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妹オンライン  作者: 寝たきり勇者
第一部
34/37

第二十九話 妹、夜明け前の闇の深さを知る

「なんか予想と違ってるよな……」

「何か言いました?」


 俺の独り言に反応した加奈ちゃんが顔を上げた。ここは俺と加奈ちゃんの自宅からそう離れていない最寄り駅近くにあるファミレスの禁煙席。今日も事務所に出てバイト仕事をしていた俺は、同じく雑誌モデルの仕事をして事務所に戻ってきた加奈ちゃんと待ち合わせて一緒に帰ってきたという経緯だ。


「バイト代が出るからってあまり贅沢に慣れたら駄目だと思います」という加奈ちゃんの言葉で、今夜は安くて空いていて勉強禁止になっていないのが取り柄のこの店に決まった。夕食を食べた後、加奈ちゃんは勉強、俺は映像関係の本の読書ということで、二人して夏休み終盤の夜をまったりと過ごしている。


「いや、てっきりモデルの仕事の方に来てと言われるのかと思ってたら、仕事が終わった後の勉強の方に付き合えと言われたから不思議だな……と思ってさ」

「そこはそれ。深謀遠慮というやつなんですよ」


 勉強中ということで眼鏡を掛けている加奈ちゃんが、俺に向かって指を立てて説明を始めた。眼鏡姿の加奈ちゃんは、いつもの小悪魔的な印象ではなくて、真面目そうな優等生的の雰囲気をかもし出している。


「例えば、私が事務所でモデルのバイトを熱心にしていて成績が落ちたりした場合、それに巧お兄さんが一杯関わっているってことになってるとしましょう。うちのお母さんにしてみれば、巧お兄さんが私を悪い道に引き込んだ……みたいに思うじゃないですか」

「まあ、それは間違いないところだな」


 加奈ちゃんの言葉に俺は頷く。実際問題、しっかり者の加奈ちゃんとはいえ受験の年の芸能事務所所属というのは大丈夫かな?と俺自身も思わないではない。


「そこでですね。私のことを心配して本当はモデルの活動とかにもそれ程賛成でないお兄さんは、私の仕事の方にはあんまり積極的に関わらないんです」

「そうなの?」

「そういう設定なんです」


 うんうんと頷きながら加奈ちゃんが続ける。


「そして私の成績が落ちないようにと、二人でいるときには専ら私の勉強の方ばかりを見てくれるんです。これで巧お兄さんの立場は、私のお母さん的にも、巧お兄さんのお母さん的にもばっちりです」


 かなり以前に加奈ちゃんの家を訪ねた時に見かけた、お母さんの真面目そうな感じの顔を思い浮かべる。確かにこれは加奈ちゃんの言葉どおりにしておいて貰った方が良いかもしれない。でもなあ……


「俺が加奈ちゃんにほいほい教えられることがそんなにあるとは思えないけどなあ……」

「巧お兄さんは数学とか理系の教科はとても得意じゃないですか。私が判らなかった問題の説明とかお願いしようと思って、ちゃんと今日の分の数学の問題も持ってきてありますから見てくださいね」


 そういって、過去の有名校の入試問題らしき物が幾つかコピーされている用紙を渡される。げげ、加奈ちゃんが判らないというだけあって結構どれも難しそうだな。


「この場で全部やってくださいなんて言わないから大丈夫ですよ」

「それは、お気遣いありがとう」


 加奈ちゃん、あんまりフォローになってないって。


「それにしても、巧お兄さんにはやられちゃいました」

「え、何?」


 とりあえず、勉強も一区切りなのか、眼鏡を外して加奈ちゃんが俺に話題を振ってくる。突然の話題の変更に、俺はついて行きそびれたようだ。


「この間の、優美と唯の話ですよ」

「ああ、あの時のことか」


 加奈ちゃんと俺の周辺での話題と言えば、確かに大き目の出来事ではあったな。


「これまでは優美だけだったんですけれど、今は唯まで口を開けば『里香ちゃん、里香ちゃん』ですよ。どうしてくれるんですか?」

「いや、あれで俺の事務所通いや毎日帰宅が遅くなるのも解禁になったんだから。今ここで加奈ちゃんとのんびりできてるのも、あれのおかげと言えばそうなんだってば」

「まあ、そこは私も嬉しいんですけど。毎日、田伏里香の素晴らしさを力説される身にもなってください。一度や二度ならともかく、もう十日以上この状態なんですよ」


 まあ、優美も唯ちゃんもそれほど活動的じゃないし、自分の身に起こった一大イベントだっただろうから、話題に出したくなる思いもわからなくはないよな。


「言っておきますけど、私だけじゃなくて遥先輩もぼやいてましたからね」

「栗原さんも……なの?」

「はい、優美と唯に言えない分、遥先輩と会ったときには思いっきり二人で、田伏里香がそんなに素晴らしい人間なわけがないじゃない……って話で盛り上がっちゃいました」

「そ、そうなの?」

「私達にとっては、巧お兄さんを良いように誑かしてる悪い年上の女の人って印象がありますから。優美や唯が簡単に篭絡されちゃったことで、警戒度上がりまくりです!」


 加奈ちゃんが俺に向かって力説する。考えてみれば、本屋の美少女大決戦が田伏里香との出会いの栗原さんが、映画の共演があるとは言え、それほど好感度大になるはずが無いのだった。


「げげ、それは不味そうだな」

「巧お兄さんも、次に遥先輩に会うときには、ご機嫌取りのための貢物を何か用意しておいた方が良いと思います」


 むむ、色んな所に余波が及んでいるな。


「とりあえず私の方はさっき言ったように、これから毎週この時間に巧お兄さんに会って勉強を見て貰うだけで、許してあげますから大丈夫ですよ」

「う、うん。善処する……」


 いつの間にか毎週この時間って、さっきの話より拘束時間が明らかに増えてないか?

 すました顔でドリンクを飲みながら言う加奈ちゃんは、相変わらず、おねだり上手なのだった……




 夏休み最終週の週末の土曜日。今日は『ペアで生活オンライン』内部で行われる、月に一度のイベント日だ。男性プレイヤーが『騎士見習い』で、イベント当日に軍管区司令部に集合できている男女ペアが対象者になる。イベントに参加して無事二人で生き延びられれば、男性プレイヤーが念願の騎士の位を手に入れられるという設定だ。期限に間に合うぎりぎりのタイミングでマラカンダに辿り着いた、初挑戦の俺と優美の気合いが入るのも当然という奴だろう。イベント中に寝落ちなどということの無いように、優美には昼寝までさせて万全の体勢でイベントに臨ませている。


「偵察部隊より報告があがった。魔物の大軍勢がこのマラカンダを目指して進行中である」


 オリエント風の宮殿に模した建物の中の、石の回廊に囲まれた大広間に100人を超える男女が並んでいる。勿論、今日のイベントに参加する男女ペアだ。俺の隣では緊張した面持ちの優美が神妙に話を聞いている。俺たち騎士見習いの前には、今回の旅の始まりのときに、長々と訓辞を述べていた管区司令官のブランドン東方辺境伯?だったかの初老のおじさんが煌びやかな甲冑姿に身を固めて目を閉じて直立している。今説明をしているのは、参謀格らしい中年のNPCだ。


 ハートランド王国の東側国境を越えて、魔物の進行を示す太い矢印がマラカンダを目指して描かれていて、マラカンダ手前で3つに枝別れして上下二つはマラカンダの南北を通り過ぎようとしている。半包囲みたいな感じで押し寄せてくるということなのだろう。


「ハートランド王国に大いなる危機が迫っている――」


 少しは意味のありそうな参謀の話が終わった後、どうみても意味があるはずがない辺境伯の話が始まった。王都で赴任前に聞いた話も長かったこと以外全く覚えていないのだから推して知るべしという奴だ。俺は心を無にして、今日起きるかもしれない危険や罠について考えることにする。


「――諸君の奮闘に期待する。以上だ」


 さて、どうやって戦うのが、一番安全なのだろうと考え込んでいたら、今日は案外簡単に辺境伯さまの訓辞は終わってしまったようだ。


 騎士見習いとその女性ペアは、マラカンダ城壁の東西南北のいずれかの城門に配置され戦うことになっているらしい。HMDに表示された俺と優美の守備位置はマラカンダ北門城壁だった。この配置にも運不運があるんだろうが、さてどうなることか。


「お兄ちゃん、良い景色だよ」

「優美はいつも気楽で良いな」


 少しの時間の後、マップの説明どおりに動いて辿り着いた城壁の上で優美が身を乗り出しながら感想を言う。前方に砂丘が広がっているだけのため、7~8mの高さがあるように見える城壁からの眺めはかなりのものだ。俺たちの背後に広がる街並みとの比較で、ここが人間の住む領域の境界なんだという認識が如実に感じられる。


「やっぱり駄目か……」


 優美と登ってきた城壁の階段を下りようとしたところ、HMDに衝突判定の赤枠が表示された。訓練のときと同様に移動範囲を制限されている雰囲気だ。イベントが開始されたら、この城壁で戦い抜いて生き延びることが俺と優美の最優先課題ということになるらしい。


 ゲームの時間内で夕方の6時、現実の時間で夜の10時がイベントの開始だ。東西南北の4つの管区司令部に同時に魔物の群れが襲い掛かってくることになっている。その内3つはゲーム内時間と現実の時間の双方で、夜の12時まで戦って生き延びれば無事終了だ。だが最後の1つは大当たりで、今回の魔物たち相手の主戦場ということになって別扱いされる。夜の12時を越えたところで新規の魔物を含む大量の増援が到着して、ゲーム内世界の明け方6時、現実世界でも夜2時まで戦い抜く必要がある。


 旅立ち前に、南方管区が阿鼻叫喚という話をしたが、今回のイベントでこのマラカンダ司令部が殺戮の舞台となっても全然可笑しくはないのだった。


「お兄ちゃん、何か来た」

「6時きっちりに出てくるとは、魔物たちは真面目な性格をしてるよな」


 少し前から優美にサーチの魔法で調べさせていたら、6時を過ぎた途端に反応が出てきたらしい。優美の言葉を聞いて最大限の望遠を掛けた俺は、予定のとおり弓を取り出す。自動で定められた配置が城壁というのはとりあえず幸いだった。ゲーム開始直後から自分の最大を持ち味を活かすことが出来るからだ。


「まあ、俺にしてみればネギをしょって出てきたカモみたいなもんだ」


 陽が沈みかける中、夕焼けを背景に最初に出現した魔物はパズズだった。一切のぶれを起こさないない『たっぷりかけて君』を使った弓の狙撃で芥子粒状の大きさのパズズを最大望遠で定めた順に全部撃墜していく。


「お兄ちゃんって、自分より弱い相手には言いたい放題だよね」


 優美が何か言ってるが聞こえないぞ。あまりの遠距離狙撃に「何勇み足してるんだ……」という顔をしていた隣の騎士見習いの兄ちゃんも、俺が実際に次々と魔物を墜としていくのを見て呆然としている。熟練の技の披露ということで、滅多にない俺TUEEEの場面に思わず顔がドヤ顔になってしまうな。


 機械じみた作業を数十回も繰り返した頃、地平線の向こうから砂煙とともに魔物たちの地上部隊も登場してきた。オオサソリを先頭に多数のリザードマンに囲まれてオオムカデなどが重量感たっぷりに近づいてくる。顔ぶれが不足しているのかアリジゴクも一応混ざってるが、地上を歩いてるのは少しまぬけな雰囲気だ。まあ、とりあえず地形の上下で狙いがつけ難い地上の魔物はパスして、俺は動じずパズズ狩りに専念する。


 ちなみに優美は遠距離攻撃の必殺技を持ってないし、MPもまだ温存しておこうということで様子見役だ。以前の戦いの経緯を思えば、オオムカデやらが近づいてきてから、二人でやることになるのだろう。


「俺の出番はどうやら終わったらしい」

「お兄ちゃん、早過ぎ!」


 敵の軍勢がかなり近づいてきた頃、俺の周りでも狙いがつけられるようになったのか、かなりの人間が弓を持っての戦いを始めた。俺たちより少し離れた城壁の場所では、パズズに取り付かれた所もあるようで、既に城壁上での白兵戦が開始されている。この北壁の中央階段付近では俺がかなり事前に間引いたこともあり、城壁に取り付かせるような事態にはなっていない。優美もウインドカッターでパズズが墜とせると気付いてからは、元気に近くのパズズを墜として回っている。


 だが安泰だったのもしばらくのうちだけだった。魔物の地上部隊の先遣隊であるオオサソリが遂に眼前まで到達して城門に体当たりやら、尻尾の先の針の撃ち込みなどを行ってきたのだった。オオサソリは初見だったのだが飛び道具持ちとは恐れいった。あまり、城壁の端に居てサソリの尾の矢にやられても不味い感じだ。


「優美も少し奥に下がれよ」

「うん、わかった。お兄ちゃん」


 しばらく乱戦模様だったが、ふと気付くと俺たちにほど近いところで何故かリザードマンと斬り合っている奴がいて、俺は目玉が落ちそうになった。リザードマンは俺たちの経験からもわかるように、パズズと比べてかなりタフで戦い難い相手だ。おいトカゲ、お前どっから沸いて出たんだ。俺は弓を槍に持ち替えて優美の前に立つことにする。


「リザードマンがいる。優美、俺の近くから離れるなよ」


 怖ろしいことに俺のその疑問はすぐに解消された。俺の視線の少し先で、身体の大きさを活かしてオオムカデが力一杯上半身を立ち上げた後身体を倒れ込ませてきた。なんだ?と思ううちに、先端部が城壁の突端に掛かって、その背をリザードマンが駆け上がってくる。そういうことか。


 周りを眺めると現時点ではまだ誰も欠けていないようだが、魔物が溢れ返っているこんな状態じゃ、それほど長い時間は保ちそうにない。どうすれば良いんだと考えていた俺は、ふと思いついて下に降りる階段を槍で突いてみる。もしやと思った通り、衝突判定を示す表示は今度は現れることは無かった。俺は優美に近寄ると小声で囁く。


「優美、城壁を降りるぞ!」

「ええっ、お兄ちゃん。それって出来るの」


 考えてみれば今日の戦いに俺たちを導く上官はいないし、俺たちは魔物と戦えと言われただけで、城壁の死守を厳命されているわけでもない。襲撃の終了時間まで生き延びることこそが重要なのだった。敵が城壁に上がってきたことで戦闘開始時と比較して移動可能範囲が広がったということは、自分の判断で下がって良いということなのだろう。また、いつものゲーム内の罠だな、これは。


 城壁の上で戦ってるプレイヤーに知り合いはいないということで、割り切った俺は、優美と二人静かに撤退を開始した。現状では少数の敵が城壁を越えて街の内部への侵入を果たしている程度の状態のようだ。優美のサーチの魔法で敵を探して殲滅しながら、俺たちは街の中心部の宮殿風の建物に置かれた司令部に向かってゆっくりと後退していったのだった。


 イベントが開始されて一時間半弱。ゲーム内の時間で4時間が過ぎた頃、東壁の城門が破られて街の内部に魔物がなだれ込んで来た。俺と優美は、街の中心部を囲むある程度の幅を持つ堀の内側に入って、NPCの連中に混じって外から来る敵を迎撃する。そう、街の中心に近づいてくるとNPCの兵士がいるので、驚いたことに魔物を倒す負担を分け合って守って貰いながらの戦いが出来たのだった。城壁で戦っているペアが前後を挟撃されて数多くの敵に囲まれながら孤軍奮闘してるのとはえらい違いだ。実力が抜きん出ているペアの場合はずっと城壁にいてもなんとか生き延びれるだろうが、俺と優美程度の実力しか持たないペアは、恐らくゲーム終了まで持たないだろう。


 優美も城壁に残った連中の運命がわかったのか、静かに一定の間隔を置いて光の槍を黙々と眼前のリザードマンの集団に向けて撃ち続けている。優美の中に戦場の兵士の心得が生まれたかどうかは定かではない。


「優美、そろそろ時間じゃないか?」

「うん、あと2~3分のはずだよ」


 更に戦うことしばし。ここが当たりで無ければイベント終了の時間が近いはずだ。優美の言葉を受けて、俺が管区司令部の方を見やると、ちょうど宮殿風の建物全体が白く輝き光の粒を立ち上らせ始めた所だった。見ているうちに立ち上った光の粒は回転しながら、上空で巨大な魔方陣の形状を取り始める。


 周囲に群がっていたリザードマンの集団を排除して一息ついた俺たちが見守る中、魔方陣は空で輝きを増していく。遂には目もくらむほどの明るさになったかと思うと、次の瞬間、視界に入る総ての魔物に対して魔方陣の外縁から雷光が断続的に降り注いだ。棒立ちになり絶叫を上げる魔物たちが、サイズの小さなものから次々と足元より消滅していき、魔方陣の輝きが途絶えたときには、荒廃したマラカンダの街並みの中にもう魔物の姿は確認できなくなっていた。


 管区司令部直属の魔術師部隊が長時間掛けて練り上げた広域殲滅魔法の行使だった。

 魔物が消滅したことで周囲一面には突然の静寂が訪れている。


 『魔物の襲撃は撃退されました。防衛司令部へ帰還してください』


 間を置かずにHMDに文字が浮かび上がる。


「お兄ちゃん、司令部に帰って来いだって」

「ああ、俺の方にも出てる」


 今日の戦いはこれで終了らしい。優美と俺の願いが通じたのか、今回のイベント時の魔物の大攻勢はマラカンダが主攻ではなかったようだ。俺は今回の賭けに勝ったことをようやく確信できたのだった。


「本日の諸君の奮戦により、ここ東部最大の都市マラカンダを甚大な被害を出しながらも守りきることが出来たのは、我々総てと王国にとり大きな意味を持つものである」


 つい2時間半前に訓辞を聞いたばかりの辺境伯の言葉だが、俺と優美にとっても、中々に重みのある言葉に聞こえてくる。それもそのはず、この東方司令部は当たりの場所ではなかったにも関わらず、先ほど整列していた男女ペアが結構な頻度で欠けていたからである。5人に1人とまではいかないが、10人に1人よりは明らかに大きな割合いで姿が見えなくなっている。ペアのどちらかの絶命によりホームに死に戻りしてしまったということなのだろう。


「隣にいたペアの人たち居なくなっちゃったね」

「ああ、そうだな」


 優美は俺たちの右隣りにいたペアが欠けてしまったことが、先程からかなり気になっているようだ。


「だが、戦いは終わったわけではない。現に今この瞬間にも、君たちと同じ立場の若者たちが遠く西方の地で戦い続けている」


 辺境伯の言葉と共に俺たちの眼前に大きなスクリーンが浮かび上がる。LIVEの文字と共に表示されているのは、前に優美とミッドタウンに行ったときに、完成が大きく宣伝されていた西方管区司令部のあるリール要塞だった。魔物にたかられまくって、どうみても既に半壊状態だ。画面の中を良く良く見るとゴッサムが魔物相手に無双している。


 完成が宣伝されたということは、イベントの実装が用意できたということだ。あの街頭宣伝を見たときに多分次はここなのではないかと思った俺の予想は大当たりだった。西方に赴任してしまった連中は是非頑張って生き残って貰いたいものだ。


「今回の戦況の報告のため、要塞内の転移魔方陣を起動して私は王都へと帰還する。王都から派遣されていた騎士見習いとペアの者は私に続き、地下の転移魔方陣の場所に移動するように」


 辺境伯と参謀たちに続き、俺と優美を含む今回のイベントを生き残ったペアたちが地下の魔方陣に集合する。次に会うのは、騎士の叙任式ということになるのだろう。疲労を見せながらも生き残った安堵感からなのか、皆、表情は明るい感じだ。


「優美、帰ったら騎士叙任式だぞ」

「そうだね。ここまで長かったけど、とうとうやったね。お兄ちゃん!」


 気を取り直した雰囲気の優美の声を聞きながら、ようやくゲーム内で一つの区切りをつけれる所まで辿り着いたことを、俺は実感したのだった。

次が第一部の最終話で、その後の閑話を投稿すれば一区切りの予定です。

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