第80話 復帰後
俺は、なんとかイラストを仕上げて、布団に潜り込んだ。
しずかが、来てくれなかったら、やばかったな。そう思うほど、体は疲れきっていた。この状態で食事を用意できるわけもなく、さらに食事なく眠りについていたら、次の日の朝には酷い状態になっていたと思う。
こういうことが多いから、集中しちゃうとダメなんだ。
最低限度の文化的な生活なんて、一瞬で崩壊しちゃうからな。公民の授業で習った言葉を使えるくらいには、回復してきたからよしとしよう。
久しぶりに開いた創作用SNSは、とても懐かしい気持ちになった。
数年眠らせているのに、ファンの人たちは過去のつぶやきにリプしてくれていたり、引用してくれていたりしていた。
俺は、しずかだけじゃなくて、こういう人たちに支えられてきてたんだな。
余裕がなくて、気づけなかっただけで……
サイレントマジョリティー。
声なき多数派。インターネット世界は、悪意ある少数派が目立ちやすいけど、善意に満ちた人だってたくさんいる。
しずかは、たまたま近くにいてくれたのが大きいけど……
ここにいる人たちも、みんな今でも俺を支えてくれている。
それがわかったからこそ、もう俺は過去を振り返らない。
投稿するときは、とても怖かった。でも、俺にはこんなに支えてくれる人がいるんだから大丈夫。下手になったと叩かれても、またはい上がっていけばいい。
勇気をもって、投稿ボタンを押す。
――――
皆さん、お久しぶりです。
クリスタル・クリエイトのクリスマスライブを見て、また創作の世界に戻りたくなってしまいました。
推しのみすずんのファンアートを投稿します。久しぶりで、下手になっているかもしれませんが
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自分で言うのもあれだが、ガチガチな文章だ。でも、やり直すには、ふさわしいとも思った。
そして、次の瞬間には、いいねや感想、リツイートが止まらない勢いで押し寄せてきていた。
―――――
「( ;∀;)」
「復活に歓喜」
「おかえりなさい」
「よく、戻ってきてきれたよ」
――――――
「みんな、ありがとう……」
俺は布団の中で、声を必死に抑えた……
そうしなければ、隣の家まで聞こえてしまうと思ったからだ。




