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ギザキの戦い 〜16〜

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

16.決闘の相手


「そして……決闘が行われた。最初……数回までの相手は自分の面子を保つだけの諸国諸侯からの闘技者だったから勝つのは容易かった。事前に相手に合わせて鍛錬も出来たからな。しかし、諸国の意地故か相手は次第に強くなり、難しくなって行った。だが、それでもなんとか勝ち続けた。負ける訳には行かなかった……それだけが俺を……敗北から救い上げてくれていた……負けたくは無かった……それだけだった……」

 ノィエは言葉を続けるギザキの声が苦渋に染まって行くのを感じていた。だが、今は聞き続けていくしかない。

 窓の外の夕日は山の端に名残を留めているだけだった。




「ギノ……大丈夫?」

 心配そうに見つめる姫にギザキは強がって応えた。

「大丈夫です。ははは。なんとか勝ちました。いてっ! 何するんですか? 隊長」

 強がって笑うギザキの頭を叩いたのはギザキの剣の師でもある親衛隊長だった。

「何が可笑しい? 相手が御前の弱点を突き損ねた故の勝利。つまりは単に相手が失敗したという事。『勝った』とは百年早いわい! それにだな、軽き技も粗末にするな! 例えるならば……そう! 帰順の術だ。磨かねばいつまでも瑣末な物しか呼び寄せられぬ。だが、そのような術でも鍛錬を積めば大岩石をも山を飛び越えて呼び寄せられると言う。つまりだ……」

 長く続く叱責の言葉。だが、剣の師である隊長の言葉には労いが隠れている。その事はギザキも姫も判っていた。

「……と、まぁ。終った事は置いといてだ。さぁ、城へ戻るぞ。次の相手への書簡が用意されている筈だ」

 既に一年近くの時が流れ、姫の選礼式まで一月も無い。次の相手が最後となる筈。すぐ先に見える未来への期待に若き二人、いや、周囲の者、全てが安堵していた。

 帰城の馬車の中で隊長はまだ今日の戦いに付いて話していた。

「……ということだ。貴様の剣筋は遠間より近間が得意なようだ。単に言えば斬り合いよりも撃ち合い、叩き合いという事だ。自分の間合いを知れば戦いは楽になる。自分の型に相手を持込めばよいのだからな。そうだ。近間での奥義が一つある。並の者では知っても役には立たんが貴様ならば熟せるかも知れん。明日にでも授けよう」

「ありがとうございます。我が剣の熟練程度で奥義を授かれるとは。身に余る光栄です」

 素直に頭を下げるギザキに隊長は戸惑った。

「あ、いや。大した事では無い。それにだ……」

「何でしょう?」

 隊長は髭を摩りながら窓の外を見て応えた。

「次世の王に頭を下げられるというのも変な話だ。しかもそれが自分の配下の若造だったのだからな。ん……まぁ、そういうことで御座います。次世の王殿」

 隊長の座りの悪さからくる可笑しな口調にギザキと姫は破顔一笑し、ギザキは改めて隊長に応えた。

「王であろうと無かろうと、隊長は剣の師ですから。今さらそんな風に改まれても困ります。これまで通りお願いします」

 ギザキの頼みに隊長は未だ座りの悪い顔で応えた。

「そうは言ってもだな。公議の場で怒鳴りつける訳にもいかんし。そろそろ敬語で呼ばせてくれい。俺はこれでも憶えが悪いんだからな」

 ギザキと姫は顔を見合わせて、もう一度、笑い出した。

「我が師の弱点がそういう事だとは初めて知りました。でも、無理はしなくていいですよ」

「いかん。いかん。それでは上下の示しという奴がだな……」

「城についたようですよ。我が夫の上司である隊長様」

「姫! 姫までそのような戯れ言を。せめて呼び捨てで頼みます。でないと本当に只の部下の婚儀と勘違いを……ん?」

 隊長が言葉を止めたのは、王の間で待っている筈の国王と王妃が城門近くで待っていたからだった。

「我が王。何故にこのような所で? 無理をされては婚儀までに風邪が治りませぬぞ」

 王と王妃は歳に勝てず、この所は病気がちであった。先日も王宮への道すがら霧に包まれて風邪を召されたばかりであった。

 王と王妃は隊長の言葉を聞き流し、馬車から降りたギザキに近づき、言葉も途切れがちに次の相手の事を告げた。

 ……絶望と共に。

「……婿殿。次の相手は……魔獣じゃ」




「魔獣っ!? ……どうしてっ!?」

 ノィエは怯えたような眼差しでギザキを見ていた。椅子を転がす勢い出立ち上がり、ギザキに近づき問い質した。

「どうして、決闘に魔獣なんかが出てくるの? おかしいじゃない? そんなの!」

 魔獣との戦い。人間が魔獣と立ち向かう。それは……この城の歴史そのもの。いや、独りで立ち向かうという点だけは違っていた。

「北の……森林に覆われた遠くのヒュエ国からの申込み。木材と毛皮だけが貿易品で大して関係が深かった国では無いのだが、物の序でにと申し込んで来たのだろうと思っていた。だが、国軍には魔獣を飼い馴らして使っているという国。一説には水の精霊に魅入られたという国。その国ならば不思議では無い。そう思っていた」

 ギザキの言葉をノィエは信じられないという顔で聞いている。

「そう驚くほどでもない。魔獣にも光と闇のどちらかの区分がある。例えば竜は神獣とされ、敬われたりしているが、元を正せば魔獣の一つ。それにその国では魔獣、小型の双頭の狼といったほうがいいかな? しかも人間によく懐く魔獣……ケルゼという魔獣を日常的に国軍の兵器の一つ、いや戦友として使っていたんだ」

「ギザキが戦ったのは……その双頭の狼だったの?」

 まだ、怯えた目でノィエはギザキを見つめている。魔獣と戦う事が、しかも互いの生存を掛けたものでは無い、婚儀の資格を得る為の戦いでという事が信じられないのだろう。

「いや、別の魔獣だ。森林の中で新たに見つかった魔獣と書簡にはあった」

「それにしても……どうして魔獣なんか? どうしてそんなモノをっ?」

 ノィエの問いは悲鳴に近かった。その悲鳴が、ノィエの心が、自分の心の傷を少しだけ癒して行くのをギザキは感じていた。ほんの少しだけ。でも……癒されている。仄かな暖かさを感じていた。

「……その時は気がつかなかった。その影に別な企みが在った事を……」



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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