銀狼の騎士ハティ
窓から部屋に差し込む月明かりの中心で銀狼の騎士が佇んでいる。
この屋敷には絵画や数多くの豪奢な調度品なりがあれど、そのどれにも彼は劣っていない。
絹のような煌めく銀の長い髪が月明かりを纏っていた。
きっと彼は月の妖精かなにかだ。
銀狼の騎士は傅いて手の甲にキスを落としてくる。
僕は悩ましくため息を漏らしてしまった。
彼──ハティ・フルールは、僕ことマーニ・コルネリウスにはもったいないほどの従者だった。
僕も一応ブロンドの髪が月明かりに輝いてはいる。
けれど、ハティと比べるまでもない。
それに加えて病弱で痩躯で、騎士のハティに勝るところなんて一つもない。
それに、だ。
「……もう僕は貴族じゃないんだから、君は自由になっていいんだよ」
僕は元貴族だった。
そう、僕はもう貴族ではないのだ。
自主的にコルネリウスの公爵の位を返還した。
そして、それが受理されたと大公からの通達をもらったばかり。
領地もこの国コーレリア大公国に帰属し、この屋敷を出て行くのだ。
ハティまで僕についてくる必要はないはずだった。
「いえ、私はマーニ様の従者ですので」
「でも、君ならきっといい雇い主がすぐ見つかるよ。カッコいいし強いし優しいし」
領地を失った僕を見捨てないでくれるような忠臣であるハティならば、きっとどこへ行ったって上手くやっていける。
「お褒めの言葉光栄に存じます。ですが私目は優しくはありませんよ」
「?」
僕は首を傾げてしまう。
優しくないことはないんじゃないだろうか。
主人を見捨てない騎士は、優しいと言っていいだろう。
けれど、キョトンとした僕の顔を見てハティはクスクスと口元に手を当てて笑う。
「優しくするのは貴方様にだけですから」
そして、傅いたまま僕にニッコリと微笑むのだった。
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生まれた時から僕の言いなりになるように育てられた君が怖かった。
僕はきっと君に甘えてしまうから。
僕が頼めばきっと君は恋人みたいに振る舞ってくれると思う。
愛してくれると思う。
でも、だからこそ君の本心がずっとわからなかった。
君の本心がどこにあるのか、ずっと嫌な思いをさせてしまっていたんじゃないのか。
そして、君のことを手籠にしたいと思う自分の本心も何もかもが怖かった。
だから、爵位を返還しながらもこれはチャンスだって思った。
ちゃんと君と対等になりたかった。




