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ギザキの戦い 〜9〜

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語


9.遠き日々

 夢を見た。浅き夢。深き夢。

 微睡みの遠くに景色が揺らぎ融け込んで行く。


 遠き日々の夢。



 咲き乱れる花の野原を無邪気に駆けていく少女。周りを気にしながら追いかけていく。

(きゃははは……捕まえてみて。だめよ……本気だしちゃあ……)

(待って下さい。姫。その先は……)

 草花の下に隠れる石。前を走る少女がその一つに足を取られて転びかける。

(きゃあっ)

(危ないッ)

 少女の下に我が身を滑らせ、その身を護った。

(ぐぉっ!)

 背に鈍い痛みが広がる。

(きゃははは……あ、大丈夫?)

(大丈夫です……ひ……め……さ……)

 景色が霞み……消えていった。



(あの……大丈夫ですか?)

(まぁ、姫様。どうしてこのような。愚息ならば大丈夫です。身体の頑丈さだけが取柄ですから)

 声に驚き、寝床から跳ね起き、扉を開ける。

(姫! どうして?)

(あっ! ギノ。どう? 大丈夫なの?)

(大丈夫です。明日は城に参上致します)

(大丈夫なのね。良かった。クッキー焼いて持って来たの。良かったら食べてね。それと……)

(姫様? いつまでもこのような所に。あ、いえ。そろそろ城に戻りませんと……)

(うん。じゃあ、ギノ。明日ね)



 野原。

 静かに歩く姫。

 その後をゆっくりついて行く。

(あ? アレなんだろ?)

(何でしょう? 壊れた石門のようですが……周りにあるのは女神像のようですが……)

(ね。行ってみよう)

 走り出す少女。

(姫様。ごゆっくり……え?)

 少女は立ち止まり、少年の手を取ってからゆっくりと歩き出した。

(大丈夫。これで、怪我しないよね?)

 屈託の無い笑顔が眩しかった。

(うわぁ。古い門だね。いつ頃の物なのかな?)

(さぁ、かなり古い物ですね)

 少女はくるりと右の門柱を一回りして少年に言った。

(ギノもそっちの柱を回って)

(え? 何故です?)

(いいから、早く!)

 言われるままに門柱を一回りして少女の前に出る。

(これからも、いつまでも……側に居てね。約束よ)

(え……あ、はい)

 少女は少年の手を握るとその場で少年の周りを一回りした。

(きゃ! 約束したからね。いつまでも、側に居てよ?)

(はい。姫様。でも……今のは何だったんです?)

(知らないの? 我らが王家に伝わる婚姻の儀式なんだって。昨日、教わったんだ)

(え? ……婚姻の? 儀式?)

 少女の他愛もない……子供の遊びだった。3つの女神像だけか見ていた遊び。それが……



 燃える城。逃げ惑う人々。押し入ってくる黒き装甲の騎士達。

 背に護るのは少女の時の面影を残す姫。

(お願い……死んで)

(え? 今、なんと……)

 振り返った時、背に鈍い痛み……



 救いようの無い……苦き心の痛み



 無言で目覚め、ゆっくりと床から起きる。扉の上の燈取りの小窓から差込んでいる強き光。

 扉を開けると廊下の窓の向う、山の端から太陽が昇り始めていた。

「……捨てた命だ」

(それで、何かが残せるならば……)

「……本望だ」

 悔いを振切るように言放つギザキ。

 そのギザキの姿をノィエは自分の部屋の窓から見つめていた。

 悲しみと寂しさを湛えた瞳で。



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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