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双鏡の君へ 2 ー輪廻編ー  作者: ゆら。


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輪廻編・序章(現代)


――世界が“彼女”を、最初から彼女として知っている日常――


休日の昼下がり。


人通りの多い駅前を、琴葉と敦は並んで歩いていた。


風に揺れるのは、琴葉の肩にかかるほどの髪。


落ち着いた色の服に包まれたその姿は、もうこの世界の中で何ひとつ違和感を持たれていない。


けれど胸の奥では、

かつて男型だった自分の感覚がある。


走ってきた日々。


選び続けてきた道。


すべてが形を変えて、ここにある。


「――あ」


聞き覚えのある声に、琴葉は足を止めた。


A「琴葉じゃん」


B「敦もいる。久しぶりだな」


琴葉「……久しぶり」


敦「久しぶり」


同級生の二人。


制服姿ではないのに、顔を見るだけで“あの頃”の距離が自然に戻る。


B「相変わらず一緒なんだな、お前ら」


敦「まぁな」


Aは二人を見て、少しだけ笑う。


A「でもさ、在学中は“内緒っぽい距離”だったよな」


B「見え見えだったけど」


Aの声が、少しだけ柔らかくなる。


A「今こうして普通に並んでるの見ると、なんか安心する」


B「だよな」


敦「なんで知ってんの!?」


A「そりゃ知るだろ」


B「毎日一緒に飯食ってたし」


琴葉は、小さく笑った。


琴葉「……ありがとう」


A「ん?」


琴葉「何も聞かずに、普通でいてくれて」


一瞬だけ、二人は顔を見合わせて肩をすくめる。


A「普通だろ」


B「友達じゃん」


その一言で、胸の奥が少しだけあたたかくなる。


男型だった自分の時間も、

思い出も、選択も――

形を変えて、ちゃんとここに残っている。


B「じゃ、俺らこのあと用事あるから」


A「またな、二人とも」


敦「……ああ」


琴葉「またな」


軽い調子。


懐かしい距離。


この世界は、思っていたよりずっと優しかった。


【琴葉が“最初から女だった”世界】


それを、琴葉は少しずつ受け入れられる気がしていた。


歩き出してから、敦が隣を見る。


敦「……大丈夫か?」


琴葉は少し考えてから、正直に言う。


琴葉「平気……とは、まあ言えねぇけど」


敦「……」


琴葉「でも……ほら。敦いるし」


腕を絡めて、微笑む。


敦「無理するなよ」


琴葉「してない」


敦「……したいこと、したくないことがあったら言え」


琴葉「……うん」


少し間があってから、琴葉が小さな声で続ける。


琴葉「……したくないこと」


敦「なに?」


琴葉「……ピンクの服は、着れないかも」


敦は一瞬だけ驚いて、それからすぐに笑う。


敦「……構わねぇよ」


琴葉「……え?」


敦「今の服、似合ってる」


琴葉は少し息を吐いた。


琴葉「……あと」


一拍。


琴葉「……ヒール高い靴は、歩ける気しない」


敦「じゃあ履かなくていいだろ」


琴葉「……いいのか?」


敦「誰が困るんだよ」


琴葉「……敦」


敦「俺は困らねぇ」


ほんの少しだけ、空気が緩む。


琴葉「……したいことも、ある」


敦「なに?」


少しだけ間。


琴葉「……自分で選んだもんだけ、ちゃんと持ちたい」


ほんの少しだけ、目線を上げる。


琴葉「……おそろいのネックレス、付けたい」


敦の目が、少しだけ大きくなる。


敦「……」


琴葉「……ダメ、か?」


ほんの一瞬だけ、言葉が詰まる。


敦「……いいじゃん」


短く、でもはっきり。


敦「よし……行くか」


琴葉「……え?」


敦「今から。買いに」


ぶっきらぼうに言って、少しだけ視線を逸らす。


一歩、先に出る。


そのまま歩き出す――


……かと思った瞬間。


敦が振り返る。


一瞬だけ、迷うような間。


それから。


敦「……ほら」


差し出される手。


琴葉「……」


ほんの少しだけ目を見開いて。


琴葉「……うん」


その手を取る。


軽く、指が触れて。


そのまま、自然に繋がる。


少しだけ速足になる。


人混みを抜けるように。


引っ張るでもなく、


置いていくでもなく、


ただ並んだまま。




玄関。


今日は、両家で軽い食事の約束をしていた日だった。


扉を開けると、すぐに声が返る。


敦母「おかえりなさい」


琴葉母「あら……」


自然に揃った視線が、首元に落ちる。


敦母「……おそろい、ね」


琴葉は、小さく頷いた。


それ以上、誰も何も言わなかった。


琴葉は首元に触れる。


選んだこと。


並んで帰ったこと。


ここにいること。


すべてが、静かにつながっている。


隣を見ると、

敦は何も言わず、いつもの距離で立っていた。


それで、十分だった。


――二人の首元のネックレスは、

これからも選び続ける約束の形として、静かに揺れていた。


けれど。


その思いが、

何度も何度も繰り返されてきたものだということを――


二人は、まだ知らない。



ーーーそれでも、探し続けた二人の記録ーーー

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