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第72話 届く気持ち

 みすずの出番は、ラストだった。

 一番の後輩が、個人パートのラストを飾る。ずいぶん、異例なことだ。

 

 佐藤社長は、みすずのことをゲームチェンジャーと称していたが、それが嘘ではなかったのがよくわかった。


 俺は画面から彼女の舞台を見つめることだけしかできないが、やはり推しの才能の深さに圧倒された。


 感情がこもった舞台演出。

 歌詞の意味を深く解釈し、まるでみすずのために書かれた歌詞なのではないかと錯覚してしまうほどだ。


 今まで、応援していたファンには、間違いなく届いている。

 そして、他の先輩たちのファンすらも魅了していく。


コメント:すげぇ

コメント:キレキレだ

コメント:不思議と笑顔になっちゃうな

コメント:みすずちゃんって、こんなにすごかったんだ……

コメント:かわいい

コメント:つい、サイリウムを振るのを忘れちまうよ


 彼女を見るために、この放送に来ていなかった人たちすらも魅了していく。みすずには、不思議な魅力がある。さっきまで、無関係だった人たちを、当事者にさせてしまう不思議なものを持ち合わせていた。


 そして、それは最強の才能でもある。


 このインターネットという大海では……


 みすずが、歌の終わりにみんなに向かって指をさすような動作をしていた。

 それはまるで、俺に向かって「届きましたか、私の気持ち?」と呼び掛けているように思えた。


 クリエイターが、他の人の創作物に感動するのは、一種の敗北でもある。

 自分が、今の段階では、その作者に勝てないことを認めたことになるからだ。


 そして、俺は創作者という意味で、完全に敗北した。

 いや、ここで創作者という言葉を使うだけでも負けだ。俺は、一度そこから逃げた人間なのだ。


 負けたと思うだけで、自分が創作者に戻ったと認めることになる。

 そして、俺はそれを熱望していることに気づく。


『みんな、今日はありがとう』

 みすずの声が聞こえた。

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