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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第3章 闇の精霊との契約(4歳)
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30-2 「今日は僕とずっと一緒に居てくれるって言っていたのに」


「パパ、ウィズの報告はどうだったの?」

「魔力はかなり高い、属性については闇魔法が使えるという事だけは伝えてある……詳細は言わなくて良い」

「はい! あっ、おーさまは? ウィズおうさまにこんにちはしたいよ」

「あんなクソ野郎に挨拶はいらない」


 一瞬にしてパパの顔が最高に不機嫌に歪んでしまった。それはもう顔に影を作って今にも舌打ちが飛び出しそうな程に酷く歪んでいる。


「先程から俺に話しかけようと馬鹿みたいに魔法を飛ばしてきているが全部はじき返している、話す事なんて何もないクソ野郎が」

「パパすっごいおこってるね」

「勝手に婚約を決められそうになれば当然だ」


 そうだ婚約! さっきパパは私がエランド兄様の婚約者候補になったって言ってたよね? 婚約者と何が違うんだろう?


「ウィズ、エランド兄様のこんやくしゃなのー?」

「有り得ない」


 辺りの空気がひんやりと寒く下がり始める! パパが機嫌悪くなるといっつもこうなるーっ!!


「で、でもさっきパパもいってたよ」

「いいかウィズ、婚約者候補とは数多く居るエランド王子の婚約者候補の一人に過ぎない、つまりお前は婚約者じゃない、絶対にさせない、わかるな?」

「わかんなーい」

「分からないならそれでもいい」

「でもなんで婚約者から婚約者候補になったの?」


 パパは私が落ちないように抱きかかえ直してから、面倒くさそうに答えた。


「お前とエランド王子の婚約が決まりかけた時に第三王子のラキシス王子が現れた」

「うんうん」

 そこまではロッカスさんから聞いた話だから知っている、問題はその先で何があったのかという事だよね。

「突然ラキシス王子が泣き喚きだし、数百人の妖精が部屋に雪崩れ込んできた」

「うんうん」

「ラキシス王子が泣きながら駄々をこねた理由が『エランド王子とウィズの婚約は絶対に嫌だ』という理由だった」

「ふえ?」


 私とエランド兄様の婚約が嫌? なんでだろう……あっ、もしかしてラキシス君はエランド兄様が大好きだから、最近独り占めしちゃってる私にヤキモチを妬いちゃったのかな?! それならすごく納得。


「ラキシス王子が泣き止まなければ妖精の暴走も止まらない、という事でファンボスが婚約者ではなく婚約者候補の一人という事で話をつけて、ラキシス王子を泣き止ませた」

「なるほどです」

「王妃は最後までお前をエランド王子の婚約者にしたそうにしていたから、話を強制的に終わらせて今に至る」

「おうひさま?」


 王妃様という事は王様のお嫁さんで、エランド兄様とメティスのお母さんという事だよね? 私は会った事はない筈だけど、何で私を婚約者にって言ったのかな?

 色んな人達の思惑が全然分からなくて頭から煙が出そう。


「ウィズ」


 今まで苛立っていただけだったパパが足を止めて、突然真面目な顔で私に問い掛けてきた。


「なあに?」

「……エランド王子や、メティス王子の事は好きか?」

「うん! 二人ともだぁいすき! 一緒にあそぶのも楽しいの! ウィズの大切な友達と兄様なのよ!」

「……そうだったな」


 パパは長く深く溜息をついて、悩ましいと口にした。


「あの二人がお前にとって大切なのは分かる、現に俺が帰ってくるまでの間ウィズを守っていたのはあの二人だ」

「うん!」

「だから、せめて子どものうちは交流を許そうと思っていたが、婚約者となると話は変わってくる」


 外へと続く大きなお城の扉までパパがやって来ると、門番の人達はパパに一礼してから大きな扉を開けた。パパはそのまま石畳の階段を下り中庭までやって来ると、まるでお城を守るように君臨している身の丈五メートルはあるかという巨大な大理石で出来た騎士の石像を見上げた。

 騎士の石像は馬に跨がり剣を空高く掲げていて、国を守る象徴としているかのようで、私もとても格好いいと感じた。


「ウィズ、お前はポジェライト家の正当な血筋を持つ俺の娘だ、出来る事なら危険には晒さずにただ幸せになって貰いたい」


 パパは私の額にかかった前髪を指先でどけて、真っ直ぐに私の瞳を射貫いた。


「お前はこの先の未来、どうしたい? 普通の令嬢のように囲われて守られ、より良い条件の貴族の元へ嫁ぎたいのか、それとも別の道を歩みたいのか」


 お前の気持ちを聞かせてほしい、とパパは真摯に私に向き合った。

 パパのこういう所が大好きだ。私がまだ小さい子どもだからと言葉を選ぶ事をせずに、いつもちゃんと語りかけて選ばせようとしてくれる。分からなくてもいいから聞くようにと、同じ目線の言葉を投げかけてきてくれるのだ。

 そんなパパだから、私はもう既に自分のなりたい未来がぼんやりだけど、少しずつ形を作って分かるようになっている。


「ウィズはね、パパと一緒にポジェライトを守りたいの!」


 ぐっと手を握り締めて、空高く掲げた。


「パパみたいに戦って! パパみたいにみんなを守るの! ウィズはパパの背中を守って戦えるような戦士になるのよ!」


 パパは大きく目を見開いて驚いてから、フッと息を吐き出して破顔して笑った。


「俺と戦いたい……か、血は争えないな、お前は間違いなくポジェライトの血を引く子だウィズ」

「うん!」

「ポジェライト家は代々男も女も関係なく戦う道を選んだ、領地に魔物が多く存在するせいで生きていく為に仕方なくだった者もいれば、己の命を領地に捧げて戦った者も居た。ポジェライトの歴史は、いつも戦場と隣り合わせだ」


 パパは私を一度地面に降ろし、同じ目線になるようにしゃがむと、私の両肩を掴んで告げた。


「お前がポジェライトとしての生き方を選択するのなら一つだけ忘れずに覚えておけ」

「うん、なあに?」

「純粋でいい、頭が悪くてもいい、ただ一つ……愚かにだけはなるな」

「おろか……?」

「戦いを選ぶならいつか必ず選択を迫られる場面が出てくるだろう、お前の大切な人が命の危機に瀕した時、間違っても相手を守って自分が死ぬような愚かな選択はするな」


 パパは凄く真剣で、けれど瞳の奥がとても悲しそうに揺れていた。


「相手を守って死んだとして、残された相手はどう思う? お前が死んだ事で己を憎みけれど救われた命だから死ぬ事も許されず一生苦しんで生きて行く事になるだろう……誰かを守って死ぬなど、最も愚かな偽善だ」

「パパ……?」

「ポジェライトとして生きるというなら強くなれウィズ。大切な者を守り、そして自分自身も守れるように、どちらかを犠牲にしなくては助からない命に悔いないように強く、強くなれ」


 夕暮れの太陽に照らされた騎士の石像の影がゆっくりと私に近づいてくる。

 パパの言葉を心に刻む。



 強くなれ、誰も犠牲にしなくてもいいように。

 強くなる、自分が望む未来を勝ち取る為に。



「うん! ウィズ絶対につよくなるっ、誰の心も殺さないようにつよくなるよ!」

「……そう約束出来るなら、お前はポジェライト家の後継者として相応しい戦士になれるだろう」


 パパは静かに微笑むと、再び私を抱き上げて馬車へと続く道を歩き出した。


「俺が王子達とお前の婚約を反対する理由は、そういった強さとも関わってくる」

「え?」

「もしかすると、いつの日か王子の誰かは……」


 パパは言いかけて首を横に振った。


「この話は止めよう、どちらにせよポジェライトの後継者になるのなら王子との婚約は無理な話だ」

「そうなの?」

「ポジェライトを継ぐ後継者のお前が、王子の妃として嫁いでいく訳にはいかないだろう」

「あ! ほんとだ!」


 私がエランド兄様と婚約して結婚しちゃったらお城に住む事になるもんね、そうしたらポジェライトの家にはいれなくなって、戦う事が出来なくなってしまう! 私がポジェライト家の後継者になるならば、結婚は出来ないのだ!


「ウィズ結婚しなーい! 婚約もしなーい!」

「別に結婚するなとは言っていない、婿をとればいい」

「お婿さん探すね!」

「なら、エランド王子との婚約は無理だと分かるな?」

「うん! エランド兄様とは婚約やめとくね! ウィズはお婿さんさがすから!」

「はは……今はそれでいい」


 パパはぎゅっと私を抱きしめた。


「婚約者が魔王の生まれ変わりだなんて、そんな惨い事をさせられるものか」

「え? パパいまなんて言ったの?」

「なんでもない」


 パパの声が小さすぎて聞き取れなかったけど、パパが同じ言葉を言ってくれる事は無かった。



 その時、ふと私に向けられた視線を感じて庭の生け垣に振り向いた。



 生け垣の中からライトグリーンに煌めく瞳が二つ私を見つめていたのだ、私よりも少し小さい緑色の髪をした男の子。

 もしかして、第三王子のラキシス君かな? 聞いていた話と容姿も似ているし。

 挨拶でもしようと手を振ろうとした時、ラキシス君は私に向かって思い切り「べーっ」っと舌を出してきた。


「へっ?」


 更には自分のほっぺをびろびろと伸ばして変顔をしてから、素早く生け垣の中へ姿を眩ましてしまった。私はというと、呆気にとられてしまいぽかんと口を開けていた。


「どうかしたか?」

「う、ううん、なんでもないよ!」


 パパにぎゅーっと抱きついて、もう一度ラキシス君がいた生け垣を見たけど、やっぱりもうそこには誰の姿も無かった。



(不思議な子だなぁ……)



「先程の話だが」

「うん?」

「婚約だの、結婚だのはまだ考えなくていい。お前がいつか本当に心から愛した者が現れた時に考えればいい」

「パパも……そうだったの?」


 ママの事、好きだった?

 そうだったら、嬉しいなって。好きだった人から生まれたのが私だったら幸せなのにと、願いも込めて聞いてみたけど、パパはすぐに微笑んでくれた。


「俺がレベッカを見つけたように、お前もいつか最愛の人を見つけるといい」

「……っ、うん!」


 ぎゅうっとパパの首に抱きついて何度も頷いた。

 エランド兄様も似たような事を言ってたな。

 恋とか、愛とか私にはまだ全然分からないけど……いつかそんな人が見つかるといいな。

 パパに優しく抱きしめられたまま、馬車で家路についたのだった。


◇◇◇◇◇


作品を読んでくださりありがとうございます!


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