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ギザキの戦い 〜25〜 2

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

「どうした? 恐くて足が竦んでいるのか? そうだろうな。こいつらはオーヴェマの特殊兵団。聖宝を掻き集める為に編成された魔兵団だからな」

 間の抜けた問い掛けをする元外交大臣。その手に無気味な黒き水晶を握りながら。

「……最期に何か言うことは無いか?」

 ギザキは静かに尋ねた。相手の言葉を望んだのは……真意を、国を滅ぼした真意を尋ねたかったからだろう。

「最期? 最期はオマエだろう? ここに逃場は無い」

「それはこちらの台詞だ。裏切者。これだけの兵に俺がやられると思っているのか?」

 その言葉を聞くと仇敵は噴き出した。

「はっ! はっはははははは。ここは精霊唱歌が届かない距離にある。空間結合唱歌は届くようだが、攻撃唱歌や結界唱歌は届かない。姫の援護は期待できないのだぞ? それに、これだけの兵がオーヴェマの精鋭である訳がなかろう? 本隊はこれから来るのさ。これでな」

 二度三度と空に放り上げる黒水晶。よく見れば、金の象眼が呪紋様を形取っている。

「それが?」

 ギザキは相手の言っている意味が判らない。

「そうさ。こうやってな」

 仇敵はその黒水晶を隧道の入口を飾る呪紋様の欠けた場所に填め込んだ。

「ぅおっ!」

 ギザキが思わず声をあげる。

 填め込まれた水晶から黒き光が溢れ出し、呪紋様をなぞって行く。そして総ての呪紋様から黒き光が耀き出し……隧道を再び別の空間へと繋げた。

「……オレがあの時、敵に……オーヴェマに屈したのはこれを見せられた所為だよ。城にあっただろう? 旅人の門が? アレも修復すればこのように石一つでオーヴェマと繋げられる。ならば……如何なる抵抗も無意味。抗えば死が在るのみ。ならば、身を預けるしか在るまい? このように死人達に囲まれようとな」

(死人達? 何処に?)

 ギザキが疑問を問い返す前に仇敵が答を明かす

「……兜を取って見せてやれ。死人共」

 命ぜられるままに全面兜を取りその中を晒す兵士達。その顔は……生気のない蒼き顔。額と蟀谷に数枚の呪符を張り、意のままに操られる人形達。確かに……風が死臭を運んでくる。

「まぁ。総てが死人では無い。だが、呪術で意思を奪われ、ただ命ぜられるままに戦う元敵兵達。生も無く死も無い兵士達。自分の身を守る事もなく。戦地に赴くのさ。これ以上の兵士は在るまい? 自分の身の安全など考える事も無いのだからな。これが軍事大国オーヴェマの秘密だよ。死人すらも人形とするどころか兵士として使い得る法術を持つ国。強力な軍事力の源だよ」

「……哀れだな」

 ギザキは相手を哀れんだ。

「何ぃ?」

「その死人とオマエは何処が違うのだ? ただ命ぜられるままに来たのだろう? この地に。聖宝を奪う為に。貴様の生き死になぞ誰一人として気にもしてはいまい? 俺が……オマエを仇と狙い捜すこの俺が……この城に俺がいる事を知っている者達から命ぜられたのだからな。違うか?」

「ぐっ……」

 言葉に詰まるのはギザキの指摘が正しい事を物語っている。

「……ふっ。違うな。オレはこの城の聖宝を奪い届ければ、参謀として迎えられる事となっている。あぁ、そうだ。あの聖宝。城にあった聖鏡の楯とは紛い物だったらしい。御陰でこの様だ。全く……偽物ならば、さっさと渡せばよいものを。そのような物に囚われるから命を失い、負けるのだよ。あの城の者も、この城の者もな! 俺はそんなモノには囚われない。出世して見せるさ。この軍事大国のオーヴェマで! 必ずオレの力を認めさせてやる! 出世してやる! ……オマエの命と引き換えにな。……ぐっははははははは」

 相手の言葉を……醜き欲望の言葉を聞き流し、ギザキはゆっくりと構える。拳をゆるく握り、小さくその場で跳ねて。

「……無理だな。死人共の動きにやられる俺では無い。例え本隊が何人いようともな」

 ギザキの自信を仇敵は笑い飛ばした。

「無理だよ。本隊とは……魔獣だからな」

「何ぃ?」

 黒く耀く隧道。その奥に爛と耀く獣の瞳。四つの瞳。それは……ゆっくりと姿を顕した双頭の狼。隧道の大きさ一杯の身体をゆっくりと進ませてくる。その首を飾る鬣。いや、鬣に見えたのは蛇……蛇の頭が双頭の狼の首から無数に生えている。その蛇とは……

「ヴィードラ! キメラか? ケルゼとの?」

 ギザキの推測は正しかった。

「ははははははは。そうだよ。これだけの魔術力がオーヴェマには在るのさ。聖光院ワィト公国の中にも手引きをする者が現れるほどにな。どうだ? 長いモノには捲かれる事さ。生き永らえたくばな? ははははははは……」

「くっ!」

 魔獣はゆっくりと辺りを見渡している。キメラらしい狂った視線で城を見ている。口から飛び出ている牙をギザキに見せつけながら。

 もしギザキに剣が……あの時の剣、大枝打が在ってもヴィードラ自身を倒すのは至難の業だろう。魔術師達の支援は今は無く、毒の血も、炎や氷結、石化、雷の息を防ぐ手立てが何一つ無い。ましてや、今、目の当たりにしている魔獣は……動く。あの本体が動かずに蠢く触手だけを相手にするのとは訳が違う。違いすぎる。

 今は魔獣達の攻撃を躱すべく挙動を注視するだけ。それだけしかできない。

「ぐはははははははははは……言っただろう? 無理だと。兵士共、剣を地に突き立てよ。地響きがあの城を崩すまで! 聖宝は残骸の中から探させて貰うよ。ゆっくりと。総てが……終わってからな」

 死人の兵士達が再び剣を地に突き刺した。途端に始まる地響き。先程よりも大きく感じるのは発生源に近いからだろう。後ろで奏でられる聖歌が再び震動を押し止めようとするが、先の地の震動で緩んでいたのだろう。城の壁が……岩城自身がひび割れ、崩れ落ちて行く。少しづつ。その光景を嬉しそうに見やりながら仇敵はゆっくりと懐に手を入れ、何かを取り出した。

 それは黒き水晶。先程とは違い、細長く中には禍々しい針のような金属が封印されていた。

「これが何か判るか?」

 勝ち誇ったようにギザキを見下ろす仇敵。

「これには『融合』させる魔法が封印されているそうだ。『対戦相手の肉体を褒美として授けよう』と言われて授かったものだ。もし……オマエの胴体が残っていたのならば……首があったとしてもだ、オマエの首を刎ねた後にその身体を貰う。その為の道具。魔道具だよ」

「なにぃ?」

 魔獣よりも仇敵を睨みつけ、その意味を探る。

「簡単さ。この魔水晶の針でオレとオマエの身体を差し繋ぐ。そうすれば融合される。このキメラを作るための道具でもあるらしい。尤も……オマエの意志と記憶は要らない。だから首を刎ねた後に使わせて貰う。この身体も随分とガタが来ているのでね。若返りの方法の一つだよ。くっくっく……はっははっは……」

 勝ち誇るように笑う。自分の勝利を確信して……

「しかし……オマエの身体は諦めよう。寝ている間に腕が首を絞めてきそうだからな。全て魔獣に喰わせることにするよ」

 そしてギザキを見下し、手をあげて魔獣に命じた。

「さぁ、魔獣よ。死人は喰わずに生者を喰らえ! 骨をも残さずにな!」

 魔獣は仇敵の言葉を聞き取ると、その身を踊らせ襲いかかった。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 断末魔の声が響く。地響きと悲しく響く聖歌の響きを切り裂くかのように……




 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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