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第68話 始まるクリスマス

 ついに、クリスマスは始まった。そして、朝11時。

 俺は、後輩の家にいた!?


「いいのか、今日は大事なイベントの日だろ? 集中とか練習とかさ」


「大丈夫ですよ。昨日もいっぱい練習したし、配信お休みにして、たくさん寝ましたからね。最高のコンディションです。それに、少しはクリスマスっぽいことしたいじゃないですか」


「だからって、朝からこんなパーティーみたいな……」


「ブランチですよ、ブ・ランチ! 朝ごはんとお昼ご飯を一緒に食べるんです。私もイベントの会場に行っちゃったら、もう休みなく動きまくりますからね。スタッフさんたちが、おにぎりとかサンドイッチとか仕出し弁当とかは用意してくれていますけど。クリスマスっぽいことを少しでもしたいんです。それに……やっと、両……いになったんだから」


 もじもじと言葉を紡ぐしずかは、大事なところはあえてごまかすように言った。「両〇い」、〇に入る言葉は何でしょうか? あまりに簡単なクイズだから、俺はあえて答え合わせをしなかった。


 ケーキにお寿司、チキンとサラダ。ばあちゃんが、奮発して用意してくれたご馳走はやっぱり美味しかった。特に、オーブンで焼いてくれたチキンステーキは、醤油ベースのたれに大根おろしや香味野菜が入っていてかなり本格的な味だ。


「美味しいね、緊張して味がしないかもってちょっと不安だったけど、やっぱりおばあちゃんと先輩と一緒に食べるクリスマスブランチは、美味しいよ」


「ああ」


「ずっと、こうしてクリスマスを過ごしたいなぁ」

 ちょっとだけ、弱気な発言をしていた。やはり、イベントもあって緊張しているんだろう。


「大丈夫だ。疲れていなかったら、明日の午後でも遊ぼうぜ」


「うん。センパイ、浮気しないでね」


「しねぇよ」


「ふふ……ケーキでも食べさせてあげよっか? はい、あーんっ」

 クリームがたっぷりのったケーキをこちらに向けてくる。反射的に口を開けると、しずかは幸せそうに笑った。


「実際にやってみると恥ずかしいな、これ」


「うん、そうだね」


 クリスマステンションでちょっとおかしくなっていたかもしれない。もうすぐ、正午だ。シンデレラよりも12時間早く、約束の時間はやってきた。


「じゃあ、そろそろ行ってくるね、一樹おにいちゃん?」

 急に戦闘モードになったしずかは、懐かしい呼び方で力強く頷いた。俺たちにとっての運命の日はついにやってきた。

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