19-3 ツンツンボーイと令嬢タックル
街の外で待たせていたポジェライト家の馬車に三人で乗り込み、エランド兄様をお城まで送る為に馬車がガタゴトと揺れる。
馬車の中ではみんなほとんど無言で、私の隣に座るパパは不機嫌そうだったけど、向かいに座っているエランド兄様の顔はほんのり赤くてさっきやっぱり泣いちゃっていたのかもしれない。
「あの……ヴォルフ殿、ウィズに、その」
静寂を切ったのはエランド兄様で、パパに何かを懇願していた。パパは相変わらず機嫌が悪そうだったけど、エランド兄様が握っている金の宝石の指輪を眺めてから深く溜息をついた。
「王家としてじゃなく、個人的になら」
「ああ!」
エランド兄様は笑顔で頷き、私にその指輪を傾けた。
「ウィズ、両手出してくれるか?」
「こおー?」
「そう、このぬいぐるみは今日からウィズのディフェンダーだ」
兄様に言われた通りに両手を差し出すと、兄様は指輪を指先で弾き、その瞬間ぽんっと空気が弾けた音と同時に大きなぬいぐるみが飛び出してきた。
ふわふわで大きな紅竜のぬいぐるみだ!
「ガオーのぬいぐるみだぁっ!」
「さっきの店で買ってたんだ、ウィズにプレゼントしようと思って、気に入ったか?」
「うんっ! かわいいぃぃっ!!」
むぎゅうって竜のぬいぐるみを抱きしめて頬ずりをする、大きなぬいぐるみは私の身長よりも一回り大きくて、馬車の椅子に座らせてお腹にダイブして埋もれてしまえる!
「エランドにーさまありがとお!!」
「昨日の事があったから、もしウィズが元気がないようだったら励ませたらなと思って今日買い物に出掛けてたんだ、でもヴォルフ様とこうして出掛ける位だから杞憂だったかもしれないけど」
「ふえ……」
え? じゃあエランド兄様が今日お忍びで出掛けて来ていたのって、私を励ます為に買い物に来ていたって事?
「にーさま……ありがとぉ」
その思いやりと優しさが私の事を本当に心配してくれていたんだと伝わってきて、どうしようもなく嬉しい。
エランド兄様は照れくさそうに笑って、頬を掻いた。
「でも結果的に、俺がウィズに救われたな」
「えー?」
「いつも、いつも、小さなお前に助けられてる」
エランド兄様に頭を撫でられて、一層優しい眼差しで微笑まれる。
「お前に出会えて本当によかった」
「ウィズもーっ! これからも、ずっといっしょ!」
「ああ、うん」
兄様は視線を泳がせて、顔を赤らめたまま満面の笑みを浮かべた。
「ずっと一緒に居たいなら、俺の隣は開けておくからいつでもおいで」
「はぁい!」
「エランド様」
地を這うような低いパパの声が割って入ってきた。
「お戯れを……」
「ああ、戯れだ」
口元は微笑み、瞳は真剣みを帯びて、エランド兄様はパパに告げる。
「だが、その戯れがいつか本気になったら改めて挨拶に伺っても?」
ビリッと空気が震え、パパから冷気が溢れ出す。
「今後の為にも、ハッキリと言っておこう」
パパは長い足を組み替えて、腕を組んでエランド兄様を睨み付けた。
「王家の血筋の者と我が家の娘の婚姻は決して認めない」
「王家の命であっても?」
「勘違いされては困るな、我がポジェライト家は国に仕えているのであって、王家に仕えている訳ではない、北の辺境の地からポジェライト家が手を引けばどうなるか……王家の者なら分かると思うが?」
パパが差し出した片手を思い切り握ると、馬車の窓が凍り付いてバキンと音をたてて割れた。
「認めない、この話はこれで終わりだ」
「……」
二人は無言のまま睨み合い、対して私は今なんの話をしていたのか全然ついていけずに困っていた。
「パパ~さむいよぉ」
「……すまない」
パパのマントに包まれて、そのまま膝の上で抱っこされ、エランド兄様は何も言わずにジッと私を見つめていた。
「確かに今ウィズに必要なのは家族の愛情だな」
「物わかりが良くて助かります。俺が帰還する迄の間ウィズの兄代わりをして頂いたようで、ありがとうございました、ですが戻ってきたからにはもう結構です」
ああもうまたビリビリとした空気になるっ、なんで突然険悪になってしまったの二人とも?!
そんな不穏な空気のまま馬車は王城に到着した。
エランド兄様はディオネ様があらかじめ手配していた近衛兵達に迎えられ、私は馬車から兄様へバイバイと手を振ってお別れをした所で馬車は再び動き出した。
「厄介な奴に好かれたものだ」
「なあに?」
「なんでもない」
パパの独り言に首を傾げるも、パパは気にするなと首を振る。
「ウィズ」
返事をするよりも早く、パパが何かを私に投げて寄こしてきた。受け取った手の内に転がる大好きなまんまるいものに目を輝かせる。
「リンゴだぁ!」
「果物が好きだと聞いた」
「うん! だいすきっ」
甘くてじゅわああってしててサクサクしてて最高に美味しいんだよね! ジュースで飲むのも好きだけど、やっぱり丸ごとかぶりつくのが一番美味しいと前から思っててねー! その中でもリンゴが一番好きってなんで分かったのパパ凄い!
うん? でも私丸ごとかぶりついた事なんて無い筈なのになんで美味しいって知ってるんだろう?
「好きな物も、嫌いな物も、これからは全部教えてくれ」
パパは私の頭を撫でて、優しく微笑んだ。
「大切にする」
「……うん!」
パパのぶっきらぼうな言い方、でも優しい声に嬉しくなっちゃって満面の笑みで頷いて答える。
そうだよね、これからはずっと一緒だから、今まで知れなかった事を一緒に感じていけるんだもんね。
私、今とっても幸せだよパパ。
そして私とパパの長い一日を終えて自分のお屋敷に帰ってきた訳ですが。
「ふおぁあああっ!! キラキラ~!」
お屋敷に帰ると、待っていましたとばかりに新しいメイドさんと執事さんが私とパパを出迎えて、ドレスルームへと来てくださいと言われるがままそこへ向かって度肝を抜かれた。
メティスから私宛の煌びやかなドレスが五着もお城から届いていたとの事だった。またしても全部のドレスの裏地に七色の薔薇の刺繍が施されている。
「ぱぱぁ、めちすからどれす~きれーね!」
「……ウィズ」
パパは頭痛がするのが頭を抱えて盛大な溜息をついた。
「俺がいない間に何故王子共と仲良くなったのか、詳しく教えてもらおうか」
「いいよー!」
パパも私の友達が気になるんだね?! エランド兄様とメティスには本当にお世話になったからね! パパに伝えたいお話が沢山あるんだよ!
まずどのお話からパパにしようかなって考えつつ、今夜はエランド兄様からもらった竜ちゃんのぬいぐるみに体を埋めて眠ろうと決めたのでありました。
◇◇◇◇◇
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