生まれ変わる
「な・・・ない。俺の番号がどこにもない。 大学全落ちした・・・」
自分の受験番号が掲示板のどこにも記載されていなかった。その瞬間彼の長年の勘違いが解けた。
自分は天才だ。結果が出ないのは努力していないから。少し本気を出せば何でもできると、信じて疑わなかった彼の自信は木っ端みじんになった。
彼は決して怠け者ではなかった。ただ要領が悪い人間であった。他の人より努力しても結果は他の人と変わらず、努力しなかったら容易に置き去りにされる人間であった。彼は自分のそんな性質に全く気付かずに自分の努力をないものとして扱い生きてきた。心のどっかでは思っていたのだろう。結果が出ないのは頑張っていないからではなく、ただ 基が劣っているからだと。それに気づきたくない思いで自分が天才という勘違いにあやかっていた。
その後彼は平凡な人生を歩んだ。一浪して大学に入り、一般企業に就職し、普通に働き、普通に生活していた。しかし彼はとにかく自分に自信がなかった。自分は魅力がない人間だ。自分は個性がない人間だ。自分は人に好かれない人間だ。 高校の時に持ち合わせていた彼のコミュニケーション能力は消え去っていた。
そして70代に入ったころから彼は入院生活を繰り返していた。
「(はぁ・・・、何も面白みがない人生だった。 恋人もろくにできずただ働いて、働いて、体を壊し、今 死のうとしてる。 勘違いしていた高校生の頃が一番楽しかった。将来の不安を抱えずにただ大きな声でしゃべって、自分は面白い、自分は頭がいいと自信に満ち溢れていた時が。 もし 来世があるならたくさんは望まないから どうか 今の自分とは別人に 生まれ変わりたい)」
彼は開けていた瞼を閉じ、来世への期待と、自分という人間の嫌悪を持ったまま眠りについた。
「う、ま、まぶしい」 彼が目を開け、始めて目にしたものは
青空を飛ぶ巨大なトカゲだった。
その巨体は青々とした森を陰で覆い、木々の葉を散らしながら吸い込まれそうなほどにきれいな空を飛んでいた。
その瞬間彼は理解した
「もしかして、これが自分の来世か・・・」
彼は不安げな表情でそうつぶやいた。




