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ギザキの戦い 〜15〜 1

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

15.識者との対峙

「……という事です。我が君。これは前例と慣行と法文に従い、粛々と執り行わなければ為りませぬ」

「つまり……何をすればよいのだ? 我が婿殿は?」

 王の疑問は尤もだった。大臣は此までに話したことは古文書の確かさと、何処にあったかと誰が書いたものか、つまり何を行うかはまだ話してはいなかった。

「つまり……平たく申せば決闘です」

 執務大臣が数日間、膨大な古文書や法文書と格闘して得た結論は……決闘だった。

 幼き頃に婚姻の約束をした場合、子息が成長する間に相手の資質(はっきりとは書いてはいないが政略結婚を前提にしている事は間違い無い。つまりここで言う資質とは相手の国の隆盛であろう)が変化する事もある。従って、婚姻の儀が執り行われるまでの間、婚約の相手はその資質が在る事を証明し続けなければならない……と古文書に在ったのを執務大臣は発見したのである。

「決闘?」

 資質を証明する。誰よりも、というよりは何処の国よりも強いということを証明する。単純に言えば国軍の中の精鋭同士を戦わせ、勝つ事で国力、つまり軍事力を証明するのである。

 軍事力こそが国力の全てと考えられていた時代の古き慣行だった。

「駄目よ! そんなの認められないわ!」

 姫は即座に否定した。だが……

「姫様。これは先の儀礼で婿殿を選ばれたのと同じ事なのです。もし、この事を否定なさるのでしたら婿殿がまだ選ばれていない、つまりは婚約が為されていないと言うのと同じ事になりますが?」

 執務大臣の横、不遜な態度を慇懃で包み込んだ言上を行うのは外交大臣。彼はじろりとギザキを見やり言葉を続けた。

「そもそも、たかが兵卒が国王となる事自体が異例なのです。異例を今後の通例とするよう努力した我々の判断を否定なさるのですか?」

 明らかに慇懃無礼な言動。王妃は眉を顰めながらも、姫の手を握り、これ以上、姫が反論するのを無言で留めた。王妃の感情は……その場に居た他の貴族、更には執事や侍女達も等しく抱いていた。

 自分への反感で重くなる空気を気にもせずに外交大臣は王に決断を求めた。

「我が王。宜しければこの先例に従い、先の婿候補となった国々は勿論、新たに婿候補をと名乗りを上げるかもしれぬ諸国諸侯に布令を出し、執務大臣が申上げたとおりに粛々と執り行いたいと思いますが? 宜しいですかな?」

 他に選択肢は無いと覚悟して王は渋々認めた。

「良い。そのとおり執り行う様、早々に計らえ」

「ははっ!」

 深々と礼をして二人の大臣は場を去ろうとした時、王が呼止めた。

「ところで、その決闘とは……先方は兎も角、こちらは誰が出るのだ?」

 一瞬、ニヤリと不敵に笑い、真摯な態度を装ってから外務大臣は振り返り応えた。

「決闘に出る者は婚約時に置いて御自身と配下であった者達の中からのみ選ばれ、出場と相成りまする。従って……」

 ゆっくりと片手を胸にあて、もう片手でギザキを指して実に悲しそうな顔を取り繕ってから外務大臣は言葉を続けた。

「悲しいかな。我が次世の国王と成らせまする姫様の婿殿には婚約時に部下が居りませぬ故、御本人だけが決闘に御出場頂く事になりまする」

「なっ……」

 国王は思わず席を立ち、外務大臣を咎めようとした。が、既に執行を承認してしまった。しかも、その法文を提出したのは執務大臣。外交大臣では無い。

「承認を覆されますか?」

 口元に無気味な笑いを浮かべて外務大臣は尋ねた。




「どうして、改めなかったの?」

 不思議な顔でノィエは尋ねた。

「……もし、国王が自由にあらゆる事、特に政事の決定を否定し続けていたら、国が成り立たなくなる。一度、国王が決定した事を自ら覆した場合、国王はその事項に関する決定権を暫くの間、失うのさ」

「暫くって、どのぐらいの間なの?」

 ノィエはまだ納得していない。

「最低1年間。最長で5年間だったかな? 年数は識者達が合議で決定し、民衆に示される。民衆がその年数を承服するかどうかは投票で決定される。承服しなかった場合は、識者の提示年数が1/3になる。だが、1年より短くなる事はない」

 淡々と応えるギザキの言葉にノィエは溜め息で応えた。

「はぁ……複雑なのね」

「重要なのは少なくとも1年間は決定権を失うという事だ。つまり……」




(……此奴、朕が婿殿を認めた事を否定する気だな)

 否定されれば王が認めた事項、姫がギザキを婿と選んだ事を改め、来年、選礼式が行う時に改めて婿選びを行うのだろう。その時はギザキも婿候補とは認めるのだろうが、再び選ばれる事はないだろう。何故ならば……王の権限が及ばぬ以上、箱に入れる水晶玉は識者会議で決定される事になる。

 国王は外交大臣の態度にふと疑念を抱いた。

(もしや……何処かの国の諸侯と密約を結んでいるのでは?)


 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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