ギザキの戦い 〜15〜 2
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
ならば……相手に決定権を奪われる事だけは防がねばならない。娘を、可愛い姫を不遜な輩、自分の意に反する言動を行う外交大臣の政事の駒の一つとする事だけは親として絶対に避けたかった。
「……いや。承認したとおり、取計らえ」
外交大臣は国王の言葉を自分の勝利宣言と受け取った。
「では……失礼して、早速」
勝誇ったように不敵な笑いを隠しもせずに立ち去ろうとした外交大臣を王妃が呼止めた。
「外交大臣! 手数を増やすようで申し訳ありませぬが、その布令には……いえ、布令に因り婿殿に決闘を申し込まれた相手への返信は結界書簡にて御送り致します故、相手の素性を私めに報告為されますよう御願い致します」
立ち去ろうとした外務大臣の歩みがピタリと止まり、ゆっくりと王妃を振り返って確認した。
「今、なんと? 恐れながら決闘相手如きに結界書簡が必要ですか?」
王妃は勝誇ったように相手を見下して応えた。
「当然です。勝者は……勝者を従える諸侯は、この国の次世の国王の候補となるのです。どの様な相手でも決闘の参加承認の返信は王族への書簡と同様に行わなければ為りませぬ。さもなくば、我が国王は礼儀知らずと諸国に喧伝するような物。宜しいですか?」
この国の国王からの結界書簡の結界は王妃のみが結ぶ事ができる。その方法は王妃から次世の王妃へと相伝にて受け継がれる為、識者達は関与できない。つまり結界書簡にて決闘の返信が行われるという事は全てを外交大臣の自由にはさせぬという王妃の宣言だった。
「……承知致しました」
渋々、承認する外交大臣に王妃が追い撃ちをかけた。
「そうそう。今回の結界は我が姫への術法継承を兼ねますので、これまでのように即座に行う事はできぬかもしれません。すみませんが予め承知下さいませ。そうですね……少なくとも数日……いえ。一つにつき十日、或いは一月ほどはかかるでしょう。宜しいですね?」
勝気な姫の性格は王妃から受け継いだ物だろうと、場の片隅に控えていたギザキは思った。
「くっ……承知致しました」
外交大臣は一筋縄には行かない王妃にある種の感情を抱いたが、それを押し殺して承従した。
外交大臣や識者達がその場から立ち去ると、王妃はギザキに詫びた。
「すみませぬ、婿殿。私には相手の素性を知る事と決闘の日時を少しだけ遅らせる事しか出来ませぬ。許して下さい」
深礼をする王妃にギザキは正礼をして応えた。
「いえ。王妃様。御配慮痛み入ります。このギーザ・ノキ・ワルト、王妃様の配慮に応え、少なくとも無様な試合だけは致しませぬ」
覚悟を決めているギザキを王妃は強く諌めた。
「違います! 無様でも構いませぬ。勝つのです。勝ち続ける事が婿殿の仕事、責務なのです。どんな姿になろうとも、どのような試合になろうとも構いませぬ。勝って下さい。それが私の、国王の、いえ、この国中の民衆の声に応えること。宜しいですか?」
王妃の言葉はギザキの心に、その場に居る全ての者達の心に響いた。王妃の言葉を強く感じ入り泣出す侍女も居た。
「判りました。王妃様」
「貴方はまた間違いをしましたね。ギノ」
親しく呼びかけられて、ギザキは戸惑った。
「私を呼ぶ時は「義母」と呼びなさいと申した筈です。既に……そう。幼き貴方がこの城に来た時に申上げました。そうですよね?」
王妃の言葉は事実。そして、如何なる事があろうと我が娘、姫との婚姻の相手としてギザキ以外の誰をも認めぬ事をも示していた。
その頃、城から王宮へと向かう馬車の中で識者、外交大臣は策略をめぐらせていた。
(くそっ! こうなればこの国の全てが瓦解しようとも……)
外交大臣の隣で傾眠し、数日間に渡る睡眠不足を解消している執務大臣は外交大臣の焦燥に気付きもしなかった。
読んで下さりありがとうございます。
この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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