28
家に戻ってきた翌日。
いつも通り外に出て、朝日を浴びながら深呼吸をした。
「はっ……はっ……はっ!」
エミルが訓練をしている。
朝から真面目だ。
俺もレベル9999になる前までは、彼女みたいに修行をしていた。
あの頃は徐々に強くなっていく実感があって楽しかった。
今は修行をしようが強くなることはない。
ちょっとだけ悲しくなる。
「おはようライズ!!」
エミルが俺に気付き、キラキラな笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。
何やらめちゃくちゃ機嫌が良さそうである。
「お、おはよう。どうした? 良いことあったか?」
「うん! みて分からない?」
エミルがドヤ顔でそう言ってきた。
見た目で何か変わったのか……?
正直ぱっと見違いは見えない。
もしかすると……
「ちょっと胸が大きくなった……?」
「ち、違うわよ!!」
エミルは怒って雷撃を飛ばしてきた。
違うのか……微妙に大きくなったと思ったんだが。
「本当に大きくなったとしても、良いことじゃないわよ! 動きにくいから、ちょっと小さくなってほしいくらいだわ」
全国の貧乳さんを敵に回すようなことをエミルはいった。
「じゃあ何が変わったんだ?」
「分からないの? どう見ても、私の魔力が増えてるでしょ! それに体も軽くなってるわ! 明らかに強くなってる! ライズの釣りを見ていた成果が出てきたようね!」
強くなった……のか?
何度もいうが、俺は他人の強さを測るのがめちゃくちゃ苦手である。
正直、見たままでは分からないが……
まあ、本人が明らかに強くなっているというのなら、そうなのだろう。
しかし、釣りを見ただけで強くなれるはずがない。
毎日訓練をしてはいるが、それだけで明らかに強くはなれないだろう。
それに魔力も増えたと言った。
もしや……この前食べたあの巨大鮫の肉の効果か?
強い魔物や生物の肉を食べると、稀に魔力が強化されることがある。
そのおかげかもしれない。
「お兄ちゃん! おはよう〜」
シーラも起きてきた。
いつもよりご機嫌な様子だ。
「シーラ今、めっちゃ気分がいいんだ! 今なら前に作れなかった凄い物も作れそう〜ねーねー作っていい??」
「や、やめろ!!」
何かヤバい物を作りそうな気配を感じたので、慌てて止める。
「えー」
「俺は可愛いぬいぐるみとかが見たいな」
「わ、私も」
俺とエミルで必死に止めた。シーラは言われた通り、ぬいぐるみを一体作って、満足げな表情をしていた。
しかし、シーラも今までにない物を作れるようになったようだ。
つまりそれだけ魔力が強化されたっぽいな。
やはりあの肉は、食べたものを大幅に強化できるほどの効果があったのだろう。
あの巨大鮫はBランクの魔物くらいの強さと思っていたが、もしかしたらもっと強かったのか……?
巨大鮫を俺が倒したのかと、怪しげな風貌のおっさんに聞かれて、正直に話してしまったが大丈夫だったのだろうか?
……まあ、大丈夫か。
あのおっさん一人に知られたからと言って、いきなり俺が強いという噂が広がることもないだろう。
考えすぎる必要ないか。
「さて、飯にするか」
「きょ、今日の朝ごはんはなに!?」
「やったーご飯だ〜。お兄ちゃんの美味しいから好き!!」
飯にすると言ったら、エミルとシールが食いついてきた。すっかり餌付けしてしまったな。
料理が美味しいと言われるのは悪い気はしない。
俺は保存している食材を見て、何を作るか決める。
ちょっと前に野生の猪を狩って、捌いたのを思い出した。
肉を甘辛のタレに漬け込んでいたのだ。
保存庫から猪の肉を取り出した。いい具合にタレが肉に染み込んでいた。
これは是非とも米と一緒に食べたいな。
この世界にも米は存在する。
俺の住んでいる地域でも食べられていた。ただ、パンの方がよく食べられているので、米は結構高価だ。金はあるので問題はないけど。
最初に米を炊く。
炊きながら猪肉を焼いていく。
猪の肉は豚肉に近い。この世界の猪は臭みも少なく、旨味が多くて非常に食べやすい。
焼いているといい匂いが漂ってきた。
後ろから視線を感じる。
「……おいしそ〜」
エミルがじっと猪肉を見つめながらそう呟いていた。ちょっと涎を垂らしている。めっちゃ美人なのにちょっと台無しである。
しっかりと焼いた。
米が炊き上がるまで、焼き上がった肉は魔法で保温する。ちょうどいい温度を保つようにする。
「ま、まだ!?」
待ちきれないのかエミルが叫んだ。
「もうちょっとだ」
そう返事をする。シーラは行儀良く待っているのに、どんだけお腹が空いているんだ。
しばらくして米が炊き上がった。
三つのお椀を用意し、米をよそう。
その上に、保温しておいた猪肉を乗せた。
猪丼の完成である。
テーブルに運ぶ。
「いただきます!!」
置かれるや否やエミルがガツガツと猪丼を食べ始めた。
「お、美味しい!!」
物凄く美味しそうに食べる。
タレの味付けが濃くないかちょっと心配だったが、問題ないようだ。
エミルの豪快な食べっぷりを見ていると、余計お腹が空いてきた。
俺も食べるか。
猪肉と米を一緒に食べる。
うん、美味しい。
甘辛のタレがかかった肉に、米がよく合う。
「おいしい〜」
シーラにも好評のようだ。
腹も減っていたので、どんどん食べてすぐに完食した。
大満足の朝ごはんだった。
「おかわり!」
「もうない」
もっと食べたかったようだが、猪肉はもうない。エミルはがっくりと肩を落とした。
食事を終えた後、いつも通り釣りをして、1日を終えた。