追走劇を終えて。①
マーニ・コルネリウス邸宅。
ハティとマーニの両名は脱兎の如く逃げ出した。
壊れた門扉越しに小さくなっていくその背中を、狼を模したヘルムを被った騎士──オーディールは憎々しげに見つめていた。
お嬢さんを連れたまま、追うわけにもいかない。
それになにより、自分は足を痛めている。
銀狼の騎士──ハティに蹴りつけられた足がひどく痛んだ
この場で二人を追うのを諦めざるを得なかった。
そこまではいい。
だが、問題なのはその前だった。
あろうことか。
同行者である公爵家ご令嬢リリィ・ミミングウェイが、容疑者二人を庇い立てしたのだった。
オーディールは激怒していた。
「山ほどあいつらに殺されてきてるんだぞ。このまま取り逃したらどうしてくれるつもりだ!」
気づけば原因となったミミングウェイを屋敷の壁に追いやり、詰め寄っていた。
胸ぐらを掴み上げ、壁に押しつける。
それに対して、ミミングウェイは静かに応えた。
「先程も、言った通りです。彼らだって被害者でしょう」
それは、静かでいながら意思のこもった声音で。
オーディールがその胸ぐらを掴む力が緩んだ。
そして、胸ぐらを掴んでいた手を離し、力なく垂らす。
オーディールもその事実は分かっているのだ。
あの二人は、そうするしか他に術はなかった。
革命派と公爵共から板挟みにされ、自ら革命派の貴族を狩って回ったあの二人。
きっと国の全てが敵に回ってしまった心地だったのだろう。
オーディールでも、その苦難は推しはかることはできる。
それでも。
見逃すわけにはいかないのだ。
オーディールは、今は亡き王の【王国騎士団】であるが故に。
幾分トーンが落ち着いた声音で、諭すように問いかける。
「お前のその優しさが、以降の被害者を産むとしても、か」
「それは……」
ミミングウェイは、言い淀んだ。
優しさのために意見するお嬢さんは、今度は優しさのために言葉を濁らせた。
「ごめんなさい。考えが足りませんでした」
そして、自らの非を認め、その高貴な出のはずの頭を素直に下げた。
だが、オーディールも謝られたいわけではない。
お嬢さんが言っていることは、間違っているわけではない。
だが、武術以外全て門外漢なこの男に綺麗にまとめられるだけの器用さなんてものはなかった。
「──いい。協力者であるお前を託された俺が弱かったのが悪い」
その言葉にミミングウェイは顔を上げる。
不器用な男は、それに気づかずなおも長い口上を続けた。
「お前のような無辜の民草を守るのが我々【王国騎士団】だ。確かに、甚だ迷惑ではあるが──、お前の想いが間違っているわけではない。兵士ではない人間としては、お前は正しい。お前の善良さを守れずして何が騎士団だ。だから、反省はするな。そのままでいろ」
言いたいことを一方的に捲し立て、そこでやっと気づく。
いま自分は責められていたはずだったのでは?
ミミングウェイのキョトンとしている姿が、不器用な男の目に入った。
なんとも言えない空気が二人の間に流れ、気まずさから「コホン」とオーディールは咳払いをする。
なぜ、自分はこんなにもこのお嬢さんを庇い立てたのだ。
武術以外全て門外漢の男が故に、オーディールには自分の抱いている感情に説明がつけられなかった。
モヤモヤする。
と、ともかく、言いたいことは全て言ったのだ。
誤魔化すように、オーディールは頭を振りながら口を開いた。
「スケラ大公の下に、報告に一度戻ろう」
「は、はい!」
呆気に取られていたミミングウェイも異論はなかった。




