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ギザキの戦い 〜25〜 1

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

25.復讐の時

 崩れ落ちて行く橋の石塊を蹴り飛ばし、ギザキは宙に舞った。手を伸ばす先にあるのは向こうに残る石橋の橋台。隧道入り口直下の岩壁。重力に伴い加速して行く自分の身体。指先では支えきれないほどの加速度を身体が帯びて行く。が……


 ぎゃぎぎぎぎぎぎ……


 指が岩壁を……橋台である岩壁を捉えた時、指に巻かれた呪符……呪紋様が描かれた細布の呪文が発動した。指先が硬く粗い岩壁に食い込み、傷痕を刻んで行く。まるで柔らかき泥塊に指を食い込ませたかのように。身体の加速度の総てを岩壁の傷痕に変えてギザキの落下が止まった。

「うぅおぉぉぉぉぉぉぉ……」

 即座に岩蜘蛛の術を使う。自分の手に、足に、四肢総ての指先に。ノィエが巻付けた呪符がギザキの術力を上げたのだろう。ギザキはまるで垂直の壁を平地の如く駆け上がって行く。

 遥か下……橋の残骸である石塊が森を襲う音……樹々を裂き、打ち倒して行く尖った低き轟音と震動の中……その地響きをも自らの力と変えたかのように。猿の如く駆け上がって行く。

 石橋は橋脚から橋脚の間はアーチとなっている。橋の端である鏡台もまたアーチとなってた。崩れながらもアーチの名残はオーバーハングと残り、駆け上がるギザキを宙へと誘う。だがギザキは崩れたアーチから宙へと飛び出る前に前方……傍から見て上空へと身を投げ、その先、崩れ壊れたアーチの破口に再び指先を突き刺す。しっかりと。まるで破口が仇かのように。

「ぐっ。ぐっ! ぐぅおっ! ぐっおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

 獣のように呻きながらギザキは破口を登り切り、頭を出した。

 刹那!

 ギザキの頭を掃うかのように横に剣が振るわれた。敵の魔兵士が振るう黒き剣。黒き地金に赤と緑と金の呪紋様の見事な象眼が施された装飾品のように豪奢な剣。だが……その呪紋様が呪力を蓄える仕掛け。赤の呪紋様は炎。緑の呪紋様は地の揺るがす呪力であろう。金は……言わずと知れた地金の黒……闇の力を具現化する為の仕掛け。受け止めては封じ込められた黒魔法術がギザキに死を齎すだろう。

(……くっ!)

 即座に頭を引き、剣を躱す。頭を引いた反動、その反動を足掛りにして身を空に跳び上げた。その機を逃さずに振るわれる敵の二の太刀。だが……

 二の太刀がギザキの身体を刻むより疾くギザキの蹴り……くるりと身を回し浴びせた足の甲が敵の首に巻きついた。そのまま敵を引き倒す。敵の二の太刀よりも疾き動きは敵の身体を背後の破口から空へと転げ跳ばす。ギザキの身体を橋の破口の上に残して。

 敵兵の断末魔の叫びが風に消えていく。ギザキは改めてゆっくりと敵達を見た。

 地に突き刺していた剣を抜き、鬼神の如き動きを見せ付けた相手に備える黒き兵団。その兵達に守られるように緩りと立つ目指す敵、仇である外交大臣。手に黒き水晶の塊を持ち、不敵に笑いながらこちらを見ている。既に隧道の虹色の耀きは消え、新たな敵の来襲は無い。敵の数は……これまでの戦場でも相手にしていた程度の数。小さき広場の周りは急峻な岩肌。此処に来た時の道は在るが、目の前の敵達が撤退するには狭すぎる。逃げても即座に追付く事も容易い。ギザキの戦闘本能は今、確実に仇を、裏切者を倒せる事を確信している。

 ギザキはゆっくりと数歩だ歩み、敵に近づく。指を鳴らし、幾度か拳を合せて。自身の状況を冷静に眺めて。

(……変だな)

 彼程に憎んだ相手。恨んだ相手。その相手を目の当りにし、今、直ぐにでも殴りかかる事も出来うる状況となっている。

(……どうして、こんなに落ちついていられるのだろう?)

 自問する。答は出ない。自分の頭は煮えている。血も沸騰している。身体中の筋肉も瞬時に反応する。しかし……感情は消え、静かに相手を睨んでいる。理性も……既に感情と共に消えている。今、ギザキの身体を支配しているのは……敵を倒すという事。その為のあらゆる障害を……つまりはオーヴェマの兵団を排除する。ただそれだけ。

(怒りと言うモノは……憎しみと言うモノは……こんなに透明なモノなのだろうか?)

 これまで自分の総てを支配していたモノ。目標となったモノ。それは……ドロドロにドス黒く、心の中の闇となっていた筈のモノ。だが……今は余りにも静かに、氷河の煌めく光の如く自分の身体を支配している。

(……ノィエ。御前の言葉が俺の中の黒きモノを……闇を祓ってくれたのか?)

 振り返らない。後ろにいる筈の少女を見ずに敵を睨む。

(そうか。御前の元に帰る事ができ得るから……それ故かも知れないな……)

 今一度、拳を合せて敵を睨んだ。倒す事を背後の仲間達に誓って。



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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