ギザキの戦い 〜3〜 2
光と闇の狭間で戦うギザキと3人の姫の物語
「ああ。そういえば契約は未だでしたな。ではコレにサインを……」
先を歩む老執事が振り返り様、手に持つ古い樹紙にサインを求めた。
樹紙の契約書自体は珍しい物では無い。古代ムーマ文明の継承者を名乗る幾多の王国では儀礼的な契約……例えば王権の授受や、司祭の敬承なぞに使われる紙。幾人もの魔術師(一説には白魔導師のみ)が数夜かけて術を施し、契約が絶対というこの世界でも破棄不可能という種類の契約にのみ使われる紙。紛い物ならば、豪商達が自らの格を上げると盲信し使い捲っている。が、樹紙から感じられる法力……霊力といったほうがいいだろう……は樹紙が本物である事を告げていた。さらには……樹紙に描かれた文字は遙か昔に滅びたが故には誰一人として読めないと巷では言われている古代ムーマ文字の儀礼文様。
(古き物を。使い回しか? まぁ……いいさ)
唇の端に自らへの嘲りを浮かべながらギザキは簡単にサインした。
樹紙の法力はギザキのサインを燃立たせ、幾許もなくギザキの名をまるで樹紙が造られた当時から描かれたかのように刻みつけた。
「ほう? 貴方様は正式にはギーザ・ノキ・ワルト様と申されるのですか?」
「なにっ!」
もう一度、自ら記した樹紙を見ると……傭兵となってからの使い慣れた名前ではなく、かつての名、疾うの昔に捨てた名前が刻まれていた。
「……どうしてこのような」
少なからず狼狽するギザキを老執事は窘めた。
「気になさることはありません。この紙は真実の紙。真実のみが記されるのです。重要なのは貴方様が契約できうる、いや契約に値する御方だということだけ。それだけです」
老執事は樹紙をくるりと纏めると、先を歩き始めた。
(まぁ、……いいさ)
ギザキは何度目かの自嘲を口端に浮かべ、後をついて行った。
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この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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