ギザキの戦い 〜30〜
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
30.相違の所在
(……何?)
ギザキはノィエが何を言ったのか即座には理解できなかった。その前にノィエが飛び去った姫を『姉様』と呼んでいた事にもちょっとした驚きと違和感を感じていた。
つまり?
「城、壊れちゃったけど……大丈夫よ。『光の杖を持つ尼僧』さんが『時元修復』って法術を憶えているらしいから。魔王に壊された街とかを戻す為か、まぁ……そんな事が古文書に書いてあったから。取り敢えず、その尼僧さんを見つけてこの城を修復して貰いましょ。ギザキの継承式もその時でいいよね? それで……」
「ち、ちょっと、待て!」
ギザキに取って呪文の如く、理解不能な言葉を言うノィエ。その言葉を取り敢えず押し止めて、ギザキは確認した。
「誰が……誰と誰の婚儀が当分、出来ないんだ?」
きょとんとした顔でノィエは応える。
「私とギザキだよ」
「……誰が継承式をするんだ? 何の継承式をだ?」
「ギザキがノ・トワ城の城主となった……王位に就く事の継承式だけど?」
「……いつ、そんな事が決まったんだ?」
ノィエは呆れ……冷たい怒りの旋律が入った声で応えた。
「契約書にサインしたんでしょ? 聖宝を護り、姉様が無事に輿入れされたら、この城を継承するって。つまり、この城の王家の次女で在る私と……この城と王権を受け継ぐ私と結婚するって!」
「オマエが……この城の姫? ……だったのか?」
ギザキの脳裏に浮かぶ古き樹紙の契約書。
「……? 知らなかったの?」
「アレは……そういう契約の書だったのか?」
急に汗が止めどなく溢れ出る。そして思い出す。今までのノィエとの会話を。老執事との会話を。自分の周りで起った総ての事柄を。
「……そう言えば、老執事は? 助けなければ……」
老執事の身を案じるギザキにノィエは少し怒ったような声で応えた。
「爺は城の化身よ。知らなかったの? だから……鐘楼と共に眠りについたわ。大丈夫よ。城が修復されたら、また逢えるわよ」
「はぁ? 城の化身? だが剣を振るってたぞ? 化身が……そんな……」
「爺の剣はこの石橋の移身。橋が崩れた時に折れてしまったわよ。他に質問は?」
憮然とした態度でギザキを睨むノィエ。
ギザキは自分の問いとノィエの応えが噛み合っていないのを感じながらも、説明の追加の求めを言い出せない。
それでも思わず出た言葉は全く的を得ていなかった。
「……そういや、オマエは選礼式を済ませたのか?」
ギロリとノィエが睨む。
「三年前に済ませました! 引いたのは白のカード。それで白魔導師の修行を始めたんだけど? 言っとくけどね。これでも18歳なんだからね! 序でに言えば、この城じゃ選礼式用の水晶玉なんて物は無かったんだから! 呪占の札で代用したのよ。古文書に書いて在った方法でね!」
「は……ぁ……。そうなのか……? 古文書に? 札が? ふぅむ……」
未だ混乱しているギザキをノィエは冷たく見つめていたが、ふぅと一つ溜め息ついてから、崖下の城の残骸に手を向けて帰順の呪文を唱え始めた。もし、ギザキが負け、婚儀が破棄され、姉がこの城の主として王権を継いだのならば、自分は此処にいる必要はない。ならば自分もギザキに付いて行こうと決めて昨夜の内にまとめた自分の荷物を呼び寄せる為に。
未だ石埃が舞う崖下の城の残骸……地面……地下の街の天井をも壊し、城の歴史をも晒している残骸の中からノィエの袋鞄が呼び寄せられた。が、ノィエの手は焼け爛れ、受け止める事はできない。ノィエは飛び来る袋鞄をそのままギザキに飛ばしつけ、ギザキは慌てて袋鞄を顔面で受け止めた。
「ぶおぅ……ん? これは?」
「……私の荷物。わかる? 自分の物とか、縁とか所縁とが無ければ何も呼び寄せられないのよ。帰順の術って。そうだ。治癒の札もあるから貼ってね。心を籠めて。私の手を……私を必要だったらねっ!」
ギザキは目の前の少女に気圧される。自分が何を問い掛けたのか。その問い掛けが相手の心をどれだけ乱したかという事に、やっと気がつきながら。
(……つまり、聖宝の剣を……この柄を呼び寄せられたのも……ノィエを呼び寄せられたのも……そうか。そういう事か)
自分の拙い術が二度も立て続けに成功した理由。その理由がやっと判った。
「悪かった! これか? この呪符だな? でも、大丈夫か? 白魔導師って自分の傷は自分で癒せない……あ、そうか。この呪符は貼る人間の法力に従い効果を発するのか。という事は俺の法力だよな……大丈夫か?」
慌て、急に態度を改めるギザキをノィエは冷ややかに見つめながら心の中で微笑んでいた。その微笑みは……呪符が貼られて自分の手を癒すギザキの法力と共にギザキの心をノィエに伝えたからだろう。
(まぁ……仕方ないわよね。私が自分自身で占い、決めた相手だもの……ね)
占った夜のことを思い出す。不安な気持ちのままに決めた夜のことを……
(どんな人か心配だったけど。まぁ……悪い人じゃないし。同じ『思い』を持っている人だし)
城跡を見つめる。
文字どおりの廃墟となった城。自分が小さい頃から住み続け、その場しか知らない自分にとって……故郷そのものの城。寂しさと悲しみの中に決意を籠めた瞳で廃墟となった城を見つめた。
(大丈夫だよね、爺。私、絶対に幸せになるから。なって見せるから。魔王との戦いの時には必ず二人でここに戻ってくるから……それまで待っててね)
心の中で老執事に別れを告げて、少女は自分の人生へと歩み始めた。総てを抱きしめて。
読んで下さりありがとうございます。
この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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