第83話 初詣(第1部完)
俺たちは、近くの神社まで来てみた。すでに、初詣客たちがごった返している。
「すごい人だな、相変わらず」
「ここは意外と、近所では一番大きな神社ですからね」
俺たちは、人の波に乗って、神社の長蛇の列に並んでいた。油断するとすぐに引き離されてしまうかもしれない。新年早々、離ればなれはさすがに不吉すぎるからな。
ちらちらとしずかの様子を見ていると、彼女はわかっているとばかりに笑う。
「大丈夫ですよ、センパイの袖はしっかりつかんでいますからね」
いつの間にかしずかは、俺の服の袖を力強くつかんでいた。
「歩きづらくないか?」
「大丈夫です、センパイと一緒だから」
「寒くないか?」
「大丈夫です、あなたと一緒だから」
こんな感じで、しずかは幸せそうに、俺をからかってきた。
長蛇の列で1時間は待っただろうか。ずっと他愛もない話をしていたせいで、普通なら永遠に感じるはずの暇な時間が一瞬で過ぎ去ってしまった。
「センパイ、すごいですね。復帰早々、あのファンアート、バズっちゃった。すごい勢いで、いいねがついてましたよ?」
「ああ、まぁ、復帰明けの祝儀みたいなものもあるからな。次で、どれだけファンの人に喜んでもらえるかが大事だと思う」
「ふ~ん、もう完全にクリエイターモードじゃないですかぁ」
「しずかのおかげだよ、本当に……お前が教えてくれたおかげで……」
「いいですよ、そんな湿っぽくならなくて! 今日はとりあえず、仕事を忘れて楽しみましょうね」
※
そして、俺たちの番となった。
しずかは、作法通りに、お参りする。誰もがはっとするような神々しさをまとっていた。俺は思わず見とれて、お参りする動作が遅くなる。
でも、しずかの姿をずっと見ていたいと思う。
彼女は目を開いて、こちらを不思議そうに見つめる。「なにかありました?」と表情が語っていた。見とれていたなんて、恥ずかしくて言えないから、俺は慌ててお願いごとをする。
「推しと、俺にとって、今年も素晴らしい一年になりますように」と。
そして、お参りを終えて、俺たちは名残惜しそうに、階段を下った。
「ねぇ、センパイ? 少しだけ、寄り道しませんか?」というしずかの指は、甘酒の屋台を指さしていた。
人の流れから離れた場所にあったベンチに座り、少しだけ休憩する。
そして、ちょっとだけ背伸びして、お正月の乾杯をした。
「温かくて生き返りますね」
「ああ、最高だな」
俺たちは、ちょっとだけ非日常を楽しんでいた。普通なら補導されてしまうから、こんな深夜の散歩なんてできないからな。
「センパイは、何をお願いしたんですか?」
「今年も素晴らしい推し活ができますようにかな」
ちょっとだけ恥ずかしいから、ごまかした。
「ふ~ん、推し活の後ろにかっこがついて、意味深っていうコメントが見えますね」
「やめろ」
「そんなに私が好きなんだぁ、かわいいなぁ」
ここぞとばかりに、攻めてくる後輩に苦笑いしながら、俺は反撃する。
「じゃあ、しずかは?」
ちょっとからかってやろうと思っての質問だったが……
「来年も、センパイと一緒に初詣に来れますようにってお願いしました」
カウンターを食らって赤面する俺と、思った以上に恥ずかしかったので照れるしずか。お互いにダメージを食らう結果となった。
「じゃあ、そろそろ帰るか、甘酒も飲み終わったし」
「はい、でもその前に……」
しずかは、急に俺に顔を近づけて、唇を奪ってきた。
「ふふっ、新年初キスですよ?」
だが、今回ばかりは守りに入らないようにと心に決めていた俺は、反撃に出る。
今度は、自分からしずかのくちびるを奪った。
「じゃあ、これが2回目だ」
お互いに、結構無理をしたから、さらに恥ずかしくなる。
「大好き」
しずかは、短く俺にそう返すのだった……
※
俺たちは、恥ずかしさからか、口数少なく帰路についた。でも、終始、俺たちは幸せそうな顔をしていただろう。
帰宅後、俺はすぐにパソコンを起動した。
復帰2作目に何を書くかは決めた。
みすずの初詣イラストだ。
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(作者)
いつも読んでいただきありがとうございます!
キリがいいところまで書くことができたので、ここまでで第一部完とさせていただきます。
一度、完結扱いとして、不定期でイチャイチャorASMRを投稿していく予定なので、引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。




