第73話 感謝
私は3曲ほど歌い終わって、スクリーンを見つめる。今回の選曲は、ちょっとだけ王道路線で攻めてみた。ファンの皆やセンパイに気持ちを届けるのには、それが一番だと思ったから……
絵文字でサイリウムを振ってくれるファンの温かさに、私はホッとする。ユーザー名の中には、私のコミュニティの常連さんもたくさんいた。他のメンバーの有名な推し活をしている人たちもたくさんいる。そして、見たことがない名前もたくさんある。
「届いたんだ」
たぶん、ほとんどの人は、一番の新人で前世も無名の私を目的に今回のイベントには参加していなかった。私が個人パートラストを担当すると発表された時は、「SATOOのごり押し」とか心無いコメントを放送中にされたこともある。でも、私のパートを見てくれた人たちは、ただ、純粋に私を称賛してくれた。拍手を意味する「8888」のコメント。私が推しということを意味する絵文字が、画面いっぱいに広がっていた。
涙が出そうになる。大丈夫。皆がこんなに届いたんだから、きっと彼にも……
届いている。
そして、私は次のパートのために、ポケットに入れておいた手紙を取り出した。
感謝ASMR。そう名付けた次の私のパートだ。
たぶん、泣いてしまって、ASMRにはならないかもしれない。でも、きちんと言葉にしておきたいから……
『センパイ、聞こえていますか』
私はささやくようにASMRを始める。
『今日は本当にありがとう、だね。みんながいたから、私はここまで来れた。ファンの皆、先輩たちを含むクリスタル・クリエイトのメンバーたち、こういう企画を運営して私たちを裏から支えてくれるスタッフさんたち、そして、大事な家族。何も知らない私が、幸運にもクリスタル・クリエイトのオーディションに合格して、ここまで来ることができたのは本当にみんなのおかげです』
だめだ、どうしても涙声が入ってしまう。
『ごめんね、全然ASMRになってないね。でも、本当に何もない普通の女の子だったんだよ、私。テレビや動画サイト、投稿サイトで活躍しているキラキラした人たちを羨ましそうに眺めているだけの、ね。でも、みんなのおかげでここまで来たよ。ありがと、大好きっ』




