてくる足音が二つ聞こえてきた。

 心待ちにしていたその時が近づいて来た事に、無意識にぎゅっと手を握りしめていた。

 そして、振り向けば悪魔を模した仮面をつけたスーツ姿の男が二人牢の外に立っていた。


「これがホーン様が言っていた貴族の生け贄だな」

「時間だ、儀式の場へ連れて行くぞ」

「ああ、確か女一人と、男の方は上で重傷の怪我を負ったらしいが……」


 私はスゥっと思い切り息を吸い込んで、レグルスの頭を抱きしめながら泣いたフリをした。


「うわあああんっっ!! 死んじゃうなんて酷いよぉ! なんでこんな事するのぉ! もうやだぁ! おうちに帰りたいっ!」

「お、おいっ」


 戸惑うレグルスの額に手を翳し、最後に一言告げた。


「生きたいって願った貴方だから、これからは誰よりも幸せになってね」

「ウィズ行くなっ」

「おやすみなさい……」



 夢の中へ誘え眠れ……さようならレグルス。



 密かに闇魔法をレグルスの脳内に直接かけると、抵抗しようと私に腕を掴んでいたレグルスの腕がずるりと落ちて、瞼も硬く閉ざされてしまった。

 眠ったね、服は血まみれのままだから、私が上手く演技すれば死んだと勘違いしてくれる筈。

 私がグスングスンと鼻をすすって泣くフリを続けていると、牢の中に先程の男二人が入って来た。


「ああ、男の方は死んだか、あれだけの大怪我なら当然か」

「死体は生け贄に使えないそうだからな、その女だけでも連れていくぞ」

「さあ来い」

「いやーーっ! 離してーーっ!」


 頭を振り、両手足をばたつかせて適度に暴れているフリをする。鳴き真似だから涙は流れていないけど、暗がりだからきっと誤魔化せている筈。

 大人の男の人に無理矢理腕を引っ張られて歩かされるものだから腕が多少痛んだけど、歯を食いしばる事で痛みに耐えた。


 そのまま私は牢屋から引き摺り出され、どこかへと連れて行かれる。


 途中、後ろを振り返るとレグルスは牢屋の暗闇の中でピクリとも動かずに眠っていた。


 大丈夫、朝になるまでの辛抱だよレグルス! 貴方も必ず生き延びてね!


◇◇◇◇◇


作品を読んでくださりありがとうございます!


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